Harvard Square Journal ~ ボストンの大学街で考えるあれこれ

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ハーバード流「私の履歴書」トーク版から学ぶこと

2012-02-07 | Harvard-Nieman
私が所属している、ハーバード大学ニーマンジャーナリズム財団では、各フェロー(特別研究員)が自らを語るトークを行い、その前のカクテルアワーと、その後のバッフェ式ディナーをホストする、「サウンディング」というイベントが毎週行われています。まぁ「私の履歴書」のトーク版でしょうか(笑)w これはニーマンの伝統的なイベントで、もう何年も続いているそうです。

ちなみに、私は先週だったのですが、友人のボストン交響楽団の若尾圭介さんが、そのときの模様をブログに書いてくださいました!
ワカオ家のボストン日記 

若尾さんご夫妻には、ニーマンフェロー仲間の前で、オーボエとピアノの素敵な演奏をして頂きました。
「今までで一番素晴らしいサウンディングだった!」「ケイスケは天才だ!」「感動しました!」「至福の時間だった!』など、数々の感想を頂きました。また演奏を聴きながら、涙を流しながら聞いている方もいたほどでした。

いつもオープンで、人生を楽しむ達人でもあるお二人に来て頂き、仲間も感動してくれて、本当に思い出深い夜となりました。
若尾さんご夫妻には、心から感謝しています!

さて、今夜はドイツ・シュピーゲルの科学記者の番でした。

彼女とは特に親しくしているということもあり、この日を楽しみにしていました。そして、聞き終わった今、本当に良い話しだと、しみじみ感動し、また彼女のことが、さらに大好きになりました!

「サウンディング」では、話すテーマ、スタイルは人それぞれですが、与えられている大枠は、なぜ今の自分があるのか、そしてどこに向かっているのか。

彼女はエジプト人の父親と、オランダ人の母親を持ち、両親のアイデンティティとは直接関わりのないスイスで生まれ、彼女のエジプト名の名前や、エキゾチックな容姿、スイスで何度か引っ越しをし、2つのダイアレクト(方言)を話すことなどから、小さいころからかなりいじめにあったそう。そんな彼女を救ったのは、書くことを通して自分を表現することだったとのこと。

高校時代には、地元の新聞社に直接電話して、アルバイトのポジションを得たり、大学時代にはドイツのシュピーゲルのインターンに応募したものの、上手く行かず、シュピーゲルを恨んだり(笑)。人生の転機になったのは、大学時代にロッククライミング中に事故に遭い、大手術をして生死をさまよったこと。無事に復帰したと思ったものの、三年後には、また入院など、かなり大変な20代前半を過ごした様子。

でも、この経験を通して学んだのは「生きていること自体が素晴らしい」「人生には限りがある」「時間の無駄遣いをしない」ということだったそう。活字ジャーナリズムにずっと興味があったものの、「人生チャレンジ!」ということで、スイスのテレビ局のアンカー(ニュースキャスター)に応募し、高い競争率を勝ち抜いてアンカーに抜擢され、両親も大喜び。ところが、ひと月やってみて、テレビは自分向きではないと思い、親御さんの落胆をよそに、結局、給料も良くない米バニティフェア誌のドイツ支局の記者になることを決意。その後、当初の夢だった、シュピーゲル(ドイツ・ハンブルグが本社)に採用が決まり、そこで科学記者となり、記者としての信頼を勝ち取り、今に至っているというもの。

シュピーゲルは、100万部以上の購読者を持つ、ニュース週刊誌。非英語ニュース媒体では、最も信頼の高いジャーナリズムを提供していると、認識されているようです。ここで、様々なテーマで執筆し、世界中を取材でまわったそう。また、特集記事を担当することが多く、取材に一ヵ月、執筆に2週間かけることができるという贅沢ぶり。シュピーゲルは経営基盤もしっかりしていて(先日、編集長のお話を聞く機会がありましたので、別途ブログに書きますね)、ジャーナリストとしてはかなりの好条件で仕事ができているよう。この話しに、他のニーマンフェローは驚き、かつ、かなり羨ましがっていました...。

そして2年半前に、ハーバードの某教授に取材した際に、ニーマンフェローに応募してはどうかとすすめられ、今の彼女があるということです。ゲストには、その教授も招待されていて、一番前に陣取り、彼女の話しを誇らしげに聞いていたのが印象的でした!私もその教授がいなければ、彼女と知り合うこともなかったので、心からの感謝を伝えました。また、彼女の家の大家さんご夫妻もいらしていましたが、とても感じのよいカップルで、彼らは過去20年間、ニーマンフェローを離れに「下宿」させてきたのだそう。

9月以降、フェローの半分以上が「サウンディング」をしてきましたが、やはり最初の頃は、皆、勝手が分からずだったのが、回を増すごとに面白くなり、私にとっては今夜が飛び抜けて良かったです。本当に彼女のことを誇りに思い、一秒、一秒がとても愛おしく感じられました。

ー彼女自体がリラックスしていて、ビジュアルなども一切なし。タイプ打ちした原稿を手に持って、それを見ながら、淡々と話して行きます。
ー話しのはじめは、彼女の祖父母から始まり、彼女のルーツを知るのも興味深かった。
ーストーリーが時系列で、それぞれの人生の節目についてのエピソード、彼女がその時どう思ったのかなどが、必ずしも良くないことも含めて、素直に説明されます。自虐ユーモアも、あちこちにちりばめられていました。
ービジュアルがないので、かえって、聞き手の創造力を膨らませることに成功したと思います。
ー何より、やはり彼女の人生がドラマチックであること。
ーそして、本当にシンプルなストーリであるにも拘らず、しっかり山あり、谷あり、山ありと、読ませる特集記事をたくさん書いているせいか?、抜群のストーリーテラー。

普段は決して目立つタイプではなく、自分の意見も積極的に言うわけではないけれど、私は彼女の知性と人柄の良さを見逃してはいませんでした(笑)。鋭い観察眼と知識に裏打ちされた深い分析能力、人を思いやるセンシティビティ、寛容でありながらも、自分の考えをしっかりもち、他人に流されない。

サウンディング終了後も、浮き立つこともなく、私と一緒に淡々と食事をしていたけれど、頭の良さではフェロー中でもぴか一。加えて、過去の「突撃レポート」を知ると、かなりガッツのある人であることも判明。彼女はフェロー仲間では二番目に若く、まだ30歳をこえたばかりですが、30歳~50歳前半までのフェローを見ていると、人のあり方は30歳を越えると、年齢と無関係であるものだと改めて思いました。

先週、私も自分の「サウンディング」で人生を振り返る機会がありましたが、本当にランダムな人生のできごとが、実は、点を繋げてみると、今の自分に直結しているものだと思っていましたが、まさに彼女の人生も同じようなものでした。

ところで、友達やひょっとすると夫婦でも、その人の過去の人生というのは、出会ったばかりの頃は比較的よく話すものの、意外と知らない事も多いように思うのですが、「サウンディング」のように、仲良し同士順番で、自分のこれまでとこれからを一定の時間をかけて語る、ということをしてみるのも、お互いをより深く理解する上でも、そして、何より自分の人生を振り返り、これからを考える上でも、とっても意義あることではないかと思いました。どんな人にも、その人ならではの貴重な人生の歩みがあるのですから。というわけで、もっと「私の履歴書」を語らなくては~♪

今夜、彼女から人のあり方を改めて学び、自分も、もっとまともな人間になりたいと元気をもらい、感動的な時間に感謝しました!またまた、ニーマンモーメント(ニーマンフェローになって良かったと実感する)夜でした~☆

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