Harvard Square Journal ~ ボストンの大学街で考えるあれこれ

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「イマジネーションは、人の心を理解する最高の顕微鏡」~ピューリッツアー作家の講演

2012-04-03 | Harvard-Nieman
毎週水曜日のセミナーには、いつも豪華ゲストがトークに来てくれるのですが、今日はデビュー作でいきなり2010年のピューリッツアー賞を受賞、ボストン近郊に住む作家のポール・ハーディング。イベントはハーバードコミュニティにも開かれているのですが、今日は本当にどこから来たのかという人で会場は満杯。これまでで一番、参加者が多かった気がします。ハーディングの作品は気になっていたものの、告白すると、彼の受賞作も読んでいません(汗)。というわけで、このブログでは、あくまでの今日の講演の話しで印象に残った言葉を綴っていきます。

私が最も印象に残った言葉。「イマジネーションは、人の心を理解する最高の顕微鏡」。
簡潔ながら何と豊かな表現。もう完全ノックアウト状態(笑)。彼はドラマーでもあるせいか、とってもテンポがよく、ジャズっぽく話す方でした。しかも謙虚で自虐的。「それなりの脳みそがあれば、こういう宇宙にアクセスできる」と付け加えて、皆を励ましてくれましたw

ともかく、この本を書いているときは、授業を教えて、子育てもするなど、とにかく忙しくて、机の前に座る時間がなく、コンピュータ使わず、ナプキンの裏、その辺にある紙、などに書きなぐり、それをホチキスでとめて床に並べて、構成を考えたという。
「作家であることは、効率的であることではない」。
やっぱ、このあたり天才的。
 
また、ストーリーを書くときは、読者のことは全く考えないと断言。ここで会場大爆笑。
「それに応えて、繰り返し、読者のことなんて考えたこと、一度もないよ!」

「大事なのは、自分を信じる。自分の登場人物を信じる」。
「他の作家が、読者の時間を使わせたくないから、分量を短くする、複雑なものは避ける、といるが自分はそんなことはしない」’。
「分かりやすいものなんて書かない。これでもか、というほど、行けるところまで、複雑なものを書きたい」。
人生や人間は複雑なものなのだから、確かにそうだ。

「作家に必要なのは、Quality of Attention。ものをよく見る、匂いをかぐ、物事のディーテールをみる、何より人間に興味を持つ」。「物を見る視点に意識的になること」。

「最良の文章は自分の経験から出てくるもの。自分しか語れないことを語れ」。「自分ならではのものの見方を確立する」。

「他の人の作品をたくさん読む」。

「主人公の中に入って行く」。「主人公が決まれば彼らから勝手に話しはじめる。作家はそれを書いていけばいい」。「プロットではなく登場人物が大事」。

「言葉の力だけを使うが、物を読んでいると思わせない」。

「書くことは技術的に難しい。ちゃんと基礎を学び、モデルになるスタイルを持つこと必要」。「そうして始めて、文章で遊べる」。しかし、未だに、わざと時制を変えて書いても「あなた、文法をちゃんを勉強しなくちゃ」と師匠に叱られるそうだ。ここで聴衆爆笑w

彼はアイオワ大学ライターズワークショップという、今年設立75周年となる、全米で最も歴史と名声のある、クリエイティブ・ライティングプログラムの出身者。米国には、作家になるために学ベる場がたくさんある。(米国の大学院の修士課程は、アカデミックというよりは、職業訓練校的な色彩を持つ。学問をしたい人は、博士課程に進む例が多い)勿論、世の中の作家の大半は、こうした場で学ばずに偉大な作品を仕上げているが、彼が言うように、基礎をきちんと学べることは大事で、それが、作家の裾野を広くするような気がする。

会場からの質問で、大手出版社からの出版では、商業的なプレッシャーはないかという質問があったが、それはないということ。むしろ、大手出版者の編集者はなかなかリスクとれない立場にあることを理解する必要もあると言っていたが、彼のそれまでの話しの流れからすると意外な気がした。

また、編集者に急かされて書くように言われるのが嫌なので、常に締め切りの先に書き終えるとも。

ピューリッツアーの受賞の瞬間は?との質問には、午後3時にホームページで発表になるということで、2時59分にアクセスし、リフレッシュしたら、自分の名前があった。テレビの安っぽい演出ではないけれど、画面が自分の目の真ん前にとび出て来たような奇妙な感じで、もう失神しそうだった、と、ここでも会場大爆笑。

発表から9分後には、AP通信社から取材の電話が来てびっくりし(ここでジャーナリスト、爆笑)、それから20ヵ月に渡る、本の世界ツアーの旅にでることになり、人生が大きく変わったとも。同時に、今後、この作品以上のものがかけるのかという、プレッシャーにも押しつぶされそうになったとのこと。

作家になっていなければ、バンドメンバーと一緒に世界のあちこちでダンスしていたのではないか、ということで、ここでも大受け。

知性とユーモアと人を楽しませる希有な才能を持つ魅力的な方でした。
そんな彼の話しを聞く、聴衆のとても幸せそうな顔が、さらに、印象的でした。

3週間後には、我が小説師匠のJunot Diazが講演に来てくれますが、こちらも楽しみ!

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