「うちの犬が床下にもぐって、一週間ほど出てこなくなりました。その間、飲まず食わずでした。」
自分の愛犬がこんな事態になったら、さぞ心配するであろう。
実はこのケース、飼い主だった女性が結婚して家を出て行ってしまったことが原因だった。
この方には30歳の未婚の娘がいて、ある日、友人から子犬をもらってくる。その子犬を可愛がる
こと、まるでわが子のようだった。もちろんベッドを共にし、彼女が会社から帰ると、子犬は片時も
そばを離れなかった。
「私、結婚なんかしません」
それが娘さんの口癖であり、両親との穏やかな生活にすっかり満足しているようだった。しかし
そのような平穏無事の暮らしも、突然、恋がやってくる。彼女は、本人も信じられぬ急な運命の
回転に、心浮き立つばかりで、鳥が飛び立つように嫁に行ってしまった。
犬は、娘さんがいなくなり、うろたえた。幸福な生活から最も大切な部分を奪われてしまい、どう
していいのか分からなかった。
拗ね、床下にもぐりこんだ。どうなってもいいやと思う。捨て鉢な気分になると、腹も減らず、水
さえも欲しくなかった。そして、床下の暗闇の中で目を閉じていると、いなくなった人への想いが
募るばかりだった。
飼い主に対する犬の純粋で真剣な想いがとてもよく伝わってくる。
昨日紹介した、畑正憲「ムツゴロウの動物交際術」からの一部抜粋である。
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