Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/24(水)「疾風怒濤」パーヴォ・ヤルヴィ+ジャニーヌ・ヤンセン+ドイツ・カンマーフィル

2010年11月25日 01時01分26秒 | クラシックコンサート
都民劇場・音楽サークル 第583回定期公演/ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団

2010年11月24日(水)19:00~ 東京文化会館・大ホール A席 1階 1列 19番 11,000円
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン: ジャニーヌ・ヤンセン
管弦楽: ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」序曲 作品43
ブラームス: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番

 パーヴォ・ヤルヴィさん率いるドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーは、東京では今日の「都民劇場」での公演と明日の「NHK音楽祭」の公演が同じプログラムで行われ、来週11/3と11/4には東京オペラシティコンサートホールでシューマンの交響曲全曲ツィクルスが組まれている。明日の「NHK音楽祭」での公演は、当然FMラジオでの生放送や、後日のテレビ放送もあるので、クラシックのコンサートとしては派手な装いのものになるが、今日は「都民劇場」なので若干地味めである。とはいえ、プログラムは全く同じ。会場による音響と雰囲気が違うだけだ。
 ドイツ・カンマー・フィルが技術的には申し分ない素晴らしい室内オーケストラだということは十分承知していたし、大好きな指揮者の1人であるパーヴォ・ヤルヴィさんが振るということと、ジャニーヌ・ヤンセンさんの協奏曲が聴けるということで、今年のNHK音楽祭はドイツ・カンマー・フィルだけチケットを取っていたのだが、都民劇場でも良い席が取れたので、二日続けて同じプログラムを聴くことになったのである。

 会場に着いて驚いたのは、舞台裏でオーケストラのメンバーが入念にウォーミング・アップしていたこと。ブラームスの協奏曲のメロディが聞こえてくる。しかもチューニングも舞台裏できちんと合わせている。かなりの本気モードだ。やがてメンバーが入場。室内オーケストラらしく、かなり小規模編成だ。弦楽は、第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン6、ヴィオラ6、チェロ6、コントラバス3。プラス2管編成。配置はヴァイオリンが対向配置になり、第1の後ろがチェロ、第2の後ろにヴィオラとなり、コントラバスはチェロの後ろ、つまり左奥となる。ホルンも左奥、従ってトロンボーンは右奥、ティンパニは右奥端に配置されていた。

 1曲目は「プロメテウスの創造物」序曲。冒頭の和音から、切り詰めたような合奏で、あっと言わせる。主題提示部になると、小気味よいテンポで、見事なアンサンブルを聴かせてくれる。ヤルヴィさんのキレの良い指揮ぶりは、カンマーフィルになると、より一層際立って、鋭さを増してくる。オーケストラのメンバーも指揮者をよく見ていて、真剣度合いが伝わってくる。オープニングの序曲から、ものすごく緊張度の高い演奏だった。

 2曲目の協奏曲になると、コンマスさん自らが椅子を動かしてソリストのスペースを作ったりして手作り感覚なのもほほえましい。ここでのチューニングでは、オーボエからもらったAの音をコンマスさんが弦の各バートの前まで行って念入りに音合わせをしている。こういうところを見ても、アンサンブルを完璧を目指しているのがわかる。
 ジャニーヌ・ヤンセンさんが登場するとステージがパッと明るくなる。1978年生まれの32歳。体格は大柄だが、小顔の美人で、まだ初々しさの残る笑顔が素敵なヴァイオリニストだ。母国オランダでは絶大な人気のスター演奏家らしい。

