第5巻では、訳詩の仕事が集められています。
『イタリアの詩人たち』、『ウンベルト・サバ詩集』、『ミケランジェロの詩と手紙』、『歌曲のためのナポリ詩集』。
須賀敦子全集第5巻
イタリアの詩人たち、ウンベルト・サバ詩集ほか
著者:須賀敦子
発行:河出書房新社
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著者がイタリアでの年月を綴った文章の中でも、詩や詩人はよく登場していました。
その度、何にもまして「ああ、外国。」と思っていた気がします。
これほど、詩が人々の傍近くにあるというそのことに。
それはとりもなおさず、私の近辺にはないということです。
私の詩歌に関連する体験は教科書的なものからさほど離れておらず、和歌、短歌、俳句、現代詩で多少なりとも思い出せるものといえば、おそらくだれもが知っているような作品。
そういう慣れていないところから、訳された詩を読むというのはなかなか難しいことでした。
本来の言語の響き、韻律は失われているので、作品が持っているはずのいかにも詩らしい、言葉が進む時にうまれる美しさやリズム、覚えやすさともいえる受け入れやすさがありません。
ともかく、文字を追い、空白、改行で休み、と、読み進めてゆくのみ。
そうするうちに、あらためて、自分がいかに七五調、五七調といった日本的な調子の良さに慣れて、知らずにそう読もうとしてしまっているかに気づきます。
あわないのがわかっていてもそうなってしまうのは、短い言葉の連なりの中に、伝えるべき何かがきちんと収まるときの気持ちよさの記憶があるからだろうと思います。
漢詩、和歌、短歌、俳句と、総じて短くきちんと収まるものが多いですし、調子の良さでいえば、都都逸あたりはいうに及ばずで。
訳詩のほうでも、時代によるものではありましょうけれど、堀口大學や上田敏など文語調の訳にはそういう語呂の良さがあったからこそ、たくさんの人が記憶にとどめ、口にしてきたのでしょう。
困ったなー。
読むリズムにうまく乗れない。
しかたがないので、詩だと思わずに読むことにしました。
もともと、詩集を読もうというよりは、須賀敦子全集の1冊だから手にした本です。
異なる言語のニュアンスを置き換えるために選ばれた言葉。
彼女がどうとらえ、異なる言語のニュアンスを置き換えるためにたくさんの言葉を組み合わせ、どう伝えようとしていたかがわかればいい。
そう思い直して、あらためて読みなおしていくと、現金なもので、今度はなんだか急に読めるような気がしてきます。
詩の中の風景、心情に、詩を作っている詩人の姿が重なって、さらに、詩集を開く人、詩を読んで聞かせている人たちがいる。
普通に暮らしていく中の一場面にふいに重なるように、全く違う場所でそれを焦がれるように、あるいは、詩人の傍近くに寄り添おうとするようにして、詩の一節がそれぞれの人の声で音が再現されていったかもしれない。
少し高い彼女自身の声で、彼女の夫の声で、これらの詩は幾度となく読まれたのです。
彼女の生活を彩り、組み込まれていった詩は、こういうものだったのかと思います。
もちろん、同じものを、同じように味わえるわけではなく、この第5集を読み終えても、詩に対しての親しみが劇的に増したかといえば「…少し…?」というところですし、読めるようになったかと言われれば「いや、それは…どうも…」と口ごもるよりほかない程度。
ただ、ウンベルト・サバと、サバの作品を愛した著者が以前よりくっきりとして、双六で第5集読了の駒まで来たら、『トリエステの坂道』へ戻る、とあったという気分です。
巻末の解説は池澤夏樹氏。
最初にこちらを読むべきだったと、つくづく思いました。
そうすれば、読めない、読めないと、うだうだをページを進みあぐね、振り出しに戻るようなことをしないですんでいたのに。
この解説のなかにあった一節。
『これを翻訳の活字をたどって読みながら、ぼくはこの詩の響きを聞きたいと願う。詩人自身の朗読によって。いや、もっと欲張って、それをアツコに向かって読んで聞かせるペッピーノの声を漏れ聞くかたちで。須賀敦子が書いたものは結局のところ、すべてその夜の幸福感につながるものなのだ。』
著者の語る出来事がどうしてこんなにも愛しいものとして伝わるのか、その答えがあったと思いました。
[読了:2012-06-24]
参加しています。地味に…。
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長いこと、気づかずにおり、申し訳ありませんでした。
さっそく読みにいかねば!
きしさんのアドバイスが非常に有効でした。
私、単純に平凡社ライブラリーは、あのはんぱなサイズが好きってとこがあるんですけど w
『夢のなかの夢』…。なんだか懐かしいみたいです。レビュー、楽しみにしてますね。
今回それも読んでみました。ちょっと訳が堅いのと値段がねぐーんとお高くなってしまって、一長一短なので、どちらを買おうかさんざん迷っていたんです。
とりあえず、『不穏の書』の方のレビューは書いて、もう1冊『不安の書』の方も来週中にはアップしたいとおもっているので、もしよかったら覗いてみてください。参考になるかどうかはわかりませんが…(汗)
そうそうかねて念願の『夢の中の夢』が読めそうです!
すごく楽しみ!!
ペソアにタブッキ。あー、ユリイカのタブッキ特集、まだ読んでなかった…。表紙の写真だけでちょっと満足しちゃったりするんですよね、いい顔で。
これがすごくよかったので、手元に置いておけるように購入しようと思っています。
タブッキの愛したペソアをほんの少し理解できた気がしてうれしくなると同時に、またまたタブッキを再読したくなってしまいました。
「イタリアの詩人たち」は解説があるのでまた別の趣きがありましたが、詩集の部分は、想像以上に読めてないなーと。
私は、もう詩はあきらめようかと思います(笑) 世に愛される詩人が多いのに、うーん、残念。
かもめ通信さんにはチャレンジしていただきたい気もしますが、がんばるって類のことではありませんものね。
私もペソアの詩集が気になっているのですが、どうにも読みこなす自信が無くて、このまま勝手に想像するだけにしておこうかとか…(苦笑)