サンデーたかひろ

絵描き・ながさわたかひろの制作実況 “from Machida, Tokyo”

失恋 I.K.

2023年06月04日 | 愛の肖像画

 5月28日、日曜日、○窪駅に直結のルミネ6階○みうりカルチャー○窪で、この日一回だけの講座が開かれた。講師は著名な文学者である。これまでにも講演会などには伺ってきたし、何しろ学生時代に大変な影響を受けた本の翻訳者である。絵を描くということが分からなくなっていた時期、そんな状況から這い出るための心のよりどころになった本だ。売れそうな本は端から売ってしまった今の僕の薄い本棚だけど、そして氏の本もそのほとんどは手放してしまったが、それでも手元に置いておきたかった本が数冊並んでいる。「愛の肖像画」に取り込んでいる今、氏を描きたいと思った。

 講座の受講者は20人ほどだったか。講座後、関連書籍を購入するとサインがいただけるとのことで、別室にてサイン会が開かれた。お声がけしようと廊下に立って待っていると、係の方に「並んでください」と言われ「あ、いや、サインではなく、個人的にお話ししたいことがあって」と答えると「では一番後ろに並んでください」と言われ、最後尾に並ぶ。頃合いを見計らって後ろに並ぼうとする人(おそらく教え子)に「自分はサインじゃないので」と言って先を譲り、その後ろへ、後ろへと回る。結局、ほぼほぼ教え子の皆さんだったらしく、各々楽しげな会話が続く。そしてサインが済んだ後もその場から離れようとせず、次の人の会話に参加する。この後、先生を囲んだお食事会も予定されているらしい。

 僕の前の人、つまり最後の方がひとしきり話し終えると「では、場所を移しましょうか」ってな感じで、なんとなく片付けが始まりそうになり、慌てて声をかけた。 
「す、すみません。あのぁ、〇〇さんを描かせていただけませんか?」
「えっ?僕を描くってどういうこと?」
「あ、はい。自分、これまで影響を受けてきた人を描くという活動をしており… あ、これ、それをまとめた本なんですが」
と拙著『に・褒められたくて』を差し出すと、表紙を一瞥して、
「ああ、僕の嫌いな人ばっかり。みうらじゅんとか大っ嫌い」と。ちょっとびっくりしちゃって、しどろもどろになりながら
「す、すみません。でも、唐十郎さんも描かせていただきましたし」
「親友だけどね。でも、この唐は似てないなぁ。唐ってのは、もっとアッケラカンとしてるよ。しかも男ばっかり。あ、ここに女性がいるね。これは誰?」
「あ、その方は大林宣彦監督の奥様で、映画プロデューサーの大林恭子さんです」
「うわぁ、大林も好きじゃないな。僕はここに並びたくない」と。
もうこの時点で挫けそうなわけだが、いや、すでに終わってるのだが、
「お写真を撮らせていただけたら、思いを込めて描きますので。写真、ダメですか?撮らせていただけませんか?」と頑張った。
いや、もう声がかすれて消え入るようで、どこまで聞き取ってもらえたか分からないほどだったのだが、
「まぁ、写真はいいけど、マスクは取らないよ」と。
「え?… あ、ハイ。宜しくお願いします」と言いながらも、カメラを持つ手が震えてマゴマゴしていると
「はい、もういいね。じゃあお終い」と遮られ、立たれてしまった。その言葉尻にようやく一枚だけ、パシャ。
今まさに立ち上がろうとする、そんな一瞬の写真。本は受け取ってもらえず、そのまま再びリュックに仕舞い込み、その場を離れ、帰路に着いた。
 ほぼほぼ知り合いと思われるサイン会。各々懐かしみながら和気あいあい進んでいたものが、あの時間に一転した。その場に残っていた人たち(全員女性)の視線が痛かった。こうして思い出すだけでも辛い。

 これ、描けるのかな?

 心が折れそうになっていたその翌日、高田先生から連絡が入った。「来週5日(月)13時にスタジオに来れるか?」
前回お会いしたとき、「愛の肖像画」として三たび描かせてくださいとお願いし、お写真を撮らせていただき、描き、見てくださいとお伺いを立てていた、その返事だった。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『愛のROLLY』 | トップ | 『愛の高田文夫』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

愛の肖像画」カテゴリの最新記事