オイラは、ボイラ 寒がりボイラ

6月から9月まで迄の4か月間は、失業状態ですが、冬期間はボイラーマンとして出身高校を暖めています。

普通自動二輪実技試験を合格した美也

2017年04月10日 20時53分37秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
今日は自動車学校でバイクの卒業検定がある。
西田主任に話をしてあったので 午前中で仕事を上がり 14時から検定を受けた。
難関の一本橋もスムーズに乗り上がり、8秒かけてゆっくりバランスをとりながら
渡りきった。大きなミスはないと自分なりに振り返り、満足感に浸った。
少し待ち時間があり、その後の結果発表で合格を言い渡された。美也は「やった。」
とガッツポーズをした。合格関係の書類をもらい、後は試験場に行き手続きすると、
免許証に普通自動二輪が追加される。スクーターは8月10日に届く事になっていた。
美也はバイクに乗るのが待ちどうしくて、たまらない気分だった。
彩夏にもメールで、合格した事を伝えた。「美也君、おめでとう。私も早く乗せてね。」
と彩夏が、返して来た。「まだまだ、無理!」とメールした。もう少しでお盆休みだ。
カレンダーで見ると今年は 、12日が土曜日なので15日までの4日間が休日になる。
久しぶりで彩夏とデートが出来そうだ。直接電話して、都合を聞こうと美也は思った。
翌日の夜に彩夏に電話した。「お盆休みある。」「俺は12日から15日まで休みだけど、
彩夏はどうなの。」と聞くと彩夏は張り切った声で「12日なら私も空いているわ。」
「他の日は、墓参りや家の用事があるから、残念だけど会えそうにないの。」と話して
来た。「じゃ、12日に何処かで映画でも見ないか。」と美也は話した。「いいわね〜」
と彩夏が言い、「私、名探偵コナンが観たい。」と話した。「コナンなら俺も大好きだよ。」
と美也が同調して言い、二人でお互いに笑った。無邪気な二人だった。


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暑さ本番、工場内は35度以上

2017年04月08日 07時02分55秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
 八月に入り暑い日が続く中、美也は工場の製品管理をしていた。
出荷の時は、リフトで製品を積み込み、在庫確認などの仕事があり、結構忙しい。パソコンで在庫管理している
ので、実際の製品の数合わせをしなければならないので、工場の機械が止まった後も残業をしなければならない。
工場内は、一部冷房も効いているところもあるが、殆どの場所は、気温が30度以上ある。美也が働いている倉庫は
熱がこもっていて、35度になる時もある。工業用扇風機で風を廻してはいるがいつも汗でべとべな状態だ。
6月は65時間の残業で7万円の手当てが付いた。休みの日と水曜日の夕方からは自動車学校に行くので、殆ど、
自分の自由になる日がなく、彩夏とはしばらく逢っていない。電話で、現状を伝えると「美也君、急がしそうで大変ね
バイクの免許がんばってね。」と言ってくれた。「免許証が来たら、中古のスクーターが届くんだ。乗り慣れたら、
鎌倉までツーリングに行くよ。」と彩夏に伝えると、「うそ~、バイク買ったの?すごいね。乗るの楽しみでしょう。」
と言われ、少し自慢げになる美也だった。

 浦嶋製作所は、自動車部品の他に新規契約で、アルミ製のボートの製作を始めることになった。
災害用で使用する15フィートタイプのボートで、湖や沼、川で釣りにも使用で来るタイプであった。
長さ4.5m、巾1.5mで、深さ60cm程で軽自動車ぐらいの大きさだ。4人乗りの小型ボートだ。
社長の知り合いの造船所から頼まれ、受注生産するらしい。船舶専門の技師が出向して来て、浦嶋製作所の
職人を指導しながら製造する様だ。アルミ加工は得意分野の会社だけにボート製作を依頼してきたのだろ。
美也には直接関係のないところで仕事が進むので、負担はない。近々、工員を数名採用するらしい。
多角経営に乗り出した理由は、自動車業界も新車が売れず、受注が減って来た様だ。更に自動車メーカーが
製造部品の単価を3パーセント値引くように要求してきたらしい。孫会社の様な存在だけに、立場は小さい。
大手自動車企業の要求は呑まずにはいられないのだ。今後、浦嶋製作所は、積極的に多角経営に乗り出すだろう。

