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トウガラシが辛いのは菌類を撃退するためだった

2010-04-29 10:25:32 | ニュース
トウガラシの辛味成分は、有害な微生物の働きを阻止するために生み出されていることが新たに分かった。トウガラシは鳥などの動物に食べられれば種がまき散らされて繁殖につながるが、その前に微生物に食べられないように身を守っているというのだ。一部のトウガラシはそのような菌類を撃退するために辛味成分を増しているという。



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 トウガラシにはカプサイシノイドという化学物質が多量に含まれている。この物質は、昆虫が実に開けた穴から菌類が侵入する可能性がある場所で最も多く含まれることが示された。この事実は、シアトルにあるワシントン大学の生物学者、ジョシュア・テュークスベリー氏の研究で明らかになった。研究の結果は8月11日付けで、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌でオンライン公開されている。

 テュークスベリー氏は、ボリビア共和国の野生のトウガラシを調査した結果、今回の発見に至った。ボリビアの一部の野生トウガラシには、鋭い辛味のある個体と、少しも辛味のない個体が混在していたという。「辛いか辛くないかは実を噛んでみないと分からない。手ごわい調査だったよ」と同氏は笑う。しかし苦労のかいあって、同氏の研究チームは、ボリビア国内の300キロメートルにわたる調査地帯での辛さの変化を突き止めた。その結果、調査地帯の北の端では辛みのないトウガラシが多数を占めていた。そして南部のトウガラシは密度が高く、辛味も強いことが分かったという。

 研究チームはさらに、トウガラシの断面を観察するうちに、辛みのある個体にはアブラムシやコノハムシのような昆虫にかじられた跡が集中的に見られることに気付いた。「実の表皮は病原菌の侵入を防ぐ最初の壁になるが、かじられてしまえば侵入を阻止することはできなくなる。微生物は昆虫が穴を開けるたびに侵入してくる恐れがあり、穴を開けられる頻度が高まれば、侵入される危険も高まる」と同氏は説明する。

 室内実験を行ったところ、カプサイシノイドが菌類の侵入を妨げることは示したが、その一方、昆虫の攻撃は阻止できないことも明らかになった。同氏は「今回、調査対象としたトウガラシは、菌類の侵入を阻止する程度に辛く、その菌類の侵入は昆虫のなんらかの仲立ちがあって可能になるということのようだ」と述べている。

 また、同氏によると「この発見は、人類が抗菌のためにトウガラシを食べるようになったという仮説を支持するものだ」という。「トウガラシを食べている人の多くは赤道沿いの地域に住んでいるという。赤道沿いといえば微生物の活動が盛んで、さまざまな消化器疾患も引き起こされている地域だ。トウガラシと菌類ははるか昔から生存競争を続けていて、人類はその結果の恩恵を受けているということだ」と同氏は語っている。

 ワシントンD.C.にあるスミソニアン研究所国立自然史博物館の人類学者、リンダ・ペリー氏は、「このたび発表された研究で、カプサイシノイドが菌類を撃退するように進化したことが明確に示された」と話す。トウガラシの栽培植物化を専門とする研究者でもある同氏は、「しかしこの研究では、カプサイシノイドが食物の媒介する病気の防止や、防腐剤としての作用については証明されていない」とも述べている。「この研究で、トウガラシの抗菌作用がトウガラシ人気に深く関与していると示されたわけでもない。人類がトウガラシを食習慣に取り入れたのは、単においしいからではないか」。

Photograph by Tomas Carlo


バクテリアが貴重な金属を“採掘”

2010-04-29 10:16:01 | ニュース
最新の研究によると、ある種のバクテリアは、そのままでは役に立たない鉱石から、少量ではあるが貴重な金属を精製することができるという。鉱石を食べる微生物は、バクテリアの一種で、鉱石をエネルギー源にしている。こういった生物は代謝を通じて鉱石を分解する際、硫化した金属鉱石や精鋼を搾り出す。このプロセスは「バイオリーチング(生物冶金)」と呼ばれる。



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 近年、このプロセスは貴重な鉱石を抽出する重要な方法として注目を集めている。溶融精錬といった従来の方法では費用が掛かりすぎるようになっているからだという。また、電子産業が世界中から盛んに銅を求めるようになっていることも、バイオリーチング発展の大きな要因となっている。

