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職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究

2012年10月12日 | 職業経験

職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究 職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究

 

 

 

 

当たり前のことを、当たり前だと証明するのも大切なことだと
感じさせる本です。

以下、抜粋■
○この本でいう「職場学習」の定義
 「組織の目標達成・業績向上に資する、職場における学習であり、人が、仕事に従事し経験を深めつつ、他者、人工物との相互作用を通して生起する学習」

○雇用慣行の変化は、長期にわたる職場での学習・自己研鑽のモチベーションを失わせた。
 (1)職場の人員が削減され多忙化が進み、部下にフィードバックを行う人材が不足する
 (2)短期間で成果をだすため、に「仕事のできる人」に仕事が集中し、仕事をこなす人の業務能力は向上し、そうでない人との間に格差が生じる
 (3)マネージャーが多忙を極め、部下指導の時間的余裕がなくなる

○部下の成長と上司の成長をセットにして考えていく必要がある、という示唆

○OJT指導員は新人指導を一人で抱え込まず、周囲の協力を得ることが重要

【1】職場における業務向上に資する経験学習のプロセスとは
○コルブの経験学習論によれば、個人は、その個人が置かれた状況の中で具体的な経験をし(具体的経験)、その経験を多様な観点から内省し(内省的観察)、他の状況でも応用できるように一般化・概念化して仮説や理論に落とし込み(抽象的概念化)、その仮説や理論を新しい状況下で実際に試す(能動的実験)というプロセスを経て学習している。

○Experience is the best teacher.

○大人の学びの70%以上は経験によって説明される。その経験の約70%以上は挑戦的な課題によって、20%は他者の影響によって、10%はプログラムによって構成される

○(Dewey 1938) 経験とは「個人と個人を取り巻く環境との相互作用:

○(松尾 2006) 「人間と外部の環境との相互作用」と定義し、「直接経験/間接経験」と「外的経験/内的経験」の2次元から捉えている

○管理職としての能力を成長させる経験として、挑戦的な「課題」、上司などの「他者」、失敗や挫折などの「修羅場」の3つに分類

○経験から学習するためには、個人に内在するある種の技能や能力が必要

○経験からの学習能力
 ・フィードバックを使用する
 ・異文化に対して前向きに対応する
 ・学習の機会を求める
 ・批判に対してオープンである
 ・フィードバックをもとめる
 ・柔軟である

○経験からの学習を支える態度
 ・挑戦性
 ・柔軟性
 ・無難指向性
 ・自己本位性
 ・評価指向性

○コルブの経験学習理論
 ・学習は、結果でなくプロセスとして捉えられる
 ・学習は、経験に基づく再学習である
 ・学習は、環境に適応するうえで、弁証的に対立するモード間の矛盾を解決するプロセスである
 ・学習は、環境に適応するための全体的なプロセスである
 ・学習は、個人と環境の相互作用から生じる
 ・学習は、知識を創造するプロセスである

○経験学習において重要となるのは、外的経験そのものよりも、自らの経験を内省し、いかに分析・解釈するかという内的経験。

○経験学習は、具体的経験→内省的観察→抽象的概念化→能動的実験という循環過程を経ている

○経験学習のサイクルは、「すべてのベースにふれる」という理想的な学習

○業績をあげている人とそうでない人の経験学習のプロセスの違い
 (1)業績をあげている人は、業績をあげていない人よりも、経験学習の各段階(具体的経験・内省的観察・抽象的概念化・能動的実験)を高いレベルで遂行している
 (2)業績をあげている人は、業績をあげていない人よりも、業務能力が高い
 (3)業績をあげている人は、業績をあげていない人と比べて、挑戦性という態度を具体的経験へと発展させている
 (4)業績をあげている人は、業績をあげていない人と比べて、具体的経験をするだけでなく、その具体的経験を内省的観察につなげている

○経験から学ぶためには、意識的であれ、無意識的であれ、経験を内省することが重要であること、内省できていない人は意識的に内省することが重要であることを示している


【2】「職場学習風土」と「個人の経験学習」の経験を探求する
○「職場学習風土」とは、「職場において、新しい知識が獲得、共有され、仕組みとして定着し、時代に合わない知識は廃止される」といった、職場の知識創造と流通のダイナミズムを指す

