ライフ、健康

元気で幸せで暮らすため いい生活習慣を身に付けまましょう

山田英生:がんを防ぐ食生活

2014-05-09 11:12:23 | 高齢社会
がん予防の答えは、

日本人の伝統的な食卓にあります。



がんにならないための食生活

 年齢を重ねれば、誰でも心配になってくるのが、がんでしょう。日本人の2人に1人が罹る病気であり、高齢者であれば、いつ誰が発症しても不思議ではありません。命を脅かすがんにならないためには、どうすればよいのでしょうか。がんの原因の約30%は、食生活にあることが最近の研究で分かっています。がんを防ぐにはどのようなものを、どのように食べればよいのか。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(55)が、がんを予防する食生活などについて語り合いました。

予防が一番のがん対策

山田英生 日本人の平均寿命が延びるのに伴って、がんが増えてきました。毎年、約70万人に近い人ががんになり、約35万人の方が亡くなられています。今や国民の約3人に1人ががんで亡くなる時代。がんは、誰でも罹る身近な病気と言ってもよいかも知れません。そんな怖いがんですが、その種類や部位によっては早期発見、早期治療をすれば、かなりの確率で治るとも言われています。

白澤 がんも、早期発見と早期治療によって治る確率が高まり、以前のような「不治の病」というイメージはなくなってきましたね。それでも依然、死亡原因の第1位であることには変わりありません。でも、がんの原因はこれまでの調査や研究のデータから「食生活」の影響が約30%、「喫煙」が約30%であることが分かっています。つまり、がんはタバコをやめ、食事に注意すればかなりの確率で予防することができるようになるのです。早期発見はもちろん大切ですが、それ以前にがんに罹らないように予防することが何といっても一番のがん対策だと思いますね。

山田英生 食生活と喫煙ががんの原因の約60%以上を占めるとするならば、端的にいってこの原因を取り除いた生活を送れば、3分の2のがんは防げることにもなりますね。そういえば、がん予防の指針である国立がんセンターの「がん予防12か条」も、「バランスのとれた栄養をとる」など、12か条のうち8か条が食事や食習慣に関連したものであり、いかに食生活とがん予防が深く関わっているかが分かります。

白澤 1960年代のアメリカでも、がんは心臓病に次いで死亡原因の第2位でした。こうしたがんなどによる医療費が国の財政を圧迫したため、政府は国をあげて医療改革に乗り出したのです。当時のニクソン大統領は1971年、国家的プロジェクトとして「がん撲滅計画」をスタートさせ、巨額の研究費をがんの治療に投入したのですが、がんは減るどころか逆に増え続けたため、治療よりも予防対策にお金をかけることにしたのです。上院に「栄養問題特別委員会」(ジョージ・S・マクガバン委員長)を設置し、アメリカ国民の食生活を徹底的に調べ、問題点を洗い出しました。その結果、出てきたのが、「上院リポート」という報告書です。

山田英生 いわゆる「マクガバン・リポート」のことですね。

白澤 そうです。この中で「がんや心臓病などの慢性病は、肉食中心の誤った食生活が原因」として、高カロリー、高脂肪の肉、乳製品などの動物性食品を減らし、未精製の穀物や野菜、果物を積極的に摂るように勧告しました。大量の脂肪、砂糖、塩分などがアメリカ国民のがん、心臓病、脳卒中などを引き起こす”元凶“であることを突き止めたのです。


日本食こそ健康食

山田英生 当時のアメリカでは、分厚いステーキやハンバーガー、ポテトチップスなどの脂っこい食事にコーラ飲料といった組み合わせが一般的だったのでしょう。マクガバン・リポートはさらに、最も理想的な食事として「伝統的な日本人の食事」を挙げていると、聞いたことがあります。ここでいう「伝統的な日本人の食事」とは、精白しない殻類を主食とし、季節の野菜や海草、魚介類を食材として使った食事のことを指すようです。今でこそ、日本食は「ヘルシーでおいしい」と世界的なブームになっていますが、すでに当時から健康によい食事の一つとされ、「日本食=健康食」というイメージがしだいに世界に定着していったのでしょう。

