小説の「書き出し」

明治~昭和・平成の作家別書き出し
古典を追加致しました

悲しいき思出 石川啄木

2013-10-09 21:17:44 | 作家イ
◎本年四月十四日、北海道小樽で逢つたのが、野口君と予との最後の会合となつた。其時野口君は、明日小樽を引払つて札幌に行き、月の末頃には必ず帰京の途に就くとの事で、大分元気がよかつた。恰度ちやうど予も同じ決心をしてゐた時だから、成るべくは函館で待合して、相携へて津軽海峡を渡らうと約束して別れた。不幸にして其約束は約束だけに止まり、予は同月の二十五日、一人函館を去つて海路から上京したのである。 ◎其野口 . . . 本文を読む

作家の生活 

2013-10-09 01:03:59 | 作家ヤ行
 優れた作品を書く方法の一つとして、一日に一度は是非自分がその日のうちに死ぬと思うこと、とジッドはいったということであるが、一日に一度ではなくとも、三日に一度は私たちでもそのように思う癖がある。殊に子供を持つようになってからはなおさらそれが激しくなった。親としての作家と、作家としての作家と、区別はないようであるけれども、駄作を承認する襟度に一層の自信を持つようになったのは、親としての作家が混合し . . . 本文を読む

赤とんぼのこと 三木露風

2013-10-04 18:58:06 | 作家マ、ミ
 とんぼが飛ぶ頃になると、時は暑くはなく寒くはなく、よい気候となるのである。頭が大きいのが、その特色である。群れているとか、たびたび見るとかで、わりあいによく印象を受ける虫である。他のもによってよりも、とんぼを思うて、その頃を、考えたりする。私が作った童謡に「赤とんぼ」と題する作がある。次に擧げる童謡である。 夕焼け、小焼の、 赤とんぼ、 負われて見たのは、 いつの日か。 山の畑の、 . . . 本文を読む

海潮音 上田敏

2013-10-04 11:29:26 | 作家ウ
遙に此書を滿州なる森鴎外氏に獻ず 大寺の香の煙はほそくとも、空にのぼりてあまぐもとなる、あまぐもとなる 獅子舞歌 海潮音序  卷中收むる所の詩五十七章、詩家二十九人、伊太利亞に三人、英吉利に四人、獨逸に七人、プロ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ンスに一人、而して佛蘭西には十四人の多きに達し、曩の高踏派と今の象徴派とに屬する者其大部を占む。  高踏派の莊麗體を譯すに當りて、多く所謂七五調を . . . 本文を読む

風の又三郎 宮沢賢治

2013-10-04 11:23:53 | 作家マ、ミ
どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ すっぱいかりんも吹きとばせ どっどど どどうど どどうど どどう  谷川の岸に小さな学校がありました。  教室はたった一つでしたが生徒は三年生がないだけで、あとは一年から六年までみんなありました。運動場もテニスコートのくらいでしたが、すぐうしろは栗くりの木のあるきれいな草の山でしたし、運動場のすみにはごぼごぼつめたい水を噴ふく岩穴 . . . 本文を読む

権助の恋 正岡子規

2013-10-01 21:37:37 | 作家マ、ミ
 夜半にふと眼をさますと縁側の処でガサガサガタと音がするから、飼犬のブチが眠られないで箱の中で騒いで居るのであろうと思うて見たが、どうもそうでない。音の工合が犬ばかりでもないようだ。きっと曲者くせものが忍びこんだのに違いない。犬に吠えられないように握飯でも喰わして居るのだろう、一つ驚かしてやろうと、考えて居る内、忽ちすさまじい音がして、犬は死物狂いの声を出して逃出したようであった。「誰だ」ト内か . . . 本文を読む

軽井沢にて 正宗白鳥

2013-10-01 21:34:54 | 作家マ、ミ
 長谷川伝次郎氏の『ヒマラヤの旅』には、二万尺以上の霊峰を跋渉した時の壮快な印象が記されている。古来、現世の罪や穢れを洗い清めるために参詣すべき聖地として印度人に憧憬されていたカイラースの湖畔などは、この世のものとは思われないそうである。そこは、一本の樹木もない茫々たる土塊のなかの水溜であるに関わらず、ただ空気が清澄であるために、天国のような光景を呈しているのだそうである。私にも、その光景が微か . . . 本文を読む