 美也は自分は、倉庫の製品管理だけでは終らないと強く思っていた。
いずれは、専門性の高い金属加工の仕事に就きたいと考えていた。物を作る楽しみを実感したい美也であった。
出世こそは望んでいなかったが、会社に認められるような仕事をして、給料も人より多く欲しいと思っていた。
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バイクの教習順調、梅雨明けて盛夏本番。

2017年04月03日 07時57分23秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
 7月26日、関東地方の梅雨明け宣言が出た。これからは真夏の暑さがやってくる。
美也は、体重が5kg程減った。初めて経験した関東の蒸し暑さの為、食欲が無いのだ。寮の朝食とお昼のお弁当は、
キチンと食べていたが、20時以降に食べる夕食はコンビニでサンドイッチやおにぎりが多く、軽食ですませていた。
自動車学校の方も、残すところ実技5時間で、見極めが通ると検定である。このまま順調に進むと八月の初めに検定を
受けれそうだ。美也は免許証が交付されたら直ぐにバイクを買おうと思っている。バイク専門誌を見ていると、車検の
無い排気量250ccのビックスクーターが目に留まった。車体をプラスチックで囲んであり、見た目がおしゃれなバイクだ。
新車の価格が高く、60万円~78万円位する。これを中古で探しても結構な値段が付くだろうと美也は考えていた。
7月30日(日)は午前中に自動車学校の教習があるが、美也は学科講習を終えていたので午後からは何も無く、久しぶりの
休日であった。船橋にあるレッドバロンに行っていいバイクがないか、探そうと思った。店内にはたくさんの中古バイクが、
並んでいた。1300ccの大型バイクから50ccのスクーターまでさまざまなタイプがあり、色々見て周っていると「どんな
タイプをお探しですか。」と若い男性店員が声を掛けて来た。「250ccのスクーターで、10万円ぐらいで買えるのってあり
ますか」と美也が言うと「少し待ってください。」といいカウンターの中で書類を探していた。5分ほどで戻ってきて「お客
さん、いいのがありますよ。ヤマハマジェスティー250・2005年製で程度は極上です。距離は3万6千km走っていますね。」
「整備すべて込みで価格が18万5千円になります。」と言って来た。書類の写真を見せてくれたが、濃紺で確かにかっこいいし、
綺麗なバイクだ。美也は「予算をかなりオーバーしてるので、安くなりませんか。」と聞くと、「ちょっと待てください、
店長に相談してきます。」と言い事務所の奥のほうに入っていった。しばらくして戻ってきた店員は笑顔で「月末なので、
今日決めていただけるのでしたら、すべて込みで15万9千円でどうでしょうか?」と言って来た。美也は少し考えてから、
「現金で支払いますからもう少し何とかなりませんか。」と店員に話した。困った顔をした店員は再度、事務所に引っ込み、
5分ぐらいすると今度は笑顔がなく真剣な表情で戻ってきた。「後、1万円引いて14万9千円でお願いします。これ以上は
もう無理なんです。」と切実な感じで話した。美也もバイクを早く欲しかったので、これを買う事にした。「10万円は、
直ぐに用意できるけど、残りの4万9千円は8月の25日の給料日でもいいですか?」と聞くと「ほんとは納車の時に、
全額頂きたいんですが、まあ良いでしょう。これから整備等で約2週間後に納車します。よろしいですか。」と言って来た。

 6月に貰ったボーナスを貯金せずに10万円だけ普通口座に残しておいた。このお金と7月と8月の給料から2万5千円
づつ取り、14万9千円を支払おうと美也は考えていた。就職して初めての大きな買物だ。それも分割払いではなく、ほぼ
現金払いだ。バイクの納車が楽しみだ。初めは交通量の少ない道路を走り、他の車に慣れなけれがならない。ある程度、自信
が付いたら高速道路に乗り、彩夏の住んでいる鎌倉の方にも行って見たい。これからバイクで青春しようと考える美也だった。
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教習所に入校