白澤 このリポートを受けて、アメリカ国立がん研究所(NCI)は、がんと食事の関係を調べ、「デザイナーフーズ・プログラム」(左の図)を発表しました。がん予防に効果のある野菜・果物など40種類の食品群を3段階に分け、ピラミッド状に配置したものです。たとえば、一番上の段にあるのはニンニク、キャベツ、甘草、大豆、ショウガ、セリ科の野菜(ニンジン、セロリ)で、こうした食品を積極的に摂れば、がん予防が期待できるというものでした。このプログラムは、食品の持っている生理調節機能と病気の関係に着目し、疫学調査の分析などを通じて科学的に解明してありますので、この表を冷蔵庫などに貼り付け、毎日の食事づくりの参考にするのもよいと思います。

興味深い米国の実験

山田英生 このプログラムを進めたアメリカでは実際に成果は上がったのでしょうか。

白澤 上がりましたね。プログラム発表後、国民の野菜摂取量は飛躍的に増え、当時でも日本人の野菜摂取量を上回ったようです。これに符合するかのように、がんの罹患率や死亡率も1990年代を境に毎年、少しずつ減っていきました。特に、食事と密接な関係のある大腸がん、前立腺がん、乳がんの減少が顕著だったと言われています。

山田英生 アメリカの人たちは、野菜・果物の持つ高機能成分の恩恵を十分受けることができたわけですね。それに比べ、日本人のがんはどうでしょう。減るどころか逆に増えています。その原因としては、伝統的な日本食を食べる人が減り、肉類を中心とした食事を好む人が増え、食の欧米化が進んだことが背景にあるのでしょうか。

白澤 やはり食生活の影響は、大きいですね。日本人の食生活が欧米化するにつれて、がんの種類も変わって行きました。これまで多かった胃がんの死亡率が減り、肺がん、大腸がん、乳がんの死亡率が増えたのです。肺がんは、明らかに喫煙の影響が大きいのですが、大腸がんは野菜や海草類など食物繊維の摂取が減って、肉類など動物性脂肪の食事を多く摂るようになったのが原因の一つと言ってもよいでしょう。

山田英生 健康的な日本食を自ら放棄した結果と言えますね。がんは、ある日突然発症するのではなく、20年、30年と長い年月をかけて現れるケースが多いと聞いたことがあります。

若齢化が目立つ乳がん

白澤 確かにがんは、加齢とともに増えるのが一般的ですが、最近は必ずしもそうとは言えなくなってきました。たとえば、乳がんは最近、若齢化が目立っています。かつて乳がんといえば、40代、50代の女性に多かったのですが、最近は20代、30代で発症するケースも珍しくありません。やはり不規則な食生活に加え、ジャンクフードや加工食品、甘いものの摂り過ぎなどが影響しているのでしょう。この年代は、子育ての真っ最中でもあり、がんで闘病するとなると、社会的にも極めて大きな影響が出てきます。乳がんは明らかに食生活が関係していると思われますが、具体的に何が悪いのかは、まだ特定できていないため、「あれをやめろ」「これを食べるな」とは言えません。ただ、言えるのは、かつての日本人の伝統的な食生活に戻れば、若い女性の乳がんはある程度は減ると思いますね。

山田英生 確かに今の若い女性の食生活を見ていると、ちょっと心配になりますね。ダイエット願望や、手軽で美味しいスナック菓子などもあるのでしょうが、朝食を抜いたり、昼食にしてもスナック菓子か軽い野菜サラダなどで簡単に済ませている女性をよく見かけます。本人の健康はもちろんですが、将来生まれてくる子供たちの健康のことを考えると、きちんと3食をとり、偏食しないようバランスよく栄養を摂ることが大切ですね。ところで、がんを予防する食べ物には、どんなものがありますか。

