皆さん、こんにちは。
今日はとっても涼しいですね。
急に気温がさがりましたので、
体調管理にはくれぐれも
お気をつけてお過ごしくださいね。
さて、
今日は人間の脳の発達に関する事についてです。
私はライフコーチとしての知見を深めるべく、
人間を知るために、人類に関係する
形質人類学、言語学、遺伝学、考古学などに関する書物も
読みます。
今日は私が読んだもので面白く、大変参考になったものを二つ、
ご紹介させていただきます。
一つはSNSに関係する事。
もう一つは、人間性の起源についてです。
(後半に記載しましたが、こちらがかなり面白いです)
先ず初めに、
現代では他者とのコミュニケーションの手段の一つに
ソーシャルネットワークがあります。
ある研究では、FBでお友達が多い人は、少ない人よりも
偏桃体などが大きいという相関関係がある事が分かりました。
偏桃体などが大きいから友達が多いのか、
友達が多くなったから偏桃体などが大きくなったのか、
それはこれからの研究で明らかにされるようです。
いずれにしても、
人と関わる事は脳に良い影響がある様です。
確かに、色々な人がいて、
時には大きなストレスと感じる場合もありますが、
脳の偏桃体などが大きくなる可能性があるのです。
もしかしたら、
自らの脳が持っている以上の
脳の可能性を広げる事が出来るのかもしれません。
そう考えると、
SNSで関わる人が増える事は、
それと同時にストレスが増える事にもなりますが、
自分自身の未知なる脳の可能性を引き出すためにも、
努力と工夫をしながら上手に関わっていきたいものですね。
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元記事はこちらです⇓
「Facebookの友達多い人、脳の一部領域が大きい」英研究者が報告
Facebook上の友達の数と、脳の特定領域の大きさに相関関係があると報告された。
Facebook上の友達の数と、脳の特定領域の大きさには関係があると、英国の研究者が報告した。友達が多い人ほど、扁桃体などが大きいという。
ユニバーシティカレッジロンドン(UCL)のジェレイント・リーズ教授らが、Facebookを使っている125人の大学生の脳をスキャンしたところ、Facebookの友達の数と、いくつかの脳の領域の灰白質の量に強い関連が見られたという。関連が見られた領域は、扁桃(へんとう)体、右上側頭溝、左中側頭回、右内嗅皮質。
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扁桃体は記憶の処理や情動反応に関係し、最近の研究で、扁桃体の灰白質の量が多い人は、現実世界での友達の数が多いと示されている。
上側頭溝は生物の動きの動きを認識でき、中側頭回は社会的手掛りの読み取りに、右内嗅皮質は記憶やナビゲーションに関連するという。
これら3つの領域の大きさは、Facebook上の友達の数とは関連があったが、現実の友人の数とは相関はなかったという。
研究者らは、この研究で発見されたのはあくまでも相関関係であり、因果関係ではないと強調している。
今回のデータからは、Facebookの友達が多いことで脳の一部を大きくしたのか、生得的に友達をたくさん作る特性がある人がいるのかがは分からないと説明している。
「友人の数と関連があるとみられる脳の領域を見つけた。次の疑問は、その構造が時間とともに変わるかどうかだ。それが、インターネットが脳を変えるかどうかの答えを見つける助けになる」
研究では、オンラインでの友達の数と現実での友達の数にも関連があることが示唆されたという。
「研究結果は、Facebookのほとんどのユーザーは、既存の交友関係を補強するために同サイトを使っているという見方を裏打ちしている」
研究結果は「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されている。
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そして、もう一つはこちら!!!!かなりおすすめです!!!
これはもう大変読み応えがあり、本当に面白く読めます。
読んだ後に内面の充実を感じられるシンポジウムの特集記事です。
もう今日はこれでおしまい!はい、おやすみなさい~でも
全然良いくらいです。
ぜひお読みいただけたらと思います。!!