2017年04月01日 20時21分11秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
7月12日(水)夕方に葛西橋自動車教習所のワゴン車が水心寮まで美也を迎えに来た。
今日からいよいよ普通二輪車の教習が始まる。400cc迄乗れるバイクの免許を取得する。
美也は、自転車には乗れるがバイクには乗ったことがない。教習用の400ccバイクにまたがると
足は着くが、クラッチ操作でギアを入れて発進するのが、なかなか難しい。初日から苦労して
しまった。3日目になるとだいぶスムーズにコースを走れるようになっていた。難関と言われる
一本橋走行は、最初の1時間では橋に乗る事が出来なかった。スピードで勢いをつけ、乗っかた
ところでブレーキをかけゆっくりと進む。要領を憶えると以外と簡単だった。彩夏とは会え
ないので電話とメールで連絡を取っていた。「美也君すごいね、バイクの免許取ったら私を
後ろに乗せてね。」と彩夏は楽しそうに話していた。「初心者は1年間2人乗り禁止なんだ。」
美也が学科教習で習った事を言うと「ウソ、残念、こっそり誰もいないところで乗せてよ。」
とワガママを言う彩夏であった。「バイクって高くないの 、いくらで買えるの?」と彩夏が
聞いて来たので「メチャ高いよ、少し貸してよ。」と冗談半分で答えると、彩夏は「私、
貯金ゼロ」と笑いながらふざけた感じで答えた。美也は相手にせず、しばらくの間会えない
事を伝えた。
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浦安に出てきて3ヶ月、ボーナスにビックリする美也。

2017年04月01日 11時08分23秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
 美也は北海道を後にして、3ヶ月がたった。
浦嶋製作所での製品管理と出荷の仕事は、西田主任が丁寧に教えてくれているおかげで、随分覚えた。リフトの運転も上達し、
スムーズに荷物を運んだり、積み上げたりする事が出来るようになっていた。西田主任は、自分のしてきた仕事を美也に任し、
退職する為に、細かな裏技や自分が考えた要領を詳しく教えてくれた。平日は、仕事が忙しく毎日夜8時近くまで残業していた。
寮に帰って、コンビニの弁当を食べる事が多くなり、定食屋にはあまり行かなくなっていた。洗濯機に洗濯物を入れて、風呂に入り
一息つくと、10時をまわっていた。テレビを見て11時半ごろには寝る生活が続いていた。

 6月25日は、給料日であり、又、初めてのボーナス支給日であった。
美也は勤めてまだ3ヶ月なので、万度にはでないと思っていた。マツダの出した新車が予想以上に売れていて、その影響で浦嶋
製作所も受注が増えていて利益を上げていた。美也には基本給の1.3倍分の24万円が支給された。長く勤めている工員には、
1.8ヶ月分支給されたようだ。美也は十万円以下だろうと思っていたので、ビックリした。ボーナスが出たら50ccのスクーターを
買おうと思っていたが、欲が出てもっと大きなバイクに乗りたくなった。彩夏の住む鎌倉までバイクで行きたいと考えていたのだ。
其のためには、普通二輪の免許を取らなくてはならない。自動車学校に通うには、休みの日だけでは足りない。免許費用は12万円だ。
いろいろ考えた末、美也は西田主任に相談してみようと思った。「休みはくれないだろうな。」と思っていたが、以外にも西田主任は、
「水曜日なら15時で上がっていいぞ。」「俺一人で十分こなせる仕事量の日だからな。」と言ってくれた。自動車学校を調べてみると
日曜日に一日と水曜日の夕方の教習だと1ヶ月ぐらいで普通二輪(400cc)の免許が取れそうだった。美也はバイクの免許を取ることを
決めた。十万円も出せば、中古のバイクも買える事も調べて分った。7月中旬から近くの葛西橋自動車教習所に通う事にした。
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彩夏がロマンスカーに乗りたかった訳