○3年一仕事。1年目は仕事に慣れる。2年目は成果をだす。3年目は引き継ぎに備えて、経験を棚卸する

○ここでいう組織学習とは「組織で生まれた知識を、組織メンバーが共有し、組織の中に蓄積しておく仕組み」ととらえる

○良好な「職場学習風土」が形成されている職場では、個人が自分自身の経験、獲得した知識、ノウハウ、スキルを振り返り、他人に伝わるような言葉に変換するといった行動が社会的に要請されているか、ないしは常態化していることが想像できる

○職場に個人の学習機会が埋め込まれていることを鑑みると、職場そのものにおいて学習風土をいかに形成するのか、という問いは、人材形成にとってミッションクリティカルだと思われる

○「職場学習風土」を形成することに長けたマネージャーの暗黙知、実践知を、何らかの形で社内に流通させたり、マネージャー同士を集めて、職場での業務付与に関する実践知を共有させたりするなどの施策が考えられる

○知識の共有・ルール化は、表層的な知識しか持たない人を育ててしまう可能性をはらんでいる。あるメンバーが開発したノウハウや知識を他のメンバーが模倣し、試行錯誤をしなくなってしまう、すなわち学習しなくなってしまう。


【3】部下の成長を促す上司のあり方とは
○支援を効果的に行っていくためには、職場内において成果のみを志向するのではなく、人間関係も大切にしていく必要がある。

○リーダーの活動指針
 ・模範となる
 ・共通のビジョンで鼓舞する
 ・現状を改革する
 ・行動できる環境をつくる
 ・心から励ます

○リーダーが部下に価値観などを伝えるときには、自らロールモデルとなり、自身の姿をみせていくことが大事

○コルトハーヘンによるALACTモデル
 (1)行為:実際に行動に移すフェーズ
 (2)行為の振り返り:第1の行為について振り返るフェーズ
 (3)本質的な諸相への気づき:第2の「行為の振り返り」を踏まえて、その出来事の本質について考えるフェーズ
 (4)行為の選択肢の拡大:第1の「行為」において、本人がとった行動について別の選択肢がなかったのかを考察する
 (5)試み:第4の「行為の選択肢の拡大」を踏まえて、実際に行動に移すフェーズ
 以上のサイクルを回すことにより、内省が行われるとする

○近年では、他者・集合を媒介して行われる内省の重要性が指摘されつつある

○「能力向上」には、上司の「内省支援」だけでは効果がなく、「上司の成長認知」との交互作用が重要


【4】職場のオープン・コミュニケーションを促すマネージャーのリーダーシップ行動
○以下の4要素の上司のリーダーシップ行動が職場のオープン・コミュニケーションを促進している。ただし、権限の委譲にあたっては部下への配慮を十分に行う必要がある
 (1)部下に対して権限を委譲する
 (2)個別に配慮する
 (3)モチベーションを鼓舞する
 (4)知的に刺激を与える

○職場のコミュニケーションが重要な理由
 ・不確実性を増す現代の組織に必要とされる新しい情報の創造のためには、組織内部の創造的な対話とコミュニケーションが重要であることが指摘されている
 ・企業が学習し発展を遂げなくてはならない組織体であり、そのためには組織内コミュニケーションがその源泉になるため
 ・経営資源の有効活用の観点

○(中原 2010)成功体験談、失敗体験談共に「能力向上」に有意に影響することを実証的に明らかにしている


【5】新入社員の能力向上に資する先輩指導員のOJT行動
○入社3年間の直属上司との垂直的交換関係を軸とした職務経験の質が、入社7年後の管理能力形成にとって決定的に重要である(若林 南 佐野 1984)

○(榊原 2004)一般的なOJTで言われている上司の部下指導は実際には効果がなく、上司は部下に仕事を任せることでしか部下の能力向上に寄与できないという点を明らかにした

○(松尾 2010)「教え上手なOJT担当者はフィードバックと自立支援」を基本とし、「ほめなさ過ぎ、考えさせ過ぎ、無理させ過ぎ」が教え下手なOJT担当者の特徴であることを明らかにした

○先輩指導員が周囲の協力を得るというOJT行動をとることが、新入社員の能力向上につながる理由」
 ・先輩指導員以外に質問できる相手が増えることで、業務における疑問点を解消しやすくなるということが考えられる
 ・先輩指導員以外の職場のメンバーと接点があることにより、多様な仕事のやり方を目にする機会が増えること

