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この世界のどこかに居る似た者達へ。

「クロードと一緒に」 稲葉 友編 5。

2014-11-23 12:53:47 | お芝居・テレビ
金色の髪をした静かな雰囲気を持つ稲葉さんの演じるイーブは、自分の事を赤裸々に告白しながら観ているのが苦しくなる程に壊れてゆきました。

前日に相馬さん演ずるイーブの演技を観ていたため、もっと歳の若い稲葉イーブが衝撃的な数々の台詞を口にする事がアタシには信じられませんでした。


でも、彼はやったんです。

痛みと人の体温と絶望と愛しさに打ちのめされながら、イーブと言う青年がほんの一瞬垣間見た温かな「光」を全身で観客に伝えました。


物静かな印象であるがゆえ、感情がたかぶった時の壊れ方が凄かった。

それまでの声とは全然違う、まるで音割れを起こしている様な凄まじい声が稲葉さんから発せられました。

あんな男の子の声をアタシは聞いたことがなかった。

傷だらけの声だった。



紅潮し震えながら話すイーブの姿を、刑事も速記係も黙って見ていました。

伊達さん演じる刑事は、イーブが移動しながら話す時も彼の姿を目で追い、片時も目を離しません。自分のそばに来た時もじっとイーブの目を見据えていました。

速記係のギィは、イーブの話す真実や彼の壊れゆく姿に心を乱されているようでした。


お芝居の一番最初、稲葉さんは立ち姿で観客の前に現れました。

アタシはその姿を観た時、瞬時に彼の立つ広場の背景や、通り行く車の音や、人々の話す声などがまざまざと聞こえ、見えて来る様な感覚を覚えました。

圧倒的な説得力を以ってアタシ達観客の前に現れた稲葉イーブは、その美しい姿のままこの物語の奈落へと落ちてゆきます。


何故、自分が愛している人を殺したのか。

イーブは一人ぼっちでした。

心から何でも話せる友達もいなかったし、両親はもうこの世にいない。お姉さんもイーブを愛しているとは言えません。

クロードと言う人に出会って愛されて、生まれて初めて満たされた気持ちと言う物を経験し、幸福を感じたのかもしれません。


イーブの告白の中で「言葉にしてしまうと陳腐になる」と言う台詞が出て来るのですが、イーブは彼のやり方で数々の夜を生き抜いて来たわけだし、世間的には後ろ指を指される仕事でも、そこにはルールもセンスの良し悪しもあった筈です。

「誰にでも出来るわけじゃない、才能なんだ!」

プロの男娼として夜を渡って来たイーブの物語は、伝えたくとも表現する言葉が見当たらない。


そんな物を背負った自分が、このまま好きな人に愛されて幸せに暮らせるのだろうか。



結果イーブは最愛の人を手にかけてしまいましたが、彼は「ママは一人で死んでしまったけど、クロードの最期には自分がそばに居てあげられた。」と告げます。

そして体中にキスしたんだ、と。


憎くて殺したんじゃない。

クロードは最期までイーブに愛されていました。




殺人は重い罪であり、法により罰せられます。

イーブの自白は聞く者達の心に衝撃的に響きますが、彼は罪をおかしました。

擁護の声はあがりません。

しかし暗がりに居る観客達は、速記係のギィのようにイーブを救いたいと心から願いました。




つづく。







































































「クロードと一緒に」 稲葉 友編 4。

2014-11-02 15:21:21 | お芝居・テレビ
速記係”ギィ”役の井上裕朗さんは、最初この舞台の台本を読んだ時途方に暮れたとか。

ほとんど言葉を発さず、舞台上のテーブルに居る時間がとてつもなく長い役、ギィ。

しかし、井上さんは相馬イーブ・伊藤ロバート組と稲葉イーブ・伊達ロバート組において、その各々のコンビの創り出すお芝居の雰囲気がまるで違うため、ギィがどちらでも同じ雰囲気にならない様に役づくりしてこのお芝居に取り組んだそうです。

ロバートとの関係性も、伊藤さんと伊達さんとでは”ギィ”はただの速記係ではなく、伊達さんとではギィは右腕的な「スーパーサブ」。

伊藤さんとでは、彼が若いので、ギィはやはり刑事であるロバートの父親と昔ずっとコンビを組んでいた元・相棒。



井上さんはブログしていらっしゃって、御自分の出演された舞台や共演された役者さんたちの事などを書かれています。


”blue cafe net”井上さんブログ


「ブラックホール」と言うタイトルの記事がこの舞台の時に書かれた物です。


この井上さんの書かれた文章を読んで、アタシが相馬さんの時も稲葉さんの時もカーテンコールで涙を流してしまった理由が少し解かる気がしました。



「イーブをどうにかして救ってあげたいが、その方法が見つからない。かける言葉すら見つけることが出来ない。ひたすら無力。」

「孤独と絶望の果てに行ってしまった彼をなんとか引っ張り戻したくて、そして彼の勇気を讃えたくて、袖中で毎公演彼を抱きしめた。ふたりして泣いた。」


舞台袖の暗がりでの光景が目に浮かび、胸が締め付けられる様な感覚に襲われます。井上さんの感情がとてもよく理解出来ます。


アタシは人の好き嫌いが激しく「あの人嫌い。苦手。」とすぐ言ってしまうけど、本当はよく見たら人は誰でもいいところを必ず一つは持ってる。つぶさに見つめればもっと見つかる。

でも、アタシは目先ばかりにとらわれて人見知りの性格も手伝って、すぐに人を見つめる事が面倒でやめてしまう。

井上さんの文章を読んでいると、きっとこの人は人をつぶさに見つめる事を面倒くさがらないでやれる人なんだろうなぁと感じます。

そしてそれが井上さんの役者としての血肉になっているんだろうなぁと。

役者さんもミュージシャンも写真家も絵描きも物書きも「発信」する職業だけど、発信するまでにはたくましく「受信」する力が必要不可欠なわけで、受信できないと発信出来ないとアタシは思っています。

井上さんはそんな「受信力」の強い人なんだろうなと。

そしてそれも表現者としての「才能」なんだなと。




稲葉・伊達コンビでは、この井上さん演じるギィと絶妙なコンビネーションで様々な事件に取り組んで来たであろう伊達さん演じる刑事。

確か舞台上にギィが不在だった時の場面だと思いますが、舞台のテーブルに伊達さんが乗って立ち上がり、判事のデスクに居る稲葉イーブを真正面から見据えて「俺はお前を絶対に逮捕してやるからな」と言う様な宣言をする場面がありました。

凄くかっこよかったんです。

宣戦布告の様な、ロバート刑事の本気を示すパフォーマンスが実にキマッていました。


同時にここからイーブも本腰を入れて、この大人達と対決しようとします。

しかしそれは相馬さんのイーブの時と同じく、彼が己の痛みと孤独に打ちのめされる事を意味していました。




つづく。