 山形県にある慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝氏は、「微生物の中には金属イオンに反応するものがあり、うまく利用すれば低品位鉱石から銅を精製することができる。最終的な目標は、低品位鉱石から銅を精製するバイオテクノロジーを確立することだ」と話す。現在バイオリーチングは、既に世界の銅生産の20%を占めていると見積もられており、世界のおよそ20の銅山で活用されている。

 数千年前の昔から、坑水や赤さび色の川でバイオリーチングが起きていることは知られており、その“結果”自体は目にしていた。しかし、その“原因”がバクテリアにあることが判明したのは1947年のことであった。

 1947年、アメリカ西部のユタ州にある鉱山で、バクテリアが、採鉱廃棄物の岩石を積んだ山から銅を含む青みを帯びた溶液を生み出していることが発見された。その発見以降、ウラン鉱山や火山、温泉地など世界中でバイオリーチングに利用できる微生物が数十種類見つかった。

 初期のバイオリーチングは仕組みも非常に単純で生産量もごくわずかであったが、分子技術の発展に伴い、現在では、金属を好む微生物の増殖や機能を最適化する方法の研究が進んでいる。

 今年初め、冨田氏が率いる研究チームはチリのベンチャー企業バイオシグマ社(BioSigma)の科学者と共同研究を開始した。バイオシグマ社は、世界最大の銅生産者であるチリの国営銅公社コデルコ社(CODELCO)と日本の非鉄金属メーカー日鉱金属が共同出資して設立した会社である。共同研究の目的は、バイオリーチングにかかわるバクテリアの遺伝子やタンパク質、代謝産物を特定して“小さな採掘者”の速度と効率を改善することである。

 研究チームではバクテリアの消化システムの分析が進められており、現在のところ、エネルギー源として鉄や硫黄のみに依存する3種類の微生物のゲノム配列解読が完了している。こういった一連の研究により、目的のバクテリアを特定して増殖することが可能になる。

 微生物を利用した最初の産業レベルの採掘工場は2009年末に操業を開始する予定である。コデルコ社では、今後10年以内にバイオリーチングで年間10万トン以上の銅生産を達成することを見込んでいる。

 バイオリーチングは鉱業に伴う環境への負荷を軽減することもできるといわれている。宮城県にある東北大学の環境学者井上千弘氏は「バイオリーチングや生体酸化を利用した精製プロセスは、従来の溶融精錬に代わるものだ。溶融精錬では、二酸化炭素や二酸化硫黄が大量に排出され、砒素などの有毒物質も数種類発生する。さらに、消費するエネルギー量も膨大なものとなる」と話す。バイオシグマ社のリカルド・バディージャ氏は「バイオリーチングにより、従来の技術と比較してガス排出は10分の1、エネルギー消費量は2分の1、使用水量は5分の1に削減される」と話す。

 また、バイオリーチングは費用を抑えることも可能で、典型的な操業規模の場合、従来の溶融精錬の半分しか費用が掛からないという。ただし、バディージャ氏は次の点も指摘している。「研究しなければならないことがまだたくさんある。バイオリーチングの精製プロセスの改良が進めば、徐々に従来の技術に置き換わっていくだろうが、それまでには15年以上掛かるかもしれない」。

Photograph by Joel Sartore/NGS

降雨バクテリアが雲に乗って世界を巡る

2010-04-29 10:12:58 | ニュース
新しい研究によると、雲に生息している“雨を作るバクテリア”は、その生息域を世界中に広げる手段として雨を降らせるようになったのかもしれない。



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 今回の発表で科学者たちは初めて、生物学と気候の関係、そしてその小さな生物有機体が天候サイクルと共に世界を駆け巡る生態について垣間見ることになった。

 アメリカ、ルイジアナ州立大学の微生物学者ブレント・クリストナー氏による以前の研究では、氷核形成体と呼ばれる有機体が世界中の雨、雪、雹(ひょう)の中で見つかっている。この有機体が十分な濃度になると、雲中の氷を形成する効率的な要因になる可能性が高いことがクリストナー氏の研究で知られている。

 氷が雪や雨の基になるには、「氷核」と呼ばれる微粒子の1種に付着する必要がある。摂氏10度を超える温度で活性化する氷核形成体の大部分は、生物学的(バクテリア)氷核であることが確認されている。

 同氏はこれまでこの有機体の発生源を特定することができていなかった。しかし、最近の研究で南極大陸、カナダのユーコン準州、フランスのアルプスといった広い範囲の雪、土壌、そして苗木にその起源があることを確認した。