紙で印刷して読みたい方はこちらからどうぞ⇓
https://www.jstage.jst.go.jp/article/asj/122/1/122_122.76/_pdf
76 山極 寿一 Anthropol. Sci. (J-Ser.) シンポジウム特集記事 総説 人間性の起源を探求する重要性 山 極 寿 一 1 * 1 京都大学大学院理学研究科 (平成 26 年 5 月 12 日受付,平成 26 年 5 月 19 日受理)
要 約 人類学は,現在私たちが生きている社会や,それを維持するために必要な人間の特性が何に由来するの かを教えてくれる重要な学問である。
人間の形態的特徴と同じく,社会の特徴も,人類の進化史の中に正 しく位置づけないと,現在の人間の行動特性を誤って解釈することになる。
たとえば,集団間の戦いは定 住生活と農耕が登場してから発達したもので,人間の本性とは言えない。
人間の高い共感能力は,捕食圧 の高い環境で多産と共同保育によって鍛えられ,家族と共同体の形成を促した。
その進化史を人間に近縁 な類人猿と比較してみるとよく理解できる。
最近の自然人類学の成果をぜひ高校教育に生かしてほしい。
京都大学大学院理学研究科
〒606–8502 京都市左京区北白川追分町
人類学の重要性 77
はじめに 国政選挙の投票権や狩猟免許などさまざまな許認可が 18歳まで引き下げられようとしている昨今,人類学が高 校の教科書できちんと教えられていないというのは,は なはだお粗末な話だと思う。
そもそも進化論さえまとも に教えられていないのだから,数百万年にわたる壮大な 人類の進化史のなかで創り出された人間性を考察するこ となどできようはずがない。
生物学や医学の分野から人 間の体の仕組みや生理的な特徴が詳しく解明されようと している時代,責任ある成人になる前に人間性について 正しい理解を深めておくことはこの上なく重要である。
人間性を進化の視点から探究する方法には二つの視点 がある。
化石から過去の生活を復元して,進化の歴史を 再構成する方法と,人間に近縁な現存の種と比較しなが ら共通祖先の時代まで遡る方法である。
化石は断片的に しか残らないし,そこから推測できることには限りがあ る。生理生態や行動などは化石からは判断しにくいから だ。
一方,現存種との比較からは,進化の時間が隔たる ほど,共通祖先の姿を復元しにくくなる。祖先がどの種 の特徴を色濃く残していたか,根拠を持って類推するの が難しいからである。そのため,二つの方法を補完的に 用いて,なるべく確からしい祖先の特徴を探りあてるし かない。 それでも,類推するための証拠が増えれば,これまで の誤解が解けて,人間の進化の足跡が明らかになってく る。
これまでそういうことが何度もあった。有名な事件 は,1911 年のチャールズ・ドーソンによるピルトダウ ン人の発見である。それまで欧米の学者の多くは,人類 の祖先がまず脳を拡大し,その大きな脳を支えるために 二足で立って歩きはじめたと考えていた。そして,その 特徴をもつ化石はアジアやアフリカではなく,ヨーロッ パで見つかるはずだと信じていた。脳容量が現代人並み に大きく,顎骨が類人猿に似ていたピルトダウン人の頭 骨は,当時の人類学者が待望していた特徴を備えていた。 そのため,この頭骨は人類の直系の祖先と見なされ, 1953 年にそれがまがいものと発覚するまで大英博物館 に鎮座し続けた。
実はこの頭骨は,現代人の頭部とオラ ンウータンの下顎骨を巧みに組み合わせて作られていた のである。その後,人類の祖先は時代を遡ればのぼるほ ど,脳は類人猿並みに小さくなることが判明した。逆に, いくら遡っても祖先は直立して二足で歩いていた。しか も,200 万年以上遡ると人類の化石はアフリカにしか出 土しないことがわかってきた。20 世紀初頭の人類学者 の臆測に反して,人類の祖先は当時暗黒大陸と見なされ ていたアフリカに誕生し,脳の拡大ではなく,直立二足 歩行から進化の足跡を刻み始めたのである。
