シリーズ第3弾。
ここまでくると、ミステリの体裁は捨てたも同然です。
夢館
著者:佐々木 丸美
発行:東京創元社
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『崖の館』と『水に描かれた館』と、長い序奏を経て真打登場。
一応、謎めいた館の因縁と館の主をめぐっての度重なる死というミステリ味はつけてありますが、テーマはすっぱり輪廻転生。その末の恋の成就です。
冒頭、4歳の女の子が登場します。
名前は千波。
はっきり崖の館の千波の生まれ変わりとして描かれています。
すでに崖の館の千波が「黒衣の少女」として描かれた千波の生まれ変わりでしたから、この幼児は既に2つの人生を生きていることになりますが、4歳は4歳なので、漠とした想い以外は思い出されていません。
この千波も両親をなくし、養女に出されるところを、崖の家目指して逃げ出しますが、たどり着いた先は、吹原の屋敷でした。
『水に描かれた館』で事件を解き明かし、涼子の直球攻撃を適当なところであしらって去った吹原。
この人も生まれ変わりで、かつての生は「黒衣の少女」を描いた画家であることが前作でわかっています。
「名前を言ってごらん」
「ちなみ」
「いくつだ」
「よっつ」
白い花の咲く庭で、愛らしい迷い子を抱き上げ、頬ずりをする美青年。
・・・ここで、「ロリコンだ!」と叫ばせないための前2作だった?!
むしろ、連想するのはファザコンのほうですけど。
どの作品にも父親が不在であることからの連想かもしれません。
この作品に限らず著者の作品には、男性=庇護者、女性=被庇護者という形がとても強くみえて、登場する女の子たちは存在の全肯定を望むように甘えたり、相手へ一点の曇りもない信頼をよせたります。
いや、もうすごい甘えっぷりでねー。
一方、男性も、愛するのは自分の力量で完全に庇護しうる女性に限定されているかのようで、曲解していくと「バカな子ほどかわいい」ということに・・・。
それはともかく、生まれ変わっての再会を約するほど愛した美しい娘の、かつては知らなかった愛らしいちびっこ時代からの成長を、もしみることができるとしたら、これは悶絶するほど幸せなことなのではと想像します。
20を超える歳の差にも悶絶するでしょうけれど。
光君やジャービスを連想しないでもありませんが、吹原は光君ほど人でなしでもなく、あしながおじさんほど話が単純ではないので、未だ幼い恋人のそばにい続けることを避け、およそ10年国外逃亡。
戻ってきた頃、千波は花の顔の美少女時代を迎えているわけです。
千波をとりまく嫉妬と羨望の悪意。
地下室に閉じ込められたり、もう大変。
いやー、この3部作、どうして昼の帯ドラマの原作につかわないかなー。
殺人事件に、転生する恋人たち。
現在・過去・未来の時間のリンク。
館の因縁。
主を異常なほどに慕う使用人たちに、復讐を誓った男までいるのになー。
昼のドラマにテレパシーとかはダメ?虫の知らせなら大丈夫?
無意識やら、心理学やらの薀蓄がいっぱいだから?
ドラマにするなら、崖の館の未亡人は浅丘ルリ子なんだけどなー、イメージは。
作品全体のキワモノ感とか、超現実的な雰囲気とかにぴったりだと思うのですけれど。
それにしても、独特の雰囲気のあるシリーズでした。
「夜の海はごおうんと鳴ります。私たちの愛の銅鑼ですね。」という乙女な独白(これだけじゃないですよ、もっといろいろあるのです!)にどっぷり浸って読むもよし、ロマン漂う薀蓄を楽しむもよし。
先のせりふに思わず本を閉じてしまった私は、全編に溢れるキワモノ感をたっぷり堪能しました。
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