 この有機体は、各地の生態系と雲の間で連続的に行われるやり取りの一要素であるかもしれない。「大気科学のコミュニティ全体に広がる波紋だ。大気プロセスで生物学が役割を果たしているかもしれないなどという発想は、25年前なら一笑に付されていただろう」とクリストナー氏は言う。

 氷核形成体は、地上付近でもエアロゾルと同時に見つかっている。エアロゾルとは空気中に浮遊している小さな粒子のことで、大きさや化学組成、形状、光学的・電気的特性など多くの要素によってその性質は異なる。場所によっては、それらの氷核形成体はほとんど土壌生態系や植物生態系を起源としていることが、今回の研究成果で明らかになっている。

 クリストナー氏によると、氷核形成体が大気や降水を利用してその生息域を拡大している可能性があるそうだ。まるで植物が花粉粒を風で飛ばして新しい生息地に移住するように。例えば、植物だけに生息する有機体・生物が空気で運ばれ、雲の中で氷の形成を刺激し、降雨によって地球に戻ってくることも考えられる。

「これはバクテリアの通常のライフサイクルにおける、まだ知られざる重要な一過程であるかもしれない」とクリストナー氏は説明する。

 今回の研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Science」誌において2008年11月に発表された。

 “生物起因の降水”(bioprecipitation)と呼ばれる理論は、1980年代にモンタナ州立大学の植物病理学者デイビッド・サンズ氏によって最初に提唱された。しかし、クリストナー氏の研究チームが2005年に研究を始めるまで、雨を作るバクテリアが大気中を移動する方法については誰も目を向けなかった。

 サンズ氏がナショナルジオ グラフィックニュースに語ったところでは、この有機体は型破りな移動手段さえ利用するかもしれないという。例えば、花粉や昆虫の移動に“便乗”することも可能かもしれないというのだ。「単なる植物の病原菌だと思われていたが、山上湖や滝、そして南極大陸でも見つかっている。このバクテリアはあちこち移動しているんだ」とサンズ氏は言う。

 大気中にある重要な氷核形成体のほとんどはまだ識別されていない。例えばほかの多くの有機体も、花粉粒、真菌やほかの生物と同じように氷核形成体を生じさせているのかもしれない。

 コロラド州ボルダーにあるアメリカ大気研究センター(NCAR)の研究主任ロイ・ラスムセン氏は、冬季における地球の水循環を研究している。バクテリアが水の循環を左右するという理論については、「面白い仮説だが、まだ確認されていない問題は、そのような細胞の濃度が降水形成に有意義な影響を与えるほど高くなるのかどうかということだ」とラスムセン氏は電子メールで述べている。

Photograph by David Alan Harvey

鉛入りの雲が天気を変える?

2010-04-29 09:46:04 | ニュース
気温が高すぎたり、空気が乾きすぎていたり、本来なら雲が形成されない条件でも、空気中に鉛が含まれていれば雲は発生する。科学者チームが採取した雲の調査や雲を生成する実験を行ったところ、そのような結論が導き出されたという。



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 産業排出物の鉛ダストを主要因として発生する鉛含有量の多い雲は、天候パターンを変化させるだけでなく、地球温暖化防止にも役立つかもしれないことを今回の研究は示唆している。

 研究チームがスイスの山の頂上で採取した雲のサンプルを調べたところ、氷晶の約半分に鉛が含まれていることがわかった。さらに研究室で人工的な雲を作る実験も行われ、鉛が実際に氷晶形成を引き起こす事実も確認された。

 実験では、気温が高かったり、乾燥したりしていても、空気中に鉛が含まれていれば雲が形成された。氷晶の核となるちり粒子に、鉛が影響を与えているという。

 地球の温暖化や乾燥化が進むと、鉛含有量の多い雲が引き金となって降雨や降雪に予測不能な変化が起こるかもしれないと研究チームは推測している。「雲に鉛を散布することで、氷晶の形成や降水を早められることは1940年代には既に確認されていた」と、米国エネルギー省のパシフィック・ノースウェスト国立研究所で大気化学を研究しているダン・チクゾ氏は指摘する。

「しかし今回、石炭の燃焼のような人間の活動によって鉛が無意識にばらまかれ、それが計画的な散布と同じ効果を持つことが初めて確認された。その影響で降水パターンがどのように変化するのかは、追跡調査をしてみなければわからない」とチクゾ氏は話を続けた。