白澤 長年の疫学研究では、野菜や果物にがんを防ぐ働きのあることがわかってきました。先ほど述べたデザイナーフーズでも、がん予防を期待できる野菜としてニンジン、セロリ、ブロッコリーなどを挙げていますが、特に緑黄色野菜には、植物の化学成分であるファイトケミカルが多く含まれ、がんを抑える作用があるといわれています。がんは遺伝子の本体であるDNAに傷がつくことがきっかけとなって発症しますが、その原因の一つが活性酸素です。ファイトケミカルには、この活性酸素を消してくれる抗酸化作用があるため、がん予防によいといわれています。

緑黄色野菜を摂ろう

山田英生 ファイトケミカルは、色素や香り、苦みなどの成分で、これまでに数千種類の成分が明らかになっていますが、この中でがんを抑える代表的なファイトケミカルといえば何でしょうか。

白澤 まず、カロテノイドが挙げられますね。これは、緑黄色野菜の赤や黄色、オレンジ色などの色素成分の総称で、強い抗酸化作用やがんの予防効果があるのが特徴とされています。カロテノイドには、「α―カロテン」「β―カロテン」「クリプトキサンチン」「リコピン」など数多くの種類がありますが、この中で、最もよく知られているのがβ―カロテンではないでしょうか。デザイナーフーズの最上位に位置するニンジンのほか、カボチャにも多く含まれている成分です。

山田英生 ほかには、どんな野菜がありますか。

白澤 ブロッコリーでしょうね。デザイナーフーズでも上位から2番目に入っています。ブロッコリーは、約200種類のファイトケミカルが含まれる「野菜の王様」。このブロッコリーに含まれる「スルフォラファン」(イソチオシアネート)にがんの予防効果があるのです。また、大豆に含まれるイソフラボンも乳がんや前立腺がんの予防によいことがわかってきました。トマトやスイカなどに含まれるリコピンにも、がんを予防する働きがあるといわれています。

山田英生 こうした野菜や果物を私たちは、1日にどのくらい摂ったらよいのでしょうか。

白澤 厚生労働省の国民健康づくり運動「健康日本21」では、1日当たりの野菜摂取量の目安として350g以上、このうち緑黄色野菜は120gを摂ることを勧めています。しかし、実際の日本人の野菜摂取量は、約281gで目標を下回っています(2010年国民健康・栄養調査)。がんを予防するためにも、1日350g以上の野菜、特に緑黄色野菜を積極的に摂るよう心掛けてほしいですね。

山田英生:寝たきりの原因、予防

2014-05-09 10:58:43 | 高齢社会
山田英生(5):骨粗しょう症の寝たきりの予防

骨は、健康な人生を支える柱。

食事や運動で、カルシウムを

増やしましょう。


寝たきりの原因 骨粗しょう症

 日本人の平均寿命が延び、「人生100年時代」も夢ではなくなってきました。その一方で増えているのが高齢者の寝たきりです。その引き金となっているのが、骨粗しょう症や運動器障害による転倒、骨折。自分らしく健やかに老いる健康長寿への秘訣は、長い老後をいかに元気に過ごすか、にあります。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(54)が健康長寿の大敵、骨粗しょう症にならないための予防法や寝たきりにならないための介護予防などについて語り合いました。

骨折で寝たきりにも

山田英生 誰でも年をとると、足腰が弱くなり、ちょっとしたことでも転倒しやすくなります。加齢に伴う筋力の低下やバランス感覚の衰えが原因だと思いますが、高齢での転倒は、骨折につながりやすく、車いすや寝たきりの生活になりやすいので気をつけなければなりません。寝たきりになると脳の機能が低下し、認知症になるリスクも高くなります。そういった意味では、転倒が予防できれば、健康寿命を延ばすこともでき、高齢者のQOL(生活の質)を保つことも可能でしょう。こうした転倒、骨折も、骨粗しょう症が原因の一つだと言われていますが。

