ミケランジェロの「ピエタ」といえば
ヴァチカンのサン・ピエトロ寺院のものが有名。
フィレンツェのドゥオーモ美術館などという
マイナーなところに収蔵されているけれど
彼自身の墓碑を飾る彫刻として製作を開始した
こちらのピエタも
晩年の作品として興味深いもの。
すでに名声と富を手に入れて
1530年頃からローマ滞在を続けていたミケランジェロは
手にした名声と財産にもかかわらず、
彼の宗教心に従い、
ローマの街なかの小さな家で質素に暮らしていたらしい。
もともと私生活には派手さのない芸術家ですから。
「ピエタ」というテーマは
十字架から降ろされて力なくなっているキリストの身体を
聖母マリアと聖人たちが支えるシーンを表現したもので
キリストの苦しみと息子を失った聖母マリアの悲しみを
表している作品ではありますが、
その裏に暗に「キリスト復活」を秘めているため
作品全体にはすがすがしさや平穏が見てとれます。
実際、ミケランジェロの若い頃の作品である
サン・ピエトロ寺院の「ピエタ」には
聖母マリアの表情や
横たわるキリストの肉体の美しさの中に
そうした傾向が見られます。
しかし、晩年の彼の作品となるピエタには
そうした「復活」への希望は反映されにくくなり、
むしろ自分自身に近づく最期への不安が
大きく反映されているといわれます。
聖母マリアに抱かれて力なく横たわるイエスキリスト。
その後ろにひときわ大きく表現されるのがニコデモ(Nicodemo)。
この像の中にミケランジェロは自画像を実現。
確かに自画像!
左脇のマリア・マッダレーナは
ミケランジェロが未完成のまま残した部分で
その後Calcagni(カルカーニ)によって完成されたものの
他の3人の人物に対してプロポーションが小さく
スタイルも彫りの粗さも
ずいぶんと違っているのがよくわかります。
ミケランジェロは晩年の自分の作品にあまり満足することがなく
この作品もある日、
突然の怒りに任せて自らの手で叩き割ってしまい
みかねた召使がその破片を集めて、
地元のとある地主に売り
この作品を修復するように依頼したといわれます。
ミケランジェロも自分の行為を多いに後悔していたらしく
実際には修復士に助言を与え、
マッダレーナ像の不出来具合にも
目をつぶったとも伝えられています。
修復が完了した大作は
フィレンツェのドゥオーモに運び込まれ
1960年代にドゥオーモ付属美術館へ移像。
今でもこの作品のキリストの腕と左足、
聖母マリアの手などに
ミケランジェロが破壊した部分が明らかに確認できます。
こちらこそありがとうございます。
イタリアのルネッサンス美術は
学問的にもただの興味の範囲でも
すごく面白いと思っています。
私が感じたままをお伝えしているだけですが
読んでいただけているのはとてもありがたいです。
確かに地味な作品ですが、裏話は色々あるんだなぁと思うと身近に感じられますよね。
>あきちゃん
そうかぁ、未体験ゾーンなのですね。
改装前のドゥオーモ美術館で具合が悪くなったのでしばらく足が遠のいていたんだけど
改装後はすっきりきれいになって楽しい美術館になりました。
今回は別件の調べ物で行ったのだけど
やっぱりこの作品には惹かれます。
行こう行こうと思いつつ、
彫刻よりは絵が好きなので、
他に行ってしまったり。
観光客は少なそうなので、
今度は行ってみよう♪
また、美術にも詳しくて、しかもとても分かり易い説明で感心しています。
4つのピエタのうちこのピエタが一番地味ですが、この話を聞いて、最も親しみの湧くピエタに成りました。