 鉛を含有する雲は、地球温暖化の阻止に一役買うかもしれない。研究チームのコンピューター・シミュレーションでは低空で雲が多めに形成されたが、低空に雲が増えれば地球の熱をより多く宇宙へ逃がすことができる。とはいえ、地球温暖化対策の緊急措置として使えるわけではないという。「気候システムはそれだけ複雑だということだ」とチクゾ氏は言う。

 有鉛ガソリンが使われていた20世紀と比べ、現在は大気中に排出される鉛の量は減少しているが、厳格な管理が行われることなく石炭火力発電所が増えていけば、鉛の排出量が再び急増することもあり得る。

 今回の発見は、「Nature Geoscience」誌オンライン版で4月19日に発表された。

Photograph by David Alan Harvey

大気汚染により3日でDNAが変質 だが葉酸で修復も

2010-04-29 09:41:56 | ニュース
汚染された空気を吸い込むと、人間のDNAが損傷を受ける恐れがある。わずか3日で遺伝子が組み換えられたり、癌(がん)などの病気の発生率が上昇したりするというのだ。イタリア北西部の都市ブレシアにある製鋼所で働く63人の作業員についてDNAの損傷を追跡調査したところ、そのように示唆する研究成果が得られたという。被験者たちは、通常の作業の中で常に粒子状物質を吸い込んでいた。



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 研究チームによると、普通の空気を吸っている都市生活者でも同じような損傷を受ける危険性があるという。大気中に漂う細かな“ちり”や、金属粉、“すす”といった粒子状物質は肺に滞留する場合があるが、これらの物質は呼吸器系疾患、肺癌、心臓病などを引き起こす可能性が指摘されている。

「粒子状物質の吸入がどのように作用して健康被害が生じるのか。その仕組みはまだ解明が進んでいない」と、イタリアのミラノ大学に在籍し、今回の研究のリーダーを務めたアンドレア・バッカレリ氏は説明する。

 しかし、粒子状物質を吸っていた作業員のDNAが、メチル化率の減少で損傷を受けていたことは確認された。メチル化とは、遺伝子が異なる化学基に結合される生体内作用を指す。化学基が減少するということは、体の定期的な修復にとって重要なプロセスである遺伝子の発現(タンパク質の生成)が減少するということである。

 今回の研究で観察されたような遺伝子グループの縮小は、肺癌患者の血液から抽出したDNAでも見つかっている。今回の研究では、作業員の血液は週明けの朝、つまり粒子状物質を大量に吸い込む前に採取され、数日後にも再び採取された。

 アメリカのカリフォルニア州サンディエゴで開催されたアメリカ胸部疾患学会国際会議で、5月17日に研究成果を発表したバッカレリ氏は次のように説明する。「2つのサンプルを比較したところ、腫瘍を抑制すると考えられている4つの遺伝子のメチル化に大きな変化が確認された。このような遺伝子の損傷は、製鋼所で働いていなくても起こる恐れがある」。

 たしかに、製鋼所周辺の空気には通常の約10倍に及ぶ粒子状物質が含まれており、その大部分は金属である。

 しかし研究チームは、都市生活者にも同じ損傷が発生する可能性があると推測している。ただし、影響が出るまでには数週間から数カ月かかるという。例えばバッカレリ氏が以前に行った調査では、アメリカのボストンに住む高齢者が、粒子状物質を吸い込んだことによりDNAの損傷を起こしていた。しかし同氏は、「普通に生活している人にまで話を広げるのはまだ早い。いまは、大気汚染の深刻な状況下で検証を重ねることが重要だ」と述べている。

 アメリカにあるオレゴン健康科学大学の医学教授で、アメリカ胸部疾患学会の元会長でもあるジョン・へフナー氏は、第三者の視点から次のよう解説する。「新しい研究により、粒子状物質の吸入と肺癌の間に強い関係があることが確認された。粒子状物質の吸入がメチル化のプロセスを通じてDNAに影響を与えることは、ほかの研究者も証明している。彼らの研究では、影響を受ける遺伝子が、肺癌の発達と関連している遺伝子であることが確認されている」。

