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小説の「書き出し」

明治~昭和・平成の作家別書き出し
古典を追加致しました

「道化師の蝶」 円城 塔

2012-02-03 08:07:17 | 作家エ
   何よりもまず、名前があ行ではじまる人々に。    それから、か行で、さ行で以下同文。    そしてまた、名前が母音ではじまる人々に。    それからbで、cで以下同文。    諸々の規則によって仮に生じる、様々な区分へ順々に。    網の交点が一体誰を指し示すのか、わたしに指定する術はもうないのだが、    こうする以外にどんな方法があるというのだろうか。          1  旅の間 . . . 本文を読む

「あまりに碧い空」 遠藤周作

2010-03-21 06:48:15 | 作家エ
 杉が今年の夏かりた小さな家はテニスコートのすぐ近くにあった。別荘地の中心部からあまり遠からぬそのテニスコートでは夕方、暗くなるまで白いスポーツ服をきた青年や娘がラケットをふりまわしている。威勢よく叩きつける球の音やわきあがる歓声などが杉の部屋にきこえ、彼の仕事をさまたげた。このコートは昨年、皇太子のロマンスなどで有名になったためか今年はひときわ集まる者も多いという話だった。 「いい気なもんだぜ」 . . . 本文を読む

「朱(あけ)を奪いもの」 円地文子

2010-03-21 06:46:20 | 作家エ
 宗像滋子は歯科大学の抜歯室の椅子にがっくり頭を倒してぼんやりしていた。口の中には一ぱいガーゼがつまっている。今しがた抜きとられた歯から左側の上唇一帯が注射薬にしびれてゴム鞠のようにふくらんで感じられた。 「さあ、これで全部抜けました、もう歯痛で苦しむ思いは一生ありませんよ」  柔和な笑顔のS教授は滋子の肩を軽く敲(たた)いて、しばらく静かにしているように言い捨てて去って行った。  S教授の言葉に . . . 本文を読む