†
完全に霧に姿を変えた瞬間、視覚が完全に白濁すると同時に一気に知覚領域が拡大した――靄霧態は霧が触れたものの表面全体に触れることで形状を完全に把握し、光の反射状態から色も把握出来る。水蒸気の分子が通り抜けられさえすればどんなに狭い隙間からでも入り込め、霧の及ぶ範囲においてその内側にあるものを瞬時に掌握出来る。
まるで街そのものの精巧なミニチュアを眼前に置いて眺めている様な気分で . . . 本文を読む
光の壁が形成されるのを確認したからか、アルカードはそれでこちらから視線をはずして再び蜘蛛に向き直った――体の再構築を終えた蜘蛛がまるでターンテーブルの上にでも載っているみたいに、足も動かさずにその場でぐるんと旋廻してアルカードのほうに向き直る。
「よぐもやっでぐれだな、小僧《ごぞう》よ――今度《ごんど》ばざっぎの様にばいがんぞ」 それは蜘蛛の声なのだろうか、耳には聞こえていないのに、くぐもって聞 . . . 本文を読む
†
携帯電話はまだ充電中だが、電話をかけることは出来る。充電しながら電波を出すと電池が傷むのだが、すでにへたっているのでもうどうでもいい――さっき電池が駄目になっているのに気づいた時点で、子供たちを家に送った帰りにでも新品を買ってこようと決めたので、もう用済みなのだ。
そもそも、充電しながら電話やメールを使ったりすると傷む時点で、携帯電話の電池には問題があると言わざるを得ない―― . . . 本文を読む