2017年03月31日 21時57分02秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
 えのしま75号は、二人を乗せて17:50に新宿を出発した。
全席指定の特急列車で藤沢までは、約55分で到着する。藤沢は彩夏の住んでいる鎌倉に近く藤沢からは、バスで家まで帰る事が出来るらしい。
彩夏がロマンスカーに乗るのは二度目であった。高校生の時に友達と女同士で、この特急に乗り新宿まで遊びに来た事があった。
その時は、車両に若いカップルが結構乗っていて、車両全体が甘い空気で満ちていて、彩夏は羨ましさと孤独感に包まれていた事を
今でも忘れずにいたのだ。今回、美也とのデートでロマンスカーに乗れた事は、彩夏にとっては、5年ぶりのリベンジであった。
美也は窓側の席で、彩夏はその直ぐ隣に座り、少し体を斜めに倒して美也の方に接近した。2人は楽しそうに、景色を見ながら、
たわいのない会話をしていた。「彩夏は、気軽に新宿まで行けていいよなぁ~。俺なんか、ずっと田舎で暮らしてきて、今回初めて
都会を経験してるんだぜ。」と美也が言うと彩夏は、「私は北海道に行った事が無いから分らないけど、雪がたくさん降るんでしょう?」
と聞いてきた。「今度、一度北海道旅行をしてみたいわ。」美也は首を振って答えた。「ど田舎で寒いし、何も無いよ。」彩夏は、「札幌は、
大都会なんでしょう。テレビで見たことがあるわ。」「ジンギスカンとかカニ将軍、札幌味噌ラーメンとか、どれも食べて事が無いの。」
二人の会話は弾みお互いに肩と肩がくっついて、より親密になっていた。彩夏も美也に甘えるように話しかけていたので、周りから見るとかなり、
親密なカップルに写っていた。彩夏がロマンスカーに乗りたかったのは、美也と二人で恋人気分を存分に味わいたかったからであった。
18:45藤沢に着いた2人は、名残惜しそうに分れて、彩夏はバスで帰宅の途についた。門限は無いが、父が銀行員なので何かと
うるさいらしく、20時前には家に帰りたいと話していた。美也はJRで東京経由で20時40頃に浦安に着いた。
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彩夏と新宿で待ち合わせ

2017年03月27日 07時45分52秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
 6月18日(日)梅雨空は中休みで、今日は晴れている。しかし蒸し暑さは変わらない。
美也は、新宿駅西口の交番前に10時50分に着いた。5分ぐらいすると彩夏がやってきた。薄ブルーのミニのワンピースから綺麗な足が
申し訳なさそうにでていた。美也は、改めてスタイルのいい彩夏に見とれてしまった。2人はルミネエスト新宿に行き、彩夏はショップで
洋服を楽しそうに選んでいた。美也はいつも思っていた事があった。男性の洋服売り場の5倍以上もある女性の洋服売り場の事だ。
世の中の男女の比は、5:5なのに洋服売り場は1:5なので、女性は男性の5倍は洋服を買っていることになる。それでも女性服売り場は
いつも人で賑わっている。日本のファッション業界は、儲かっているんだなぁ~と、改めて考えさせられた美也であった。
 彩夏は、ターコイズブルーのリボンが巻かさった麦わら帽子をかぶり、「どう、似合う?」と美也の顔を見た。「ああ、いいよ。」と
美也が言うと「わたし、帽子が好きで7つ持ってるの。これ買おうかしら。」と彩夏は楽しそうだ。美也は、退屈であったが彩夏の
買物に付き合っていた。間もなく1時だ、2人は昼食を7階のレストラン街で食べる事にした。店の名前が気に入った、「つばめグリル」
美也はハンバーグを彩夏は、シーフドグラタンを注文した。しゃれた店で中々の味だ。美也はハンバーグには、うるさかった。子供の時に、
母がよく作ってくれた特大のハンバーグステーキが大好きだった。昼食後もファッションモールをブラブラし結局、彩夏は洋服を3着と帽子を
買い、大満足の表情だった。2人はカフェで夕方まで過ごし、17時50分発小田急の片瀬江ノ島行、ロマンスカーに乗り込んだ。

