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トウガラシが辛いのは菌類を撃退するためだった

2010-04-29 10:25:32 | ニュース
トウガラシの辛味成分は、有害な微生物の働きを阻止するために生み出されていることが新たに分かった。トウガラシは鳥などの動物に食べられれば種がまき散らされて繁殖につながるが、その前に微生物に食べられないように身を守っているというのだ。一部のトウガラシはそのような菌類を撃退するために辛味成分を増しているという。



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 トウガラシにはカプサイシノイドという化学物質が多量に含まれている。この物質は、昆虫が実に開けた穴から菌類が侵入する可能性がある場所で最も多く含まれることが示された。この事実は、シアトルにあるワシントン大学の生物学者、ジョシュア・テュークスベリー氏の研究で明らかになった。研究の結果は8月11日付けで、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌でオンライン公開されている。

 テュークスベリー氏は、ボリビア共和国の野生のトウガラシを調査した結果、今回の発見に至った。ボリビアの一部の野生トウガラシには、鋭い辛味のある個体と、少しも辛味のない個体が混在していたという。「辛いか辛くないかは実を噛んでみないと分からない。手ごわい調査だったよ」と同氏は笑う。しかし苦労のかいあって、同氏の研究チームは、ボリビア国内の300キロメートルにわたる調査地帯での辛さの変化を突き止めた。その結果、調査地帯の北の端では辛みのないトウガラシが多数を占めていた。そして南部のトウガラシは密度が高く、辛味も強いことが分かったという。

 研究チームはさらに、トウガラシの断面を観察するうちに、辛みのある個体にはアブラムシやコノハムシのような昆虫にかじられた跡が集中的に見られることに気付いた。「実の表皮は病原菌の侵入を防ぐ最初の壁になるが、かじられてしまえば侵入を阻止することはできなくなる。微生物は昆虫が穴を開けるたびに侵入してくる恐れがあり、穴を開けられる頻度が高まれば、侵入される危険も高まる」と同氏は説明する。

 室内実験を行ったところ、カプサイシノイドが菌類の侵入を妨げることは示したが、その一方、昆虫の攻撃は阻止できないことも明らかになった。同氏は「今回、調査対象としたトウガラシは、菌類の侵入を阻止する程度に辛く、その菌類の侵入は昆虫のなんらかの仲立ちがあって可能になるということのようだ」と述べている。

 また、同氏によると「この発見は、人類が抗菌のためにトウガラシを食べるようになったという仮説を支持するものだ」という。「トウガラシを食べている人の多くは赤道沿いの地域に住んでいるという。赤道沿いといえば微生物の活動が盛んで、さまざまな消化器疾患も引き起こされている地域だ。トウガラシと菌類ははるか昔から生存競争を続けていて、人類はその結果の恩恵を受けているということだ」と同氏は語っている。

 ワシントンD.C.にあるスミソニアン研究所国立自然史博物館の人類学者、リンダ・ペリー氏は、「このたび発表された研究で、カプサイシノイドが菌類を撃退するように進化したことが明確に示された」と話す。トウガラシの栽培植物化を専門とする研究者でもある同氏は、「しかしこの研究では、カプサイシノイドが食物の媒介する病気の防止や、防腐剤としての作用については証明されていない」とも述べている。「この研究で、トウガラシの抗菌作用がトウガラシ人気に深く関与していると示されたわけでもない。人類がトウガラシを食習慣に取り入れたのは、単においしいからではないか」。

Photograph by Tomas Carlo