白澤 確かに骨粗しょう症の人は、骨折しやすくなりますね。たとえば、足をひねる、手をつく、時にはクシャミをするだけで骨折の引き金になることだって珍しくありません。特に大腿骨頚部(太ももの付け根)を骨折すると治りにくく、そのまま寝たきりになるケースも少なくありませんね。私たちの骨は、常に新陳代謝を繰り返しながら新しい骨が作られ、古い骨が破壊されているのです。その形成と破壊のバランスが40歳を過ぎるころから少しずつ崩れてきます。

山田英生 そこで、重要な働きをするのがカルシウムであると聞いています。骨折を招きやすい骨粗しょう症とは、どんな病気ですか。
白澤 骨は、主にカルシウム、リンなどのミネラルとタンパク質からできていますが、骨量、つまり骨の中のミネラルの量が減り、骨がスカスカになって骨折しやすくなるのが骨粗しょう症です。骨量は、成長とともに増え続け、30代をピークに年をとるにつれて減っていきます。最近、単位面積当たりの骨量である骨密度を測ってくれる病院や保健所が増えてきました。カルシウムの量から骨の硬さを推定するのですが、若い人(20~44歳)の平均骨密度を100%とすると80%以上が正常で、70%未満を骨粗しょう症と診断しています。

目立つカルシウム不足

山田英生 日本で骨粗しょう症の人は、男女合わせて約1100万人以上に上るとも言われています。これは、総人口の10%弱に当たり、予備軍を含めると、2000万人を超すとの指摘もあります。この病気は女性に多いようですが、なぜですか。

白澤 女性は、閉経を機に骨量を維持する女性ホルモンのエストロゲンが急激に減っていくためです。エストロゲンには、カルシウムを形成したり、吸収の調節をするなどの働きがあり、エストロゲンの分泌が減ると骨量も減ってきます。つまり、カルシウムの量が減って、骨がもろくなるわけですね。60歳以上の女性に多く、60代では2人に1人が骨粗しょう症とも言われています。

山田英生 では、一般的な骨粗しょう症の原因と言えるものは何ですか。

白澤 カルシウムやビタミンDの不足に加え、リンや塩分の過剰摂取、偏った食生活、運動不足、喫煙などが関係してきますが、最大の危険因子は、カルシウムの不足といっても過言ではありません。骨の強さは、骨を硬くするカルシウムを若いときに、どれだけ蓄えることができたかによって決まります。貯金にたとえれば、カルシウムの”預金残高“が多ければ多いほど、老後は安心ということになりますね。

山田英生 そうしますと、女性の場合、骨粗しょう症にならないためには閉経までにいかに多くのカルシウムを貯められるか、そして、更年期以降はカルシウムの預金残高が減らないよう、食事に十分気をつけることが大切なのでしょうか。

白澤 その通りです。若いときから、バランスのとれた食事に加え、いろいろな食品からカルシウムなどを摂るような食生活を心がけていれば骨粗しょう症は、防げます。ところが、最近の若い女性は、骨をどんどん作っていかなければならない大切な時期に、無理なダイエットをしたり、偏った食生活を続けている人が多く、必要な栄養分、特にカルシウムが不足している人が確実に増えています。

山田英生 若くても骨粗しょう症やその予備軍になる危険性が出てくるわけですね。成人の場合、1日にどのくらいのカルシウムを摂ればよいのでしょうか。
白澤 最低でも600mg、できれば650mgを毎日の食事で摂ってほしいですね。650mgは牛乳に換算すると、コップ約3杯分。しかし、実際はそんなに摂ってはいないでしょう。

毎朝1本、牛乳を飲もう

白澤 牛乳には1本(200ml)当たり220mgのカルシウムが含まれています。しかも、吸収されやすいので、できれば毎朝1本は飲むようにしてほしいですね。

山田英生 牛乳は、骨粗しょう症の予防にも有効なのですね。牛乳の他には、主にどんなものを食べればよいのでしょうか。

白澤 一般的にカルシウムが豊富に含まれているのは、小魚類、ヒジキなどの海藻類、チーズやヨーグルトなどの乳製品、コマツナ、厚揚げなどが代表的なものといってもよいでしょう。こうしたカルシウムが多く含まれている食品を毎日の食事でできるだけ多く摂ることですね。それと、カルシウムはビタミンDと一緒に摂ることが大切です。カルシウムは、食べたものがすべて吸収されるわけではないので、十分な量を確保するのは意外と難しいのです。その点、ビタミンDと一緒に摂れば、ビタミンDが腸管からのカルシウムの吸収を助け、骨に沈着してくれるのを手伝ってくれます。

山田英生 ビタミンDといえば、キクラゲや干しシイタケ、サケやサンマなどの魚に多く含まれていることがよく知られていますが、先生のご説明ではカルシウムを十分確保するためにはビタミンDと一緒に摂るのが効果的であることがよくわかりました。では、そのためにはどんな食べ物を組み合わせて食べればよいのでしょうか。

白澤 たとえば、骨まで食べられる小魚と干しシイタケを一緒に食べるとか、豆腐にカツオ節をかけて食べてもよいでしょう。

山田英生 ビタミンDを体内にとり込むには、ビタミンDを多く含む食品を摂ることはもちろんですが、体内でもビタミンDは作られると聞いています。

白澤 はい。だから、適度に日光に当たることが必要ですね。紫外線を浴びることでビタミンDが体内で合成されるためで、季節にもよりますが、夏なら1日15分程度、それ以外の季節では30分ぐらいの日光浴を心がけてほしいですね。

骨量の低下を防ぐ大豆

山田英生 大豆製品に含まれているイソフラボンも、骨密度の低下や骨粗しょう症の予防によいとされていますね。

白澤 イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンに構造が似ていて、骨にも同じような作用をします。エストロゲンは、カルシウムが骨から過剰に溶け出すのを防ぎ、骨の形成を促進する働きもあるため、女性ホルモンの分泌が減少する更年期にイソフラボンを摂取して補えば、骨量の低下が抑えられ、骨粗しょう症の予防にもつながるのです。毎日の食事ではイソフラボンが豊富な豆腐や納豆、豆乳などの大豆食品をできるだけ摂るようにしたいものです。

山田英生 骨粗しょう症を防ぐには、運動もよいと聞きました。

白澤 ウォーキングなど適度な運動によって骨が刺激されると、食品から摂ったカルシウムが骨に効果的に取り込まれ、骨が強くなります。できれば坂道や階段などを歩くようにすると、より効果的でしょう。

山田英生 よく骨粗しょう症になると、「トシだから仕方がない」と言う人もいますが、そんなことはないと思います。高齢の方が骨粗しょう症を治療するにはどんな方法がありますか。

白澤 何と言っても食事でカルシウムを十分摂り、適度な運動を続け、予防することが大事でしょう。それでも、骨粗しょう症と診断された場合は、腸管からのカルシウムの吸収を促進する薬や骨を作る薬などの薬物療法が治療の中心になります。また、更年期にはエストロゲンが減少し、骨量の低下や自律神経失調症などを招きやすくなるので、これを補充するホルモン補充療法を受けるのも一つの方法ですが、副作用の心配もあるので専門医とよく相談していただきたいですね。

運動器の健康も大切

山田英生 年をとると、骨粗しょう症による転倒、骨折以外にも腰痛や関節痛など身体のいろんな部分が痛くなってきます。やはり、運動器の機能が低下するためでしょうか。

白澤 「ロコモティブシンドローム(略称ロコモ)」という言葉をご存じですか。足腰の痛みや骨粗しょう症のほか、バランス能力や筋力の低下などによって骨や関節、筋肉などの機能が低下し、要介護状態や寝たきりになる可能性が高い状態のことを言います。

山田英生 実際、ロコモかどうかを確かめるにはどんな方法がありますか。

白澤 それには①片脚立ちで靴下がはけない②階段を上るのに手すりが必要③15分くらい続けて歩けない④家のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難⑤家の中でつまずいたり、滑ったりする⑥横断歩道を青信号で渡りきれない⑦2kg程度の買い物をして持ち帰ることが困難―の7つのチェック項目があり、このうち一つでも当てはまれば、ロコモの疑いがあるとされます。その時は、