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梅雨入りの関東にビックリする美也

2017年03月25日 20時09分42秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
6月には入りジメジメした天気が続き、7日についに梅雨入りした。
美也は、初めての梅雨に悩まされていた。湿度が異常に高く、蒸し蒸しで汗が出てくる。
北海道では、体験した事の無い天候であった。気温はそれ程高くないのに湿度だけで
こんなに暑苦しく感じる。湿度は80%以上あり、食欲が落ちてしまう。気温はせいぜい26℃程だ。
久しぶりに、沢田彩夏にメールした。「どこかエアコンの効いた快適なところで、会わないか?」
と送ると3時間後に、「ロマンスカーに乗ろうよ。」と返ってきた。「18日の日曜日に私、新宿まで
お買い物に行きたいなぁ。」「11時頃に待ち合わせて、お買い物付き合って。」「お昼ごはん食べた
後もデパート巡りして、夕方は小田急のロマンスカーで藤沢まで乗って涼みましょう。」
「私、17時50分に新宿駅を出発するロマンスカーを予約しておくね。いいでしょう。」
小田急ロマンスカーとは、全席指定席の特急列車で展望車が有る電車が人気で、いい席は直ぐに
売り切れる。片道約50分程で、藤沢駅に着く。藤沢は彩夏の住んでいる鎌倉に近い。
「俺は乗り鉄では無いけど、涼しい電車ならいいよ。」と返した。「じゃ、決まり、11時に新宿駅西口
で待ち合わせね。楽しみにしてるわ。」彩夏と2度目のデートの約束をした美也だった。