人間性に関する大きな誤解 人間の本性についても,実は現在もなお誤解され続け ていることがある。アメリカ合衆国のバラク・オバマ大 統領は,2009 年 12 月 19 日にオスロで行われたノーベル 平和賞の受賞式で,「戦争はどのような形であれ,昔から 人類とともにあった」,「平和を維持する上で戦争という 手段にも果たす役割がある」,「戦争は時には必要であり, 道徳的にも正当化できると判断できることがある」と述 べている。
これは,明らかにかつて人類学者が唱えた説 をもとにしている。それは,1950年代に出された「骨歯 角文化」と「狩猟仮説」である(山極,2007)。1924 年 に南アフリカでアウストラロピテクス・アフリカヌスと いう 160 万年前の化石を発掘したレイモンド・ダートは, 第二次大戦後に同じ場所でヒヒの頭骨に決まって同じよ うなへこみがあることを発見した。彼はそのへこみが, カモシカの上腕骨を使ってアフリカヌスが狩猟した跡だ とみなし,この時代の人類がすでに組織的な狩猟を行っ ていたと考えた。また,近くで発見されたアフリカヌス の頭骨にも同じようなへこみがあることから,アフリカ ヌスどうしが獣骨を武器として殺し合った証拠だとし た。まだ類人猿並みの小さな脳をもっていたアウストラ ロピテクスの時代に,すでに狩猟具を用いて肉食を常習 化させ,それを武器に置き換えて仲間どうしで戦いを始 めていたというのである。
この仮説は,アメリカの人気劇作家ロバート・アード レイによって数冊の本になった(アードレイ,1973)。 霊長類の集団が示すなわばり防衛の行動特性を受け継い だ人類の祖先が,森林から草原へ出て行って狩猟能力を 高め,狩猟具を武器にして集団間の戦いを始めたという 内容である。
しかも,この殺戮能力は現代人にまで受け 継がれ,人類は古い昔から武器と戦争によって秩序と平 和をもたらしてきたというのである。この説は一般社会 に急速に受け入れられた。第二次大戦で人類史上もっと も大規模な殺戮を経験した人々にとって,戦争が人間の 本性であり,自由と平和を築く有効な手段であると見な すことが,心の傷を癒す効果を持ったからに違いない。
そして,この説は 1965 年にアーサー・クラークとスタ ンリー・キューブリックによって制作された映画「2001 年宇宙の旅」に見事に反映されることになる。この映画 で「夜明け前」と名付けられた冒頭のシーンには,アウ 78 山極 寿一 Anthropol. Sci. (J-Ser.) ストラロピテクスと思われる,道具をもたない猿人たち が登場する。あるとき,宇宙から突然降り立った直方体 の物体に霊感を与えられた猿人の一人は,サバンナに散 らばっている動物の骨を狩猟具として用いる考えを抱 く。狩猟に成功した猿人たちは,やがてその道具を仲間 の猿人たちに向けて,水場争いに勝利をおさめ,集団ど うしの戦いが激化していくというシナリオである。この 映画を見て,人類の進化史を理解できたと感じた人々は 多かったのではないだろうか。
しかし,ダートの仮説はそもそも大きな間違いであっ た。その後,アウストラロピテクスの化石や肉食動物の 古生態を詳しく調査したチャールズ・ブレインによって, ヒヒやアウストラロピテクスの頭骨にあったへこみは, ヒョウの犬歯にぴったり合うことが判明した。アウスト ラロピテクスの狩猟の獲物と見なされた動物の骨も, ヒョウやハイエナによって運び込まれたものだった。ア ウストラロピテクスは狩猟者ではなく,ヒョウやハイエ ナに狩猟される獲物だったのである(ハート&サスマン, 2007)。
もちろん,彼らが狩猟具を武器に替えて戦いを 始めたという証拠もない。そもそも人類の祖先が殺傷力 のある道具を用いて狩猟をした証拠は,50 万年前の南 アフリカや 40 万年前のドイツで見つかっている先をと がらせた槍が最古である(クライン&エドガー,2004)。 この槍を人間との戦いに用いた形跡はない。最古の石器 は 260 万年前のエチオピアで発見されているが,狩猟具 として使ったのではなく,肉食獣が食べ残した獲物の骨 から肉をはがしたり,骨を割って骨髄を取り出すのに用 いられたようである。700 万年にわたる人類の進化史の なかで,武器を用いた戦いはわずか 1 万年前ぐらいに始 まった出来事であり,とても人間の本性とは言えない。 人間性を形作る主な特徴は,戦いが始まる前にすでに完 成しており,戦いが人間の社会に平和をもたらす手段で あり続けてきたなどとはとても考えられないのである。