○なぜ先輩指導員が周囲の協力を必要とするのか
 ・時間的制約
 ・指導できる内容の限界
 ・社会的受容を促進する効果

○周囲の協力を得ながらOJTを進める「協力」行動と、新入社員と親しく話をする「会話」行動が、能力向上に対して正の効果を示す

○ただ、周囲がからむことによる「混乱」「過負荷」を避けつつ指導することが求められる


【6】業績と能力を伸ばす職場の探求
○「多忙化」による2つの危機
 ・援助行動の減少
 ・知的流通機会の減少

○(田中 2004)「組織的公正」「職務満足」「組織コミットメント」の3要因がある職場において組織市民的行動が生じやすい

○(Organ 2007)組織市民行動が組織の有効性に影響する理由を以下の6つにまとめた
 (1)同僚や管理者の生産性を高める
 (2)資源を自由に使えるようにする
 (3)同僚同士の調整活動を助ける
 (4)最優秀の従業員を組織に留まらせることを助ける
 (5)環境変化に対する組織の適応能力を高める
 (6)社会資本を構築する


【7】職場のイノベーション風土が「職場における部下への支援」に与える影響
○人材育成にまつわる3種類の認識?が耳にする
 ・人を育てるためには工夫が必要であり、良好な職場づくりをしなくてはならない
 ・少しでも今のご時世は新しいものを世の中に出していかなければ競争に負ける
 ・業績をあげるために革新をめざせは、人が育たない。人を育てようとすれば、業績が下がる」

○イノベーションとは、社会を根本から変革してしまうような革新

○一橋大学イノベーションセンターによる枠組み、イノベーションの誘因は
 (1)企業組織レベルで組織内部のマネージメント、開発プロセスの卓越性によって実現されるもの
 (2)企業組織間レベルで、複数の企業が社会的相互作用に営む中で実現されるもの
 (3)国家レベルで、大学や特許制度によってもたらされるもの
 (4)個人レベルの推論や創造性によってもたらされるもの


【8】就職活動時の職業価値観は、入社後の組織社会化にどのような影響を及ぼすのか
○「職業価値観」は「職業選択や職業生活場面において、何を大切に考えるかということ(山中・安達 2009)」を意味する

○職業価値観を考えるうえで参考になる枠組みとして、(松井 1998)が取り上げた内的報酬志向と外的報酬志向がある
 内的報酬志向:仕事による個人の内的な関わりを重視し、自己成長や自己満足を志向する内在的な価値観」
 外的報酬志向:収入や安定性などの要素を含み、仕事による社会とのかかわりを重視し、自分の中での評価よりも、社会からの評価を重視する外圧的な価値観」

○「自分自身の能力アップや自己実現をめざす」といった「自己価値の価値観」、「職場での人間関係・信頼関係が築ける」といった「人間関係を重視する価値観」が組織社会化にとって統計的有意をしめす


【9】海外での経験は能力向上にどのような影響を与えるのか
○ビジネスパーソンが自らの海外勤務経験をキャリア上の有益な経験として意味付けるには、内省的観察と能動的実践をつなぐ、自らの経験を他の状態でも応用できるように一般化・概念化を行う「抽象的概念化」が重要な意味を持つと考えられる


【10】ビジネスパーソンの海外経験がキャリア成熟に与える影響
○(Stwert 2001)赴任地到着後の環境適応に影響を与える因子
 「自己志向的因子」:新しい環境に効果的に適応し、自ら犯した誤りを問い直しながら、学び取り組むことを指す
 「他者志向的因子」
 「知覚志向的因子」

○社内外の交流会や勉強会など、ビジネスパーソンが折りにふれて振り返ることを促すような取り組みも有効


【11】職場を越境するビジネスパーソンに関する研究
○バウンダリーレス・キャリア
 職務、組織、仕事と家庭、産業の壁を乗り越えて動くキャリアのこと

○能力向上がみられるのは、「社内・社外」の両方につながりのある人に限られ、社外だけの人においては能力向上が見られなかった

○社外の勉強会に参加している人は、参加していない人や社内の勉強会だけに参加している人よりも成長実感が高く、社内・社外の勉強会どちらも参加している人たちの成長実感が最も高かった。

○社外に出て成長実感を得ている人たちは「社内に足場がある人たち」といえる。「社内か社外か」という二者択一ではなく「社内と社外の橋渡し」または「両立」という視点が重要。まずは社内の仕事における充実度を高めることが、結果的に社外の学びの充実につながる

 

職場学習論―仕事の学びを科学する 職場学習論―仕事の学びを科学する

 

 

 

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