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安全な脊椎手術を求めて No.2

2011-06-25 09:51:12 | 脊椎手術術中モニタリング
コメント欄への投稿 みやこさんより 2011-06-20

いつも参考にさせていただきありがとうございます。
便乗で申し訳ないのですが、我が家にも手術予定の子供がいます。

手術予定の病院は、ナビゲーションシステムはなく、神経モニタリングはあると説明は受けました。

どのような違いがあるのでしょうか。
また、ナビゲーションがなくても大丈夫なものなのでしょうか。

お忙しい中申し訳ありませんが、よろしくお願い申し上げます。

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みやこさんへ、返信が遅れており、誠に申し訳ございません。
ご質問の内容は、タイトルの「安全な脊椎手術を求めて」と直結します事から、二回目として記載しようと考えております。
ナビゲーションについても少し詳しくお話したいと思うのですが、いま、ちょっと時間がないので、週末までおまち願います。

ここでは、ひとことだけ申し上げますと、ナビがなければ「安全」を確保できない。というものではありませんので、まずは神経モニタリングを実施されている。ということを第一義的に考えていただければ大丈夫です。


では週末にて。

august03
 

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ナビゲーションについて説明する上で、おそらく一番イメージがわきやすいのは、自動車のナビだと思います。簡単に言いますと、手術に用いるナビゲーションという機械も、やろうとしていることは同じです。
運転する前に、皆さんは、ナビに自分が行きたいところ、到着したい場所を登録します。登録を終え、車が動きだしますと、ナビは画面と音声で、どの方向に行けばいいかを「案内」してくれます。
手術の場合のナビも原理は同じです。医師は、ご自分の行きたい方向を「登録」します......この表現はかなり大雑把すぎるのですが、ここではご容赦ください......登録が終わりますと、ナビは、その行きたい方向をスクリーン上に示してくれます。
医師がゆきたい方向というのが、実は、患者さんの身体の中 = この場合は、椎弓骨の中に入る為の位置(刺入点)と椎弓骨内のどちらの方向に進むべきかの方向を示してくれることになります。登録には、手術前に撮影したCTや、手術中にレントゲン撮影を行い、患者さんの骨の情報をナビに入力するわけです。入力された情報をソフトウエアが解析、変換して、医師に「情報」として提供することになるわけです。

もう少し詳しい医学的説明をお知りになりたい場合は、こちらのウィキペディアがとっかかりとしてはわかりやすいと思います。
グーグル検索にて、「医療用ナビゲーションシステム」「ウィキ」で検索してみて下さい。

手術用ナビでどういうことが行われるかのイメージをつかんでいただけるのではないかと思い、下写真を利用してみます。

 

現在、幾つかタイプの手術用ナビゲーションが医療現場で使用されています。全ての機種で、このような画面がでるわけではありませんが、おそらくこれがナビという機械を使用する脊椎手術をイメージするにはわかりやすいと思いました。この画面に写っているのは、いわばパソコンゲームで、ターゲットを定めている場面に似ていると思いますが、先生が欲しい情報というのはまさにこの「ポイント=刺入点」ということになります。

 

刺入点が決まれば、そこに向かって上図のように、ペディクルスクリューを挿入していくことになります。前回の「安全な脊椎手術を求めて」でご説明しましたように、このペディクルスクリューを挿入する方向が、実は脊椎手術では非常に難しい操作の第一関門、ということになります。解剖図と合わせて、上図を見ていただくとわかりやすいのですが、実は、このスクリューのすぐそばに「脊髄」と「神経」が存在しています。スクリューの方向を間違えますと、それは直接、患者さんの脊髄や神経を傷つける、ということになるわけです。

ですから、ナビゲーションを利用する。というのは、「安全」という面での「貢献度」は高いことになります。しかし、物事には、メリットもあれば、リスクも当然存在します。どのようなモノであっても、100%の確実性とか、100%安全である。というようなことは「ありえません」

 ヒトは所詮ヒトであって、ヒトゆえに間違いを犯します。間違いを犯さないヒトがいるわけがありません。
 同様に機械も、所詮は機械です。ヒトにできないこと、ヒトよりも正確にできることが機械のメリットであると同時に、機械だから100%間違いを犯さないと考えて「手術」することのリスクも、実はそこに存在します。登録という作業が必要なわけですが、その登録....つまりレントゲンなり、CTなりの画像撮影が 100%の正確性があったのかどうか ?  その機械の持つ「能力」が100%の精度を持つのかどうか ? 機械を利用する医師は、その機械の長所、短所、誤差もありえるかもしれない、ということを理解した上で操作しているのかどうか ?  そういう様々な要素がありえるのが、現実の世界というものです。 医療だから、医学だから、ゆえに100%が確保されているもの、と考えること自体が「幻想」である。ということを前に書かせていただきましたが、現実とはそういうものです。皆さんに不安を与えるのが目的ではありませんが、現実を踏まえた上で、現実に対処して欲しい。と思うがゆえに、このような言い回しとなっております。

もっと、端的な言い方をさせていただけば、皆さんが「手術」をする。と決断する要素に、この病院はナビを使用しているから安全だ。と考える発想はして欲しくはありません。皆さんが見るべき第一の要素と、決断をする要素は、ナビの有無ではなく、手術をしてくれる先生を皆さんが「信頼」するかどうか、ということです。 この先生に手術をしてもらえるならば、何が起ころうと、悔いはない、と思えるくらいに、その先生のことが「好き」でしょうか ? その先生の性格、考え方、説明内容、専門、これまでの手術件数、どこで学んできているのか、そういう様々なことを総合して、この先生に手術してもらいたいと思えているでしょうか ?
そういうことが大前提としてあって、そこにナビが使用されているならば、プラスアルファを得られた。と考えられていいと思います。
つまり、手術をする。という決断の理由が、上下が逆であってはいけない。ということです。

次に、神経モニターという手法と、ナビという手法の違いについて、ご説明したいと思います。

 

この写真に写っている方は、メディカルドクターではありません。検査室で働いておられる検査技師さんになります。米国などでは、手術での神経モニターを専門にされる技師さんもおられますが、日本では、検査室の技師さんが、神経モニターを使用する手術があると、整形の先生からお願いされて、この写真のように、神経モニターの機械の前に座り、手術中、画面の変化に注視することになります。

 

 このような説明図を用いての手術前の説明を受けることがあるかどうかわかりませんが、神経モニターにも幾つかの種類があり、上図はそれを説明したものになります。この詳細は、専門的になりますので、おいおいに説明していきたいと思います。皆さんが知っておいていただいたほうが良いと思われる用語といたしましては、「MEP エム・イー・ピー」という専門用語は記憶されておいたほうがいいと思います。先生が神経モニターをされる。という場合にもニ種類あり、MEPとSSEP(エス・エス・イー・ピー)という方法があります。
側弯症手術や、頚椎の手術の場合、腰椎では第一から第二腰椎にかけての手術の場合は、MEPでの神経モニターをまず第一義的にはお勧めします。これは、運動系機能をつかさどる脊髄をモニターする機能ですので、術後の歩行、運動機能に対する障害予防ということになります。

ここで「予防」という言葉を用いましたが、ナビと神経モニターとの用途、目的の違いがおわかりになられたでしょうか?
ナビというのは、手術を正確に、安全を確保するために利用する機械であり、神経モニターとは、その手術が安全に実施されているかを確認する機械ということになります。

 

 

ここに掲示したふたつの画面は、実は、神経モニターという機械のスクリーンに表示される「波形」を表しています。時間が記載されているのが読み取れますでしょうか。 手術をしながら、ある一定のインターバルをおいて、あるいは、何かの操作........例えばスクリューを挿入したとか、脊柱変形の矯正を開始したとか、そういうイベントのたびに、患者さんの身体のなかに、電気を流して、その電気により刺激されて発生した反応 (波形)を画面から読み取る、という確認作業をしていきます。もし、電気を流しても波形が現れなかった場合、つまり、それは「反応」がない。ということであり、脊髄あるいは神経になんらかのトラブルが発生している可能性を示していることになります。脊髄も神経も、身体の中の存在であって、医師の目には見えません。医師はいわば、見えないものを相手にして手術しているようなものなのです。ゆえに、神経モニターという機械の意義が現れてくるわけです。人間のカラダは電導体......つまり、電気を通す性質をもった材料ということになります。外からは目では見えませんが、電気を通すことにより、カラダの中の脊髄や神経の反応を電気によって確認することができるわけです。

 

 ひとつの例をあげるならば、この上写真は、スクリューが椎弓根骨をはずれて、脊髄管内に飛び出しているものなのですが、このような状態になった場合、ふたつのシナリオが考えられます。ひとつは、手術中のレントゲン撮影で気づいて、このスクリューを抜く。あるいは、この事実に気付かずに手術が続行され、病棟に戻り、翌日になってレントゲン撮影で気づく/あるいは、患者さんが異常な痛みや歩行障害を呈したことで気づく。というようなシナリオです。
このような場合も、手術操作のつど、神経モニターを利用することで、ただちに異常に気付くことができる可能性が高まります。神経モニターが異常を示し、何かおかしいぞと思ったら、ただちにレントゲン撮影をして、確認することで、つまり、翌日まで気づかなかったというような、時間差がなければ、障害を残す危険は減る。ということなのです。

 手術用ナビゲーションとは、正確にスクリューを入れるための機械です。
 神経モニターは、脊髄や神経に異常がないかどうかを手術中にチェックする機械です。

このふたつは、目的が異なります。ですから、どちらが優れているとか、どちらが不要だとかいうそういう二者択一の次元で語るべき話ではありません。ですから、もし、その病院がどちらかしか持っていないという状態の場合、どう判断するかは皆さんの考え方、直観、感覚の問題かもしれません。
残念なことは、神経モニターは、技師さんに検査室の仕事をはずして、わざわざ手術室に来てもらい、手術が終わるまでずっと画面を見ていてもらわなけれぱならず、それはいまの日本の病院事情....人手不足.... からはかなり至難のことで、現実として、まだまだ神経モニターが普及しているわけではありません。一方、手術用ナビというのは、やはり、整形の先生からしますと、「魅力的」な機械ということになると思います。神経モニターのように、他人に頼るのではなく、医師自らの手技に直接左右する道具ですから、主体性があるという点でも、医師の興味を引く機械ということになります。

これが、このふたつの性格の異なる機械の説明ということになります。
どういう価値判断をされるかは、皆さんの中にあり、外からは見ることはできません。

august03




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1 コメント

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Unknown (みやこ)
2011-06-27 15:19:36
ご多忙な中、詳細な説明をありがとうございました。

もやがかかっていた状態でしたが、視界良好になったような気持ちです。ありがとうございます。
又何かわからないことがでてきましたらよろしくお願いいたします。
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