人間以外の霊長類との比較による考察 戦いが人間の本性ではないことは,人間以外の霊長類 がどのように社会を作っているかを考察してみるとよく わかる。現在,地球上には約 300 種の霊長類が生息して おり,このうち昼行性の霊長類は夜行性の種に比べて体 が大きく,大半が 2 頭以上の群れを作って暮らしている。 1980年代から社会生態学という学問分野で,サルたちが 群れを作って暮らす理由についてさまざまな議論が展開 された(Sterck et al., 1997)。
その結果,まず繁殖に大き なコストをかけるメスが,栄養価の高い食物を効率よく 摂取し,捕食者から身を守るために,集合して暮らす性 質を発達させたと考えられた。一方,オスにとっては繁 殖を成功に導くためにはメスの近くにいることが有利に なる。そのため,メスが群がるとそこにオスも参加して 群れが形成される。しかし,自分で子どもを産むことが ないオスは,より多くのメスを妊娠させることが子孫を 多く残すことにつながるので,交尾相手をめぐって他の オスと競合を高める。その結果,群れに参加できずに単 独で行動するオスや,メスのいないオス集団,1頭のオス が複数のメスと作る単雄複雌群,複数のオスが複数のメ スと共存する複雄複雌群といった,集団構成に大きな変 異が生じる。
また,体が大きく力の強いオスにメスがハ ラスメントを受けたり,生まれたばかりの子どもを殺さ れたりする。子殺しは授乳期間の長い種に多く,子ども を殺すことによって授乳を止めて発情を再開させ,その メスと交尾をして自分の子どもを残そうとするオスの繁 殖戦略の一つと見なされている。そのため,子殺しを防 止しようとしてメスは力の強いオスを選んで安定した関 係を築こうとする傾向が強まる。この社会生態モデルで は,狩猟や仲間との戦いが群れを作る要因となっていな い。人類の祖先が進化の初期,他の霊長類と似たような 能力で同じような暮らしをしていたとすれば,狩猟や戦 いが人間の社会性を育んだとはとても言えないのである。
ではいったい,人間の本性とは何か。それはどんな背 景で,どんな必要性から生まれたのだろう。それを考え るためには,人間と近縁な類人猿の社会と比較してみる ことが必要になる。社会や行動は化石に残らないし,類 人猿と人間は近過去に共通の祖先から分かれて,同じ進 化の時間を経てそれぞれの社会に特有な特徴を発達させ ていると考えられるからだ。
つまり,類人猿と人間との 間で共通な特徴は,おそらく共通祖先が持っていたと思 われるし,異なる特徴は祖先が分岐してから新たに発達 したと見なせる場合が多いからである。 共通な特徴の好例が,多様な文脈で現れる対面交渉や 自己主張するときのディスプレイである。
類人猿とは系 統的に離れるオナガザル科のサルで,地上をよく用いて 暮らすヒヒやマカクにとって,相手を注視するのは軽い 威嚇にあたる。優位なサルに見つめられれば,劣位なサ ルは視線を避け,採食場所をゆずったり,交尾相手から 離れたりしなければならない。
ところが,類人猿では注 視が威嚇を意味するとは限らず,グルーミングや抱擁な どの宥和的交渉,遊びや交尾の誘いであったりする。し かも,目を合わせることによって優劣関係が露呈しない ので,対面することが多くなる。食物を分配する行動や Vol. 122,2014 人類学の重要性 79 対面交尾が多くみられるのも類人猿の特徴といっていい だろう。
これは人間にも通じる特徴である。また,人間 に近縁なアフリカの類人猿は,地上で二足で立って胸や 物をたたいたり,枝を引きずって走る行動が共通してい る。これはおとなのオスに多く,自己主張のための誇示 行動として,型にはまったディスプレイになっている。
ゴリラの胸たたきが最も定式的で,群れどうしが距離を 取り合うときやオスどうしが張り合うとき,出発の合図 や求愛などに使われる。一方,チンパンジーでは最優位 のオスが自分の社会的地位を誇示するときに使われ,ボ ノボでは出発の合図としてのみ用いられる。この違いは, オスが対等に張り合うゴリラ,群れ内で共存するオス間 に優劣の順位のあるチンパンジー,メスより弱い立場で 攻撃性が低いボノボの社会の特徴を反映している。
すな わち,共通祖先にあったディスプレイが,それぞれの社 会の特徴に合わせて変形して来た歴史を表しているのだ ろうと考えられる。人間にも二足で立って正面を向き, 胸を張ったり,手を振り上げたり,柏手を打ったりして 自己主張する表現が男に多く見られる。アフリカの類人 猿と共通な形態特徴だけでなく,共通の行動特性に人類 独自の社会性を反映させた結果だろうと思う。
異なる特徴は,性に関連する形態や行動に見ることが できる。チンパンジーのメスは発情すると性皮が大き く腫れ,複数のオスと立て続けに乱交的な交尾をする。 オスは頻繁に多量の精子を放出するので睾丸が大きい (Harcourt et al., 1981)。オランウータンやゴリラはメス が顕著な発情徴候を示さず,オスの睾丸も小さい。これ は特定のオスとメスが排他的な交尾をするためであると 考えられる。人間の性の特徴はオランウータンやゴリラ に近い。おそらく,人類の祖先が家族をつくり,特定の 雌雄のペアに性交渉を限定したことがこの特徴に反映さ れているのだろうと考えられる。
人間の特異な生活史から人間性の起源を探る 人間は家族をつくり,複数の家族が集まって共同体を 形成し,生計,繁殖,教育などの活動をそのなかで行う。 この家族と共同体という重層構造をもつ点が,他の霊長 類と異なると考えられる(Grueter et al., 2012; Chapais, 2013)。人間以外の霊長類には家族的な群れか,家族を もたない大きな群れしか見当たらないし,重層的な構造 をもつヒヒの群れでもその中の集団が協力し合うという 現象はめったに見られないからだ。
その理由は,家族と 集団が拮抗する原理で作られているからである。家族は 互いに仲間を思いやり,仲間のために犠牲もいとわない 行為によって支えられている。
一方,集団は安定した個 体どうしの関係を認知することによって支えられてい る。優劣の関係があれば,劣位な個体が自分の行動を抑 制する。対等な関係であれば,対等なやり取りが期待さ れる。物を譲れば,別の機会にそのお返しがある。
だか ら,血縁関係にある仲間をえこひいきし見返りを求めな い家族と,安定した社会関係に則って行動する集団とは 相いれなくなり,二つを両立させることができなくなる のである。
ではなぜ,人間は原理の異なる家族と共同体を両立さ せることができたのだろう。それは,類人猿と人間の子 どもの成長や子育ての方法を比べてみるとよくわかる。
人間の赤ちゃんは 3 キログラムを超える重い体重で生ま れ,わずか 1 歳前後で離乳してしまう。にもかかわらず, 離乳した幼児は華奢な乳歯でおとなと同じような硬い食 物を食べることができない。人間はどの文化や社会でも, 20 歳ぐらいまで他人に食物を供給してもらって育つの である。
ところが,ゴリラでもチンパンジーでも出生時 の体重は 2 キログラムに満たず,3 ~ 5 歳まで乳を吸っ ている。離乳したときはすでに永久歯が生えており,お となと同じ自然の食物を食べることができ,すぐに仲間 に頼らずに自分で食物をさがして育つようになる。 この不思議な人間の子どもの成長は,多産と大きな脳 という特徴を獲得する過程で備わったものである(山極, 2012)。
初期人類は,類人猿の生息したことのない樹木 の少ない草原へと進出した。そこで直面した課題は,広 く分散した食物を探し歩くことと,強力な地上性の肉食 動物から身を守ることだった。直立二足歩行は,おそら く広く歩き回って体力の劣る仲間に栄養価の食物を運ぶ ために発達した。ヒヒのように,特定の安全な寝場所に 複数の集団が集まって夜を過ごすことで,樹上の安全な ベッドを作れない草原で身を守ったのだろうと思う。
や がて,肉食獣が食べ残した獲物から肉や骨髄を取って食 べるようになり,多大な栄養を確保できたおかげで脳は 大きくなりはじめた。社会脳として進化した人間の脳は, 集団規模が大きくなるに従い,社会的複雑さに対処でき るように新皮質の割合が増えることによって類人猿の 3 倍以上の容量になったと考えられる(ダンバー,1998)。
脳が大きくなり始めたのは,ホモ属が初めて登場した 200 万年前である。しかし,人類はこのとき,脳の大き い赤ちゃんを産んで類人猿と同じ成長速度で子どもが育 つ道を選択できなかった。
脳が大きくなる前の 500 万年 間に直立二足歩行が完成し,その歩行様式に合うように 骨盤が変形して産道の大きさが制限されてしまったから 80 山極 寿一 Anthropol. Sci. (J-Ser.) である。
そこで,胎児の状態の赤ちゃんを産んで,脳を はやい速度で発達させ,12 ~ 16 歳で完成させるように なった。類人猿の脳は離乳時までに大人の大きさになる ので,現代人は 3 倍の時間を脳の成長に費やしているこ とになる。脳の成長には多大なエネルギーを費やすので, その分人類は身体の成長を遅らせて,必要なエネルギー を脳に回すようにした(Bogin, 1999)。
これが,人間の 子どもの成長が類人猿より遅れる理由である。その結果, 人類は脳が大きく成長の遅い子供をたくさん抱えること になった。 こういった生活史戦略の変化が,共同育児という行動 を発達させ,人間に独特な社会性を育んだのだろうと思 う。
類人猿は共同で育児をしない。単独生活のオランウー タンは母親だけが子どもを育てるし,群れで暮らすチン パンジーは他のメスが子育てを手伝うことがあるがオス は参加しない。ゴリラのオスは離乳後の幼児の面倒を見 るが,メスといっしょに子どもを育てたりはしない。
し かし,こうした子育てに母親以外の手が加わる程度に応 じて,離乳年齢に差ができることは興味深い。離乳年齢 はふつう体の大きさに応じて高くなると考えられるの に,最も体の大きなゴリラが低く(3 ~ 4 歳),続いて チンパンジー(5 ~ 6 歳),オランウータン(7 ~ 9 歳) が最も高いのである。おそらく,人類の離乳年齢が低く なったのも,子育てに多くの人が関わるようになったか らだろうと考えられるのだ。
では,共同保育はどういった社会性を育んだのだろう。 これにはいい例がある。人類や類人猿とは系統的に遠く 離れた南米のマーモセットやタマリンは,人類顔負けの 共同保育をする。これらのサルは双子や三つ子を産む多 産という特徴を持ち,生まれたばかりの赤ちゃんを年上 の子どもやオスが参加して共同で育てる。養育者になっ たおとなのサルは子供に頻繁に食べ物を分け与える。
実 は最近の報告で,おとなの間に食物の分配が見られる種 には,必ずこういった養育者から子供に食物が分け与え る行動が見られることが分かった(Jaeggi & van Schaik, 2011)。
つまり,子どもを養育するために発達した行動 が大人の間に普及し,別の意味を持つ社会行動となった ということが考えられるのである。
チンパンジーのおと などうしの間には,交尾相手を確保するためや同性間で 連帯するために食物の分配行動が見られる。こういった 行動はもともと養育者と子どもの間から大人の間に広 がったのかもしれない。
こういった視点に立つと,人類が共同保育を通じて得 た特徴が見えてくる。それは共感と同情,そして見返り を求めない奉仕の精神である(山極,2012)。成長の遅 い子どもに食物を分け与え,生活上の様々な便宜を図る のに,そのお返しを期待したりはしない。脳の増大とと もに成長過程が長引いたおかげで,養育者と子どもの間 にあった共感や同情などの感情を大人の間にまで普遍す ることができたのではないだろうか。
もちろん,共感や 同情の能力は,熱帯林の外という類人猿の経験していな い過酷な環境を生き延びるために大きな力を発揮したに 違いない。南米の熱帯雨林に暮らすタマリン,マーモセッ トは脳を大きくすることも,熱帯雨林を出る必要もな かったので,子どもの成長が早く,人類のように共感能 力を高めるには至らなかったのだろう。
家族と共同体を組み合わせて社会を作ることができた のは,本来血縁者に限られていた感情を人類が他者にも 抱くことができるようになったからである。状況によっ て他者との関係を臨機応変に作り変えながら,安定した 社会関係を維持できる能力こそ,この重層社会に必要な 能力である。
それを育てたのは,霊長類を育んだ熱帯雨 林の外で,食料の供給と子育てに多彩な協力関係を結ん で生き延びた結果,人類が採用した生活史戦略であった のだと考えられる。
おわりに 私がこれまで述べてきた進化のストーリーはまだ仮説 にすぎない。社会や行動は化石に残らないから,タイム マシンでも発明しない限り,この 700 万年の間に人類が どんな社会で暮していたか,確実な証拠は決して得られ ないからだ。だが,現代の私たちが共通に持つ人間性が どのようなものであるのか,何に由来するのか,どんな 目的のために発達したのかに思いを巡らすことは,現代 の社会を理解するために,私たちが抱えるさまざまな社 会問題を解決するために重要である。
過去の人間性を誤 解することは,現代の私たちの行動を間違って解釈する ことにつながるからだ。これまでにも多くの思想家たち がこの問いに答えを与えようとしてきた。少なくとも自 然人類学は,それを科学的証拠と視点に基づいてより確 実なものにしようとしている。それをまだ証明されてい ないからといって等閑に付し,今行われている議論を紹 介しないのは高校生にとって明らかにマイナスだろうと 思う。
社会に出て責任ある立場を担おうとしている若者 たちは,もっと人間性について関心を持つべきだからで ある。人間性の由来について知識を豊かに持ち,人間に ついて深い洞察力を持った次世代の若者たちに,未来を 託したいと思う。
Vol. 122,2014 人類学の重要性 81 参考文献 アードレイ,R.(1973)アフリカ創世記.徳田喜三郎・森 本圭樹・伊澤紘生訳,筑摩書房. Bogin B. (1999) Evolutionary perspective on human growth. Annual Review of Anthropology, 28: 109–153. Chapais B. (2013) Monogamy, strongly bonded groups, and the evolution of human social structure. Evolutionary Anthropology, 22: 52–65. ダンバー,R.I.M.(1998)ことばの起源―猿の毛づくろい, 人のゴシップ.松浦俊輔・服部清美訳,青土社。 Grueter C.C., Chapais B., and Zinner D. (2012) Evolution of multilevel social systems in nonhuman primates and humans. International Journal of Primatology, 33: 1002–1037. Harcourt A.H., Harvey P.H., Larson S.G., and Short R.V. (1981) Testis weight, body weight, and breeding system in primates. Nature, 293: 55–57. ハート,D.・サスマン,R.(2007)ヒトは食べられて進化 した.伊藤伸子訳,化学同人。 Jaeggi A.V. and van Schaik C.P. (2011) The evolution of food sharing in primates. Behavioral Ecology and Sociobiology, 65: 2125–2140. クライン,R.G.・エドガー,B.(2004)5 万年前の人類に何 が起きたか? 意識のビッグバン.鈴木淑美訳,新書館. Sterck E.H.M., Watts D.P., and van Schaik C.P. (1997) The evolution of female social relationships in nonhuman primates. Behavioral Ecology and Sociobiology, 41: 291–309. 山極寿一(2007)暴力はどこからきたか:人間性の起源を 探る.NHK ブックス. 山極寿一(2012)家族進化論.東京大学出版会.