 バッカレリ氏の研究チームが行った別の研究では、粒子状物質を原因としたメチル化によるDNA損傷は、葉酸を摂取することで進行を抑えられたり、場合によっては修復さえ可能なことが指摘されている。葉酸は、多くの食品に自然の状態で含まれているビタミンである。「このビタミンを摂取すると、メチル化が効率化する可能性がある。葉酸の摂取量が多い被験者ほど、粒子状物質の影響が心臓に出ていないことが私たちの研究で確認された」と、研究を指揮したバッカレリ氏は述べている。

Photograph by Ron Schwane/AP

地球の大気を浄化する未知の物質

2010-04-29 09:39:20 | ニュース
われわれの母なる自然に、有害な大気汚染を一掃する力を持つ“洗浄剤”が隠されているのかもしれない。ヒドロキシラジカルという分子は、有害な微量ガスを自然分解するときに“悪玉”のオゾンも生成するが、今回このオゾン排出が少ないケースが報告された。この浄化作用を行っている謎めいた物質の存在が、数十年間唱えられてきた大気の自浄作用に関する仮説を揺るがせている。



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 大気中の汚染物質はいろいろな経路で分解されるが、重要な役割を果たす物質にヒドロキシ(OH)ラジカル(水酸ラジカル)という分子が知られている。いわゆる活性酸素の一種で、大気の最下層に存在する微量ガス(希ガス)を自然分解するが、その際に生じる“悪玉”オゾンガスが問題視されてきた。成層圏のオゾン層は有害な紫外線を遮断してくれるが、それより下層のオゾンは温室効果ガスの一種であり、人間に有毒な大気汚染物質でもあるためだ。

 この長年の仮説を覆す現象が、重度の汚染地域である中国の珠江デルタ地帯で報告され、専門家たちを戸惑わせている。この場所では、ヒドロキシラジカルが大量に検出されるにもかかわらず、オゾンの発生は比較的少量だったことが確認された。

「この分野の研究は長年にわたって続けられてきたのに、いまになってこれほど想定外の状況が見つかるとはまったく驚いた」と、今回の事例の共同研究者で、ドイツのユーリッヒ研究センター地球圏化学・ダイナミクス研究所に所属するフランツ・ローラー氏は語る。

 高反応性のヒドロキシラジカルは、大気中に自然に存在する水蒸気や一酸化窒素と酸化・還元反応を繰り返すことで再循環している。「その天然の自浄メカニズムの中で微量の汚染物質が分解される」と同氏は説明するが、一酸化窒素によるヒドロキシラジカル再循環の際には有毒なオゾンも発生してしまう。

 しかし、中国広東省の広州から北西60キロに位置する珠江デルタ地帯は、同氏らの研究チームが測定した中では最も高濃度のヒドロキシラジカルが検出された場所だったが、それにしては大気中に含まれているオゾン量が少なかったのである。

 この結果から、ヒドロキシラジカルの再循環には、一酸化窒素を伴わない別の経路があるのではないかと推測される。「一酸化窒素を伴わない循環経路はあまりに予想外だったので、従来の技術では適切な測定手段がなかったとも考えられる」とローラー氏は話す。

 同氏の同僚で研究を率いたアンドレアス・ホフツマハウス(Andreas Hofzumahaus)氏は、中国で採取した大気サンプルを研究施設のシミュレーション室内で分析する予定だという。

 前出のローラー氏もこの分析には期待を寄せ、次のように述べている。「この謎が解ければ、地球の大気にプラスの効果を持つ物質がわかる。有害な汚染物質が素早く分解されつつ、オゾンも生成されないという一石二鳥の仕組みが明らかになる」。

 一方、ハーバード大学大気化学モデリング研究室の博士課程修了研究員であるジンチウ・マオ(Jingqiu Mao)氏は、メール取材に対し次のように答えている。「珠江デルタの高濃度ヒドロキシラジカルについては別の説明も可能かもしれない。だが、この研究ではこれまで世界中で行われてきた実地調査で得られなかった結果が出ている。さらなる現地調査や研究施設での実験によってこの裏付けがとれれば、オゾン生成に関するわれわれの認識は大きく変わることになるだろう」。

 今回の研究は「Science」誌の今週号に掲載されている。

Photograph by Anat Givon/AP

温暖化阻止へ7つの解決策:硫黄散布

2010-04-29 09:11:13 | ニュース
地球温暖化には賛否両論だが、
人工火山、という言葉を聞いて、アイスランド火山は人工的な力が加えられたかもしれない、という仮説もじゅうぶんありえるのだ。