アポロンの嘲笑 中山七里

2013-10-01 06:55:49 | 短編雑誌
の日邦彦は、自分がこの世に1里きりだと自覚した。 運命の歯車が狂い始めたのは、その時Kらだった…… . . . 本文を読む

彼がとおる不思議ナコースを私も 白石一文

2013-09-30 19:59:31 | 古典
ひとりのdン男の子を掬おうとする果たし太郎。しkし、その行動は事件に発展していく。 感動の最終回、世界を帰るためには、なのが必要なのか?応えはこの小説にある! . . . 本文を読む

妄想ファンタジスタ 草凪優

2013-09-29 20:47:06 | 短編雑誌
会社では、マメキンのようにクールな乃乃先輩。 しかし、近所で出会ったkの女は普段と全く違う雰囲気で…… . . . 本文を読む

将来の日本 中江 兆民

2013-09-25 03:25:36 | 作家ナ行
 熊本の徳富君猪一郎、さきに一書を著わし、題して『将来の日本』という。活版世に行なわれ、いくばくもなく売り尽くす。まさにまた版行せんとし、来たりて余の序を請う。受けてこれを読むに、けだし近時英国の碩学せきがくスペンサー氏の万物の追世化成の説を祖述し、さらに創意発明するところあり。よってもってわが邦くにの制度文物、異日必ずまさになるべき云々の状を論ず。すこぶる精微を極め、文辞また婉宕えんとうなり。 . . . 本文を読む

歎異抄 親鸞

2013-09-13 00:15:12 | 古典
原竊回愚案、粗勘古今、歎異先師口伝之真信、思有後学相続之疑惑、幸不依有縁知識者、争 得入易行一門哉。全以自見之覚悟、莫乱他力之宗旨。仍、故親鸞聖人御物語之趣、所留耳 底、聊注之。偏為散同心行者之不審也云々 ひそかに愚案を回らしてほぼ古今を勘ふるに、先師の口伝の真信に異なることを歎き、後学 相続の疑惑有ることを思ふに、幸ひに有縁の知識によらずんば、いかでか易行の一門に入る ことを得んや。まつ . . . 本文を読む

堤中納言物語 著者・詳細

2013-09-06 01:42:28 | 古典
 花桜折る少将  このついで  虫愛づる姫君  ほどほどの懸想  逢坂越えぬ権中納言  かひあはせ  思はぬかたにとまりする少将  はなだの女御  はいずみ  よしなしごと -------------------------------------------------------------------------------- [TOP] 花櫻折る少將 月にはかられて、夜深く . . . 本文を読む

ホテルローヤル 桜木紫乃

2013-09-06 01:39:29 | 作家サ、シ
設楽美希子幹子(したらみきこ)は、九階の窓から釧路川をみおろしていた。昭和の景色を残す駅前通りがシャッター街となって久しい。漁業に活気があって炭鉱が健在だったころは、これほど買い物や娯楽が郊外に散ってゆくことがなかった。湿原を埋め立てた新興住宅は、っちの値段と戦いながら拡張を続けている。見える廻りに人影はなかった。  海側に傾きかけた7月の太陽と、陽光をうけているひかる川面を見た遮光カーテンを閉め . . . 本文を読む

古事記上卷

2013-08-30 08:41:14 | 古典
臣安萬侶言。夫、混元既凝、氣象未效。無名無爲。誰知其形。然、乾坤初分、參作造化之首、陰陽斯開、二靈爲群品之祖。所以、出入幽顯、日月彰於洗目、浮沈海水、祇呈於滌身。故、太素杳冥、因本教而識孕土產嶋之時、元始綿邈、頼先聖而察生立人之世。寔知、懸鏡吐珠、而百王相續、喫劒切蛇、以萬蕃息與。議安河而平天下、論小濱而國土。是以、番仁岐命、初降于高千嶺、 . . . 本文を読む