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工場長から夕食をご馳走になる。

2017年03月20日 19時46分41秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
5日間のゴールデンウイークも終わり美也は、倉庫での製品管理を大分覚えて、リフトの運転も
スムーズに出来るようになり、仕事に余裕が出てきた。間も無く梅雨入りなのか、ぐずついた
天候が続く5月の最後の週の金曜日に、17時に仕事が終わると工場長から「今日晩飯を食べに
行こうや。」「なんか様でもある?」と声がかかった。「いいえ、大丈夫です。」「僕だけですか」
と聞き返した。すると、「ああ、チョット話があるんだ。」と言う。工場長のお気に入りの店に
案内された。和風居酒屋で、魚料理が主体の店の様だった。工場長は生ビールとアジの開きを
焼いた物を頼んだ。「何でも遠慮せずに注文しなさい。」と美也に言って来た。「はい、それじゃ
鯖の味噌煮定食とジンジャーエール」「あとホヤ酢も下さい。」と美也が注文した。「ホヤ酢なんて
シブイもの好きなんだなぁ。」と工場長がニヤッとした表情でつぶやいた。はじめに飲物が出て来て、
2人は乾杯をした。店が混んでいて料理が出てくるまでには、時間がかかりそうな雰囲気であった。
工場長が、話を始めた。「実は、西田主任の事なんだけどな、どうだ、上手くやってるか。」「はい、
色々教えてもらっています。」と美也が言うと、「そうか、それは良かった。」と工場長は、安堵の
顔で「西田主任は、口数が少ないからな、下に付いた者が長続きしないんだよ。」「真面目で良い
人柄なんだけどな。」美也は、同調する様にうなずいた。工場長はビールを半分程、飲み干してから
「そうだ、ビール飲めるんだったら飲んで良いんだぞ、注文するか?」と美也に問いかけた。
「いいえ、結構です。あと1年ぐらいは未成年なんで、遠慮しときます。」とキッパリ美也はいった。
「そうか、エライな自分。」と工場長は言い、自分のビールのおかわりを頼んだ。少し酔いが入った
ところで、工場長は「西田主任から退職願が出ているんだわ。」「前に住んでいた大阪に母親と
一緒に帰りたいらしく、今年いっぱい12月で辞めたいと言って来た。」と美也に話してきたのだ。
「仕事に慣れた男を失うのが、今は辛いところだがな、仕方ないか。」と、うなだれ気味になり、
少し間を置いて、今度は美也の顔をしっかり見つめて「そこでだ北石君、君が西田主任の後がまに
なってくれないかね。」それを聞いて、美也は驚いた。まだ入社して間もない美也に、真剣な表情
で西田主任の後任を頼んできたのだ。工場長は、西田主任が半年で北石を一人前に育てると約束
して来た事を美也に話した。困った美也は、「あと半年で西田主任の様に仕事をこなす自信が
ありません。」と工場長に訴えた。「北石君、西田主任は君なら出来ると太鼓判を押しているんだよ。」
「大丈夫、梱包のパートさんも9月から1人増やす予定だし、西田主任は今まで以上に君にあれこれと
指示を出す事だろうし、4〜5ヶ月もあれば一通り出来る様になるはずだから安心して仕事を覚えて
欲しい。」ここまで言われると返す言葉が無い美也であった。アジの開きと鯖の味噌煮定食とホヤ酢
が出され、二人はしばらく食べる事に専念した。二杯目のビールを飲み終えた工場長は、熱燗と
おさしみ盛り合わせ二人前を注文して美也に「君も何か飲み物注文して。」と言って来た。
美也は、ウーロン茶を注文した。工場長は、「北海道なら新鮮な刺身がたくさんあるんだろう。」
「関東は、マグロが美味いぞ。中トロもいいけど、赤身も美味い。茨城沖で獲れた新鮮なマグロだ。」
美也は、「僕はホタテとホッキ貝が好きなんです、ホタテは、家のすぐ前の海で養殖ものが、
上がるんです。」と話した。5分程でお刺身盛り合わせと熱燗とウーロン茶が出てきた。マグロ赤身、
ブリ、赤貝、イカ、甘エビの五点盛りはボリュームがあり、特にマグロとブリは大きな切り身であった。
美也は迷わず、「ご飯頼んでいいですか。」と言い、中盛ご飯を頼み、関東の刺身の味を楽しんだ。
赤身は、濃厚なマグロの味であり、ブリの脂もあっさりとしている。赤貝、イカは歯ごたえが良く、
シャキシャキしている。甘エビは人差し指より太く、味が凄く濃い。美也が北海道で食べていた
刺身とは比べ物にならない味だった。工場長は、熱燗で更に酔いが増し、「北石君頼むな。」と
美也に、檄を飛ばした。とりあえず、がんばってみようと美也は、覚悟を決めた。






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動物園で、素顔の彩夏を知る。

2017年03月17日 08時50分04秒 | 北のポエム・北海道発のエッセー
 横浜の金沢動物園は、草食動物が中心の動物園のようであった。
広い敷地にたくさんの羊、カモシカ、ヤギ、牛などが放牧されていた。彩夏のお目当てのキリンは2頭の子供キリンを入れて
全部で4頭いて、首を長くして草を食べていた。ちょうどお客の近くに餌を置いているのでキリンの捕食している顔が、間直で見れた。
確かに、彩夏の言うようにキリンは愛くるしい顔をしており、ずっと見ていても飽きない。いつも人だかりが出来る場所だった。
ほかにはカンガルーやコアラなども見ることが出来た。以前テレビで、北海道の釧路にいる丹頂鶴を見たことがあったが、生で丹頂鶴も
見る事が出来た。そもそも美也は、動物園や水族館は好きでは、なかった。子供の時に小学校の見学旅行で行って以来であった。
しかし、カップルの初デートの場所には絶好な所だと、この時感じた。入園料も安く、二人で時間を楽しく過ごせて、動物というアイテムで、
カップルがより親密になり、接近しやすい環境だ。知れず知れずに、美也と彩夏の距離が縮まっていくのが判った。

