By 変態ベース
今、目の前には二冊の「スイング ジャーナル」がある。一冊は1974年4月号。私が初めて買ったものである。他のバックナンバーはすべて処分してしまったが、最初の一冊だけは記念に保存してあったのだ。表紙を飾るのはMJQの面々。彼等のニューアルバム『Based on Bach & the Blues』は、タイミングよく4月の来日公演に合わせて発表された。表紙の写真はアルバムジャケットをそのまま借用している。この年のツアーを最後に、彼等はいったんグループを解散してしまった。(尤もそのあとすぐに再結成されたのだが)2月のチック コリア& RTF、3月のビル エヴァンス トリオ、それに4月のMJQ。私がジャズにハマり始めたのがこの頃だった。
もう一冊は2010年7月号。「スイング ジャーナル」の最終号である。創刊以来、63年の歴史に幕を下ろすことになった。突然の休刊をKJSの掲示板で知った時は、率直に驚きというよりショックに近い衝撃を受けた。数年前、ワルツ堂の閉店を聞かされた時もかなり凹んだが、今回もそれに近いものがある。
ジャズの広報誌、とりわけ新譜やコンサートの情報、またジャズ界の動向について、ことこまかく、いつもホットなニュースを得られるという点に関しては大変重宝していた。しかし、個人的な感想を申せば、特に最近の「スイング ジャーナル」には少なからず不満を感じていたのも事実である。特定の邦レーベルとの蜜月というよりは、癒着に近い構造は目に余るものがあった。ディスクレヴューを見るたびに、どこかトゲトゲしい気分にさせられたものだ。また、声の大きい論者の意見が幅をきかせて、雑誌としてニュートラルなスタンスが保持できていなかったようにも感じられた。それでも尚、新録、再発を含め、幅広く網羅した音楽情報は「スイング ジャーナル」の独壇場であったはずだ。近年はジャズ喫茶で頁をめくる程度で、自分で買い求めることはなかったが、いざ休刊といわれると困ったなというのが本音である。いやそれよりも私の気分を落ち込ませる原因は、「スイング ジャーナル」という、ジャズファンにとって象徴的な雑誌が休刊に追い込まれたという現実だ。何故ならば、それがジャズの未来を物語っているように感じるからだろう。
ここ数年ジャズという音楽は、かつてないほど広く浅く世の中に浸透してきた。街を歩いていても、或いは飲食店に入っても、我々はジャズを耳にする機会が増えたことを実感している。それだけジャズの間口やすそ野が広がったことは明白である。しかしそれはあくまでも広く浅くであって、熱烈なジャズファンが増えたかといえば、全く期待は裏切られている。「スイング ジャーナル」は、まさにその熱烈なジャズファンによって支えられてきた。同誌はジャズの深化と普及に努力してきたが、皮肉にもその設計が大きく外れたと言わざるを得ない。
ネット配信や複製の氾濫によって、ジャズのみならず音楽CDのマーケット全体も萎縮してしまった。元々流通量の少ないジャズ業界のことだから痛手も深刻である。新譜情報等を売りものにしてきた雑誌には、CDが売れないとその存在理由が危ぶまれる。またiPadなど携帯端末の登場も向い風である。それは雑誌業界全体に対する、大きな脅威であるはずだ。