National Geographic News
March 25, 2010


「気候変動には気候の改変で対抗すべき」と地球工学は提唱する。大気中にため込まれた温室効果ガスの影響を、人為的な操作で低減しようという発想だ。そうしたアイデアの1つに“人工火山”がある。火山灰の成分である硫黄を上層大気に散布し、地球規模の“日よけ”として利用するという。上のイメージ図のように、硫黄の粒子が太陽の熱や光を宇宙空間に跳ね返す仕組みだ。

 アメリカ、カリフォルニア州パシフィックグローブで開催されている「気候介入技術に関するアシロマ国際会議(Asilomar International Conference on Climate Intervention Technologies)」の初会合では、この人工火山を始めとするさまざまな緊急対策が詳細に検討されている。同会議は今後、地球工学的な倫理行動基準を定めた世界初の任意ガイドラインを起草する予定だが、大部分は「思いつき」の域を出ていない。

 アメリカ、ワシントンD.C.にある公共政策研究アメリカンエンタープライズ研究所(AEI)で地球工学プロジェクトの共同ディレクターを務めるサミュエル・サーンストロム(Samuel Thernstrom)氏は、「気候変動は難問で、一朝一夕には解決できそうにない」と話す。

 しかし、「地球温暖化はコントロールできる」という。「意図的な気候改変を含め、専門家はあらゆる選択肢を真剣に検討すべきだ。荒唐無稽だと頭から無視せずに、地球工学的な議論にも耳を傾ける必要があるだろう」と同氏は主張する。

Illustration by Bryan Christie Design, National Geographic Stock

酸素不要の多細胞生物を初めて発見

2010-04-29 08:55:04 | ニュース
地中海の海底で発見された新種の生物が、酸素がなくても生きられることが多細胞生物として初めて確認された。



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 これまで、酸素のない状態で長期間生存できるのはウイルスや単細胞の微生物だけと考えられてきた。しかし、調査隊のリーダーでイタリアのマルケ州立ポリテクニック大学に所属するロベルト・ダノバロ氏によれば、最近行われた調査で発見された3種類の新種の多細胞生物は、酸素のない深海で問題なく生息していたという。

 同氏は声明の中で次のように述べる。「これまでにも酸素のない水域で多細胞生物の死骸は発見されていたが、(死んだあとで)酸素のある上層の水域から沈んだものと考えられていた。しかし、今回の調査で発見した生物は(酸素のない水域でも)生きており、卵を持つものまでいた」。

 これらの新種はそれぞれ体長が1ミリに満たない小さなクラゲに似た微生物で、地球上で最も過酷な環境の1つである、塩分濃度が極端に高い地中海の海底の堆積物の中で繁殖しているようだ。

 ヒトを含む多細胞生物のほとんどは細胞の内部にミトコンドリアという器官を持つ。ミトコンドリアは、酸素を使って栄養分をアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギー分子に変える。今回発見された新種は、酸素なしでATPを作ることができるようにミトコンドリアが変異したハイドロジェノソームを持っていると考えられる。これまでハイドロジェノソームは単細胞生物の体内でしか確認されていない。

 スロバキアにあるコメンスキー大学の生化学者で、この研究の解説記事の共著者であるマレク・メンテル氏は、これらの新種の共通の祖先である何億年も前の生物が、少なくとも短時間は酸素なしで生きる能力を持っていた可能性があると考えている。まず大気中で、次に水中で酸素が増加するにつれて、生物は2つの系統に分かれ、一部を除くほとんどの生物が酸素の豊富な新しい環境に適応した。海中の酸素の濃度が高まると、生物はエネルギーを作るための化学物質を豊富に得られるようになり、「大型化し、さらに陸上生活に適応していった」。なお、同氏は今回の調査チームには参加していない。

 また、プエルト・リコ大学アレシボ校の宇宙生物学者で今回の研究に参加していないアベル・メンデス氏は電子メールでの取材に対し、「この研究は地球外生命体の探査にも大きな意味を持つ」と答える。地球以外の太陽系の惑星で複雑な構造の生物が見つかる可能性があると考える人はほとんどいない。しかし、氷でできた木星の衛星エウロパは地下に海があると考えられており、今回の新種が発見された海底に似た、低温で塩分濃度が高く酸素もない環境が存在するかもしれないと同氏は推測する。

Diagram courtesy Roberto Danovaro

海底で命を育むアスファルト火山を発見

2010-04-29 08:27:00 | ニュース
アメリカ、カリフォルニア州沿岸沖の海底で奇妙な半球状の地形が発見された。調査の結果、原油と海洋生物の化石が混ざり合い硬化してできた“アスファルト火山”と判明した。火山としての活動は停止しているという。



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 カリフォルニア州サンタバーバラの沖合およそ16キロ、水深213メートルの海底に鎮座する7つの小山が発見されたのは2007年だった。先日、潜水ロボット「アルビン」で行われた地形調査によると、最も大きな山はサッカー場2つ分ほどの広さを持ち、6階建てのビルに匹敵する高さがある。

 この半球状の地形を構成しているのは主に原油に含まれる重質成分、アスファルトである。道路や駐車場の舗装材、あるいはガソリンの原料と基本的に同じものだ。

 研究チームのリーダーでカリフォルニア大学サンタバーバラ校の地球科学者デイビッド・バレンタイン氏は、「最も大きな火山のアスファルトを全部ガソリンに変えたとすると、小型乗用車で走る8億キロ分にもなる」と話す。しかし燃料にはまず使えないらしい。「品質が非常に悪く、用途の広い軽質スイート原油とは比較にならない」。

 採取したサンプルを分析した結果、火山が現在の大きさに達するには数十年、あるいは数百年を要しており、最後の噴火はおよそ3万5000年前であるとわかった。

 研究チームの一員でアメリカのマサチューセッツ州にあるウッズホール海洋研究所に所属するクリストファー・レディー氏は次のように話す。「石油流出を専門とする化学者として非常に興味深い。海中で石油が3万5000年後にどのような姿になるのか、この火山でわかるんだ」。

「アスファルト火山が活動を開始する仕組みはまだよくわかっていない」とバレンタイン氏は話す。現時点で判明しているのは、天然の石油・ガス鉱床が地球内部から漏れ出てくるときに噴火が起きるという事実だけである。

 およそ3万5000年前、サンタバーバラ沖で起こった海中メタンの急増化現象は、アスファルト火山噴火が原因だと研究チームは考えている。

 バレンタイン氏は、「通常、メタンは石油と一緒に形成される。両者は関連し合っている」と話す。また、石油の流動ははるか昔に終わっているが、メタンガスは現在でもこの火山の近くで泡を立て続けている。

 アスファルト火山が噴火していた時代の大量のメタン放出が、メタン菌の劇的な増加に寄与した可能性がある。メタン菌はメタンを摂取しつつ海水中の酸素を枯渇させるので、サンタバーバラ海盆には、ほとんどの海洋生物にとって酸欠死の領域、“デッドゾーン”が大規模に形成されたと考えられる。

 さらに加えて、噴火が起きた海面では、軽質の石油分子が非常に大きな油膜となって広がっていた可能性が高い。「アスファルト火山自体は、重質の石油分子でできている。地球内部での “加熱”時間が不十分だった場合に形成され、石油は通常よりも粘性が高くなる」とバレンタイン氏は説明する。

 重質の石油は海底にとどまり、硬化したアスファルトになる。時がたつにつれて何層にも重なり、侵食を受けながらもさまざまな物質を取り込み、巨大な山を作り出したという。

 アメリカ地質調査所(USGS)の地質学者トム・ロレンソン氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「サンタバーバラ沖で見つかったような海底アスファルト火山は世界各地に存在するが、非常に珍しい地形だ。メキシコ湾で最近発見されたのは活火山だった」。

 ロレンソン氏は今回の研究に関して同意できない点があるという。「3万5000年前の火山にしては表面がきれいすぎる。ほかのアスファルト火山の場合は表面に非常に多くの海洋生物が密集して生息している。サンタバーバラ沖の火山は想定よりも若い可能性がある」。

 これに対し、フロリダ州立大学の生物海洋学者イアン・マクドナルド氏は、「生物の状態は火山の石油の性質に応じて変わる。表面の状態だけでアスファルト火山の年齢は判断できないだろう」と述べる。

 アスファルト火山の環境がある種の海洋生物にとって適しているという点は間違いない。マクドナルド氏は次のように話す。「深海では硬い土台が形成されるメカニズムがほとんどなく、ぬかるんだ状態が基本だ。アスファルト火山は、海洋生物の生息地を生み出すプロセスとして重要な意味を持っている」。

 この研究は「Nature Geoscience」誌オンライン版に4月25日付けで掲載されている。

Diagram courtesy Jack Cook, Woods Hole Oceanographic Institution