 動物園は金沢自然公園内にあり、少し外れるとバーベキューが楽しめるエリヤがあったりして、静かな場所もたくさんあった。
二人は、公園内を歩きながら、色々な話をした。彩夏は、鎌倉生まれの鎌倉育ちで父親が銀行員で、家が鎌倉駅から少し離れた
源氏山公園付近にあると言っていた。鎌倉高校を出てから東京でアパレルの店員を2年ぐらいした後、田舎が恋しくて家に戻り、
今は、江ノ島のカフェで働いているとの事だ。家からバスと江ノ電で通っていると言っていた。

 美也が北海道の高校を3月に卒業してフェリーに乗り、あてもなく東京を目指し、浦安の工場に就職が決まった話をすると、彩夏は、すごく
驚き、尊敬の眼差しで美也を見入った。「そういえば、美也君、少しなまってるね、フゥフフ」と笑った。「そう?結構気にして標準語
使うようにしてるんだけどね。」「わかるわよ、こっちの人じゃないアクセント使う時があるもの。」美也は少し彩夏との距離が生じたと
感じた。まだ、東京人に成りきれていない自分に少し落ち込んだのだ。それを察した彩夏は、「美也君、北海道のクマってすごく大きいって
ほんとなの?」「私、テレビで見たんだけど、川で魚を捕ってる姿がメチャ大きかったよ。」と聞いてきた。美也は、自慢げに話し出した。
「ヒグマは大きいよ。立ち上がると2~3mあり、体重は300~500Kgもあるんだよ。特に川で鮭を捕って食べているヒグマは、
メチャクチャ太っているんだ。」「本州のクマはツキノワグマで、胸に白い三日月の様な模様があるよね。」彩夏は驚いた。「北海道の人って
クマに詳しいんだねぇ。」美也は自慢げな表情を見せた。中学3年の夏休みの自由研究でヒグマの生態について調べたのを覚えていたのだ。
「ねえねえ、北海道のお話をもっと聞かせてぇ。」と彩夏は甘えるようにせがんだ。その様子が、とても23歳になろうとする女性には
見えなかった。明らかに自分より、年下の女の子を演出しているように感じる美也であった。

 彩夏は、昼食に美味しそうなサンドイッチをたくさん作ってきた。
公園の人のいない一角のベンチに座り、「私、料理はあまりしないんだけど、サンドイッチだけは得意なの。」「たくさん食べてね。」と
彩夏は包みを広げ、美也に言った。彩りがすごく綺麗である。ハムサンドを1つ摘んで食べた美也は、「旨い、これジューシーな味。」
と叫んだ。ニコニコしながら喜びを隠せなかった彩夏は、「へへへえ~、私もたべょ~と」と再び、年下の女の子を演じたのだった。
 
 昼食後、「美也君、これからドライブしようか。」と彩夏が言ってきた。「いいよ。別に。」と美也は言った。美也はペーパードライバー
なので、彩夏に主導権を任せた。「それじゃ、油壺なんかどうかな?」と彩夏が提案した。「俺、よくわからないから任せるよ。」と
美也は言った。油壺までは一般道を走り、綺麗な海岸線を通り、絶景の連続だった。油壺マリーナには、大きなヨットや超豪華なクルーザー
が停泊してあった。「私の夢はねえ~、将来、こんなクルーザーで沖縄の島巡りをしたいの。」「宝くじが当ったら、真っ先にクルーザーを
買うわ。」「そして優雅な毎日を過ごし、時々停泊した港で、バイトして稼ぎ生活していくの、自由気ままでいいでしょう。」と少女の
ような目を輝かせて、美也に訴えるように話した。彩夏にこんな一面があることに、驚かされて美也は、ただ頷くだけだった。
30分位、油壺でクルーザーや海を眺めた後、彩夏は高速道に乗り、JR横浜駅まで送ってくれた。まだ4時半過ぎだが今夜、家族の用事
があり、車が必要で早く帰らなければならないらしい。「今度又、逢おうね。連絡待ってるわよ。」「今日はすごく楽しかったわ、さようなら。」
と言い残して、彩夏は帰っていった。JRとメトロで浦安まで帰ってきた美也は、ホワイト餃子浦安駅前店で餃子定食を食べながら、今日一日で、
素顔の彩夏を、少し知り得たような気がした。




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