「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

与 勇輝の人形展

2008年04月17日 | みやびの世界
 もう二十数年も前のことですが、人形を作っていた時期がありました。ことばの通じない海外の暮らしの中で、針を動かし、ちいさな人形を本を頼りに作っては人にあげていました。
 人形作りは、弟嫁の、いまは亡き母君に手ほどきを受けたものでした。人形の顔に長い針を頭の後ろから刺して、目や口の表情を作る作業が苦手で、自分の顔にどうしても似てしまうので、いつのまにか遠ざかってしまいました。

 今日は「与勇輝の人形芸術の世界展」に招待券をいただいていたので、あまり興味のなさそうな夫を誘って小倉まで出かけました。
 新聞などで紹介されているとおり、活き活きとした表情と、詩情あふれる表現は、布という素材のやわらかさもあって、ゆったりと静かに語りかけてきました。
 殊に、繊細に表現された何気ないしぐさの指の表情が、人形たちの気持ちを伝え、物語るのに感心しました。
 着物にしても、人形のために特別注文したのかと思うくらいに、ぴったりの細い縞や絣、花柄が選ばれていました。
 写実的でいて、ファンタスティックな叙情は、見るものに郷愁と安らぎをもたらします。
 チラシの文言に「自然体ですっくと立ち、小さな体いっぱいに魂の輝きを放つ人形たち。私たちが忘れかけていたふるさとの原風景を思い出させてくれます。」とあることばに言い尽くされています。

 今回の展覧会はパリ・バカラ美術館での会期を終えて帰国した記念展で、与さんが敬愛する小津安二郎監督へのオマージュ作品20体を中心に代表作と合わせて130体が並んでいました。
 明治から昭和初期の風物詩といった人形たちのほか、妖精や、携帯のとりこになっている現代の若者風俗まで変化に富んでいいますが、やはり、郷愁を誘うのは、木綿の普段着の子供たちの姿でした。それは、私の幼い日にはまだ実在していた懐かしい風景でした。

東京物語(小津監督)
 東京の子供たちの所で自分たちがあまり歓迎されていないのを感じて、周吉がとみに「もう帰ろうか」と呟いている場面。
 同じ展覧会の人形は、名古屋松坂屋での展覧会記事に画像が多数出ています。ご覧になりたい方はリンクからどうぞ

 人形は立体ですから、画像ではイメージが異なります。特に後姿がいいものが多かったようです。「かえり道」の安心しきって頬をくっつけた子と、負ぶっている子の愛らしい人形で、斜め後ろから見たときの体の傾きに情緒がありました。。