 第1楽章が始まり、ソロのない主題提示部が長く続くと、ヤンセンさんはうっとりとして表情でオーケストラの音に聴き入っている。ところが、ソロが始まると表情が一転、かなり攻撃的な演奏をする人なのだ。彼女のことはもちろん以前から知っていて、技巧的にも世界のトップクラスの実力を持っていることも承知しているが、イメージはどう見ても「肉食系」。大きな身体で小さなヴァイオリンを抱え込むように持ち、太い二の腕(失礼)でガシガシ弾くのだ。技巧派というよりは力で押し切るタイプだ。
 そして繊細かつ内省的なブラームスに、彼女のパワフルこのうえない演奏が……意外に合う(かもしれない)のだ。ヤルヴィさんの早めのテンポとキレ味の鋭いドイツ・カンマー・フィルの演奏に乗ると、ヤンセンさんの肉食系の演奏が実に生き生きと浮き上がってくる。弱音部分でもあまり繊細さはあまり感じられないが、強音時の強烈な個性は圧倒的に素晴らしい。間近の席で聴いていたせいもあるが、ものすごいオーラを放っているようであった。
 第2楽章は甘美な主題を奏でるオーボエがことのほか美しかった。このオーボエさんもかなり上手い。さすがに緩徐楽章ともなれば、ヤンセンさんのヴァイオリンも抒情的な演奏に変わる。繊細な弱音が1727年製のストラディヴァリウス「Barrere」から艶やかに流れていく。優しく弾けば優しい音が出る楽器もまた素晴らしい。
 続けて演奏される第3楽章は、またまた野性的な咆哮となる。この楽章はテンポの取り方次第ではものすごく重々しくなってしまうようだが、今日のヤルヴィさんの早めのテンポとリズム感はお見事というしかない。その快適な伴奏に乗って、ヤンセンさんのヴァイオリンが生き生きと跳ね回る。鋭い立ち上がりを見せる彼女の音色は、ヤルヴィさんの巧みなオーケストラ・ドライブによって、一層際立って輝きを増し、決してオーケストラの音に埋没することはない。とにかく、躍動的なリズム感と推進力によって、ブラームスの名曲が、まったく違う曲になってしまった印象だが、それは決して悪い意味ではない。今が「旬」のふたりの演奏家が、まさに現代的な解釈によって、現代的な演奏を試みたのだと思う。「快演」であることは間違いない。ヤンセンさんの圧倒的な存在感に、Brava!!をおくろう。

 後半のメイン・プログラムは「運命」だ。この知り尽くした曲を、パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマー・フィルはどのように料理してくれるのか、興味津々であった。これまでもヤルヴィさんの演奏は何度か聴いているので、キレの鋭い演奏になるだろうとは想像していたのだが…。良い意味で期待ハズレ、いや期待を大幅に上回る演奏で、打ちのめされた感がある。
 第1楽章の「運命の動機」を短くガツンと打ち出す。後はかなりのスピード感で突き進んで行く。快速のテンポに、オーケストラのアンサンブルがピタリと決まっていて、しかもこの小編成とは思えないほどダイナミックレンジが広い。いや、小編成ならではのppのキレイさと、ffの爆発力したいしたものだ。
 第2楽章のかなり早めのテンポ設定でグイグイと押し出して行く。
 第3楽章のスケルツォは主題部でホルンが音を割るほどの迫力を出すかと思えば、トリオ部でのチェロとコントラバスで始まるフーガの早さといったら! それでもオーケストラは一糸乱れぬアンサンブルで怒濤のごとく駆け抜けて行く。
 続く第4楽章、ハ長調に転じた歓喜の主題はトロンボーンを加えた金管が吠えるところだが、弦のパワーも負けていず、全体としては素晴らしいバランスで輝かしい主題が爆発した。まさに怒濤のような推進力で第2主題に。そして、予想した通りに、主題提示部をリピート。この楽章では、オーケストラの音量もかなりのもので、あの小編成から何故こんなパワーが生まれてくるのか不思議なくらい、スゴイ。そして、駆け抜けるようにフィナーレを迎えた。全曲を通してかなり早目のテンポ設定だったが、フレーズの切れ目などに微妙な間合いがあって、決して一本調子ではないところが、ヤルヴィさんの上手いところ。

 今日の演奏は、オーケストラの各パートともキチンとしたリズムで統一されていて、キレ味抜群、それぞれの音が明瞭に分離してハッキリと聞こえる。にもかかわらず、全体のバランスが見事にコントロールされているために、アンサンブルは抜群の上手さだ。室内オーケストラの長所を見事に活かした、素晴らしい演奏だったと思う。もともとが古楽奏法と現代性の両面を追求したオーケストラであるだけに、意外性と驚きの連続ではあったが、「現代のベートーヴェンは、かくあるべき」というあまりに強い主張を目の当たりにすると、これは好みの問題ではなく、納得せざるをえない。20世紀的な重厚長大なベートーヴェンも良いし、今日のような演奏もまた素晴らしい。自分の好みで演奏の良否を判断してしまいがちだが、そんな個人的な見解などを吹き飛ばしてしまうだけの「力」を持った「快演」だった。ヤルヴィさんとドイツ・カンマー・フィルに脱帽、まちがいなしのBravo!!である。
 明日もまた、NHKホールで同じプログラムを聴く予定。2日続けて同じものを聴いてもしょうがないのでは…とも思っていたのだが、今日聴き終わってみると、また明日聴けるのが楽しみになってしまった。ブラームスも、ベートーヴェンも、とにかくもう一度聴きたくなるような、新鮮さに満ちた演奏なのである。

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