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バクテリアが貴重な金属を“採掘”

2010-04-29 10:16:01 | ニュース
最新の研究によると、ある種のバクテリアは、そのままでは役に立たない鉱石から、少量ではあるが貴重な金属を精製することができるという。鉱石を食べる微生物は、バクテリアの一種で、鉱石をエネルギー源にしている。こういった生物は代謝を通じて鉱石を分解する際、硫化した金属鉱石や精鋼を搾り出す。このプロセスは「バイオリーチング(生物冶金)」と呼ばれる。



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 近年、このプロセスは貴重な鉱石を抽出する重要な方法として注目を集めている。溶融精錬といった従来の方法では費用が掛かりすぎるようになっているからだという。また、電子産業が世界中から盛んに銅を求めるようになっていることも、バイオリーチング発展の大きな要因となっている。

 山形県にある慶應義塾大学先端生命科学研究所の冨田勝氏は、「微生物の中には金属イオンに反応するものがあり、うまく利用すれば低品位鉱石から銅を精製することができる。最終的な目標は、低品位鉱石から銅を精製するバイオテクノロジーを確立することだ」と話す。現在バイオリーチングは、既に世界の銅生産の20%を占めていると見積もられており、世界のおよそ20の銅山で活用されている。

 数千年前の昔から、坑水や赤さび色の川でバイオリーチングが起きていることは知られており、その“結果”自体は目にしていた。しかし、その“原因”がバクテリアにあることが判明したのは1947年のことであった。

 1947年、アメリカ西部のユタ州にある鉱山で、バクテリアが、採鉱廃棄物の岩石を積んだ山から銅を含む青みを帯びた溶液を生み出していることが発見された。その発見以降、ウラン鉱山や火山、温泉地など世界中でバイオリーチングに利用できる微生物が数十種類見つかった。

 初期のバイオリーチングは仕組みも非常に単純で生産量もごくわずかであったが、分子技術の発展に伴い、現在では、金属を好む微生物の増殖や機能を最適化する方法の研究が進んでいる。

 今年初め、冨田氏が率いる研究チームはチリのベンチャー企業バイオシグマ社(BioSigma)の科学者と共同研究を開始した。バイオシグマ社は、世界最大の銅生産者であるチリの国営銅公社コデルコ社(CODELCO)と日本の非鉄金属メーカー日鉱金属が共同出資して設立した会社である。共同研究の目的は、バイオリーチングにかかわるバクテリアの遺伝子やタンパク質、代謝産物を特定して“小さな採掘者”の速度と効率を改善することである。

 研究チームではバクテリアの消化システムの分析が進められており、現在のところ、エネルギー源として鉄や硫黄のみに依存する3種類の微生物のゲノム配列解読が完了している。こういった一連の研究により、目的のバクテリアを特定して増殖することが可能になる。

 微生物を利用した最初の産業レベルの採掘工場は2009年末に操業を開始する予定である。コデルコ社では、今後10年以内にバイオリーチングで年間10万トン以上の銅生産を達成することを見込んでいる。

 バイオリーチングは鉱業に伴う環境への負荷を軽減することもできるといわれている。宮城県にある東北大学の環境学者井上千弘氏は「バイオリーチングや生体酸化を利用した精製プロセスは、従来の溶融精錬に代わるものだ。溶融精錬では、二酸化炭素や二酸化硫黄が大量に排出され、砒素などの有毒物質も数種類発生する。さらに、消費するエネルギー量も膨大なものとなる」と話す。バイオシグマ社のリカルド・バディージャ氏は「バイオリーチングにより、従来の技術と比較してガス排出は10分の1、エネルギー消費量は2分の1、使用水量は5分の1に削減される」と話す。

 また、バイオリーチングは費用を抑えることも可能で、典型的な操業規模の場合、従来の溶融精錬の半分しか費用が掛からないという。ただし、バディージャ氏は次の点も指摘している。「研究しなければならないことがまだたくさんある。バイオリーチングの精製プロセスの改良が進めば、徐々に従来の技術に置き換わっていくだろうが、それまでには15年以上掛かるかもしれない」。

Photograph by Joel Sartore/NGS