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この世界のどこかに居る似た者達へ。

「クロードと一緒に」 稲葉 友編 6。

2014-12-12 23:19:43 | お芝居・テレビ
イーブが自分の中に鬱屈していた物を吐き出し、最愛の人を失った絶望と何かにたてついて敗北した脱力感でぐったりした頃、執務室のドアをノックする音がします。

判事が出勤して来たのでしょうか。


イーブが力なくズボンのポケットからこの部屋の鍵を出してデスクに置きました。

確か相馬イーブの場合は、鍵を中央のテーブルの方へ置いたと思います。

その姿は白旗を上げるのと同じ意味を持っていました。

首をうなだれて警備官やギィの後を歩き、部屋を出てゆくイーブ。

刑事はその後ろ姿を追うように歩き出します。


しかし、イスにイーブの上着が掛かったままなのに気付いてそれに手をかけます。

相馬イーブは派手なガウンの様な服でしたが、稲葉イーブはカーキ色のアーミージャケットみたいな服でした。

「おい、忘れ物だ。」

今にもそう言いそうな表情を刑事が浮かべた瞬間、灯りが全て落ち、このお芝居は終わりました。



再び灯りがついて出演者の4人が舞台に現れました。稲葉さんは出て来た時からずっと泣いていました。

舞台を囲んだ観客達に挨拶をしてくれる間もずっと泣いていました。

アタシも拍手をしながらずっと泣いていました。

お芝居は終わったはずなのに未だイーブのいる世界から戻って来れず、一人の青年を救えなかった思いが胸を支配し、今にも大声で泣いてしまいそうになる稲葉さんの姿にも涙が出ました。

カーテンコールがあり、再度皆さんが出て来てくれました。

相馬さんの時と同じく、足元がふらつく程消耗した稲葉さんは時折しゃくりあげそうになりながら観客達に何度もお辞儀をしてくれました。惜しみない拍手と、観客達の涙がきっと彼の心にも届いたと思います。


出演者達が引き上げ、会場の灯りが全てついても客席から立てない女の子達が居ました。

若い女の子だったので稲葉さんのファンの方かもしれません。

お芝居が始まる前はにぎやかだった男の子達。終演後、席を立って扉へ向かう時には押し黙って誰も口を開きませんでした。

皆、一様に「クロードと一緒に」と言うこのお芝居に”やられて”いました。

決してネガティブな感情ではなく、「なんなんだこれ、なんか凄かった・・・」と放心している様な感じでした。



劇中で刑事が街角に立つ男娼について、「そいつらを見てると泣きそうになる、抱きしめてやりたくなる」と告白する場面がありました。

その時は刑事の言うその意味がよく分からなかったのですが、お芝居が終わりイーブを演じていた相馬さんや稲葉さんを見ているとなんとなく親の様な気分になって、泣けてくる自分に気付きました。

ハタチそこそこで産んでいれば、アタシにも稲葉さん位の歳の子が居てもおかしくはない。

現実的にはアタシに子は居ないけれど、もし、自分の産んだ子が一人で孤独でこんな風に街角に立つ様な人生を送っていたとしたなら。

そう思うと、刑事の言った事が理解出来たのです。

カナダやイギリスの舞台、映画の中での刑事とイーブは親子くらい歳が離れているようで、そう言う意味合いの台詞があったのかもしれません。


このお話は外国の話であるし、ましてフィクションなのに、物語の中にダイブしてし己の親心を見つけてしまった事に正直驚きました。

そう言う物を引っ張り出されてしまったことに。

非現実的な空間にあって、衝撃的な言葉のシャワーを浴び、気付けば居もしない自分の子供の事の様に”イーブ”を想い涙する。

刑事の台詞の意味するところと同じ感情で。


つくづく凄いお芝居だなぁと感じたわけです。

観客のアタシでさえ、なかなか彼らの居る世界から戻って来れなかったのだから演じた役者さん達はもっと強く深く、そう言う状態にあったんじゃないかと思います。


何か年間で決まる舞台の賞があるのなら、イーブを演じた二人の若い役者さんに差し上げたい。

それ位素晴らしかったです。


再演とても嬉しいですね。

どんなイーブに逢う事が出来るのか、今から楽しみです。


出演者はたった4人なのに、非常に濃い舞台を体験させて頂きました。


ありがとうございました。

































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