悪事が露見するかもしれない恐怖に耐えるのは、シェイクスピアの時代から変わらず至難の業です。

クレイ Clay
著者:デイヴィッド・アーモンド
訳者:金原瑞人
発行:河出書房新社
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田舎町に住む少年デイヴィ。
彼の住む町に、少年がひとり引っ越してきます。
スティーブン・ローズ。
ほかの少年たちとは違って学校にも通わない彼には、身を寄せた家の納屋にこもって粘土で何かを作っているという噂がありました。
大人たちは親戚を頼ってこの町にやってきた気の毒な境遇のスティーブンに訳知り顔で同情し、友達になってやれといいますが、少年たちは感じていました。
奴に関わらないほうがいい。
奴からはどこか不吉で危険な臭いがしている。
けれども、デイヴィは逃げきることができませんでした。
「動け!」
スティーブンの命じる声に応えて、彼が作った粘土細工が掌のうえで動くのを見てしまいます。
スティーブンは、俺とお前ならできるとささやきます。
粘土の人形に命を吹き込むことが、自分たちの命令だけを聞くモンスターをつくることが、ふたりでならできると。
ちょうど、神が人間をつくったように。
古今東西、誘惑には乗らぬが吉と相場が決まっています。
それでものってしまうほど、いつの時も誘惑は魅力的。
そして、その魅力と天秤にかかるのは罪の意識です。
100%信じているわけではないけれど、何のためらいもなく裏切ることもできない「神さま」への恐れ。
誰かとめてくれないだろうかと思いながらも、モンスターをつくるという夢とも現ともつかない秘密に魅入られていくデイヴィと一緒に、びくびくしながら読んでしまいました。
暗い秘密を抱えてしまったデイヴィは、どういう大人になるのだろうと思います。
忘れてしまうには優しすぎる少年です。
まるで光を象徴するような少女(その名もマリア)は「話せば楽になれる」といいますが、そんな簡単なものでしょうかね。
話して、君のせいじゃないと言ってもらえれば楽になる?
告解をして、神様に許してもらう?
それで罪悪感がなくなるなら、楽になるのかも。
でも、微妙な読後感です。
意地悪く、デイヴィに「君はスティーブンを救うことに失敗して、そしてひとりで行かせたのだ」といいたい気分になりました。
スティーブンが救われたかったかどうかはわかりませんけれど。
タイトルの「クレイ」は、ふたりの作った粘土の人形の名前です。
このクレイ、なんだか妙にせつない感じのするものでした。
言葉を持たないことのせつなさというか。
ちなみに著者は「肩胛骨は翼のなごり」の人だそうです。
これも評判でしたね。

肩胛骨は翼のなごり
著者:デイヴィッド・アーモンド
訳者:山田 順子
発行:東京創元社
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