ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

「小説のようなノンフィクション」だそうです。 手嶋 龍一 【ライオンと蜘蛛の巣 】

2008-02-28 | 幻冬舎
 
初版の発行は2006年11月。
中には29篇の短い文章が収められています。
雑誌等への初出が1996年というようなものもあって、さほど厚くない本ですが、かけられた時間は意外に長いのですね。


 ライオンと蜘蛛の巣
 著者:手嶋 龍一
 発行:幻冬舎
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小さいときから…というのは言い過ぎかもしれませんが、著者の手嶋氏の顔をずいぶんと観てきたなぁと思うのです。
NHKと聞いて、確実に思い出す顔のうちのひとつ。
画面出てくる肩書きを見て、「あ、いつのまにか長がついてる。」と思ったり。
著者がNHKの人ではなくなったのが2005年だそうです。

さて、『ウルトラ・ダラー』は小説ですが、こちらはノンフィクション。
でも、ノンフィクションという言葉からの印象とはちょっと違うのですよねぇ。
当時の世界情勢、外交に言及していることや、他の著書からのイメージと考え合わせると、ノンフィクションと言いたくなるのですが、そういう読後感でもありません。
まあ、もともとノンフィクションとわざわざ言っているのは『ウルトラ・ダラー』は小説、フィクションだということとの単純な対比なのでしょうけれど。

文章は明快。
ユーモアもあり、意味が良く伝わりますが、読んで美しいという文章ではありません。
著者に対して持っているイメージのためか、取材記からもう一歩読むものとして出来上がった感じがしないのが少し残念で、「小説のようなノンフィクション」という帯は、言いえて妙とも、予防線とも、嫌味ともとれそう。
1冊の本としてまとまっていると、どちらにしても少し物足りないような気がします。
例えば、雑誌をぱらぱらとめくっていて、その中で目に留まったから読むという雰囲気ならば、かなり印象的なのですけれど。

本は文字も大きく、挿画も綺麗です。



これは、サラブレッドのオーナー・ブリーダーのエピソードについていたもの。
「小説のようなノンフィクション」の言葉どおりの内容で、軽めの章ですが、印象に残りました。
競馬に限らず、ギャンブルはお好きなようです。
導入はカジノでのルーレット、最後は「ディープ・インパクト」。
章のタイトルは「漆黒の恋人」。
タイトルはどれも素敵でしたが、書名にもなった「ライオンと蜘蛛の巣」は、黒人スラム街の変革を志したジョンソン牧師の取り上げた章からのもの。
「かぼそい蜘蛛の巣も、人々が手を携えて丁寧に紡いでいけば、ライオンをも捕らえることができる」というジョンソン牧師の行動哲学からとったものだとか。

最終的に印象に残るのは、軽めのものより、やはり特派員として滞在した地の政治や歴史的背景につながる章です。
それらのエピソードには、それがリアルタイムだった頃、まだ、私は生まれたばかりだったり、夜7時のニュースはただ映っているだけのものだったものもあり、「歴史」になりきる前の、評価の確定していない歴史というような印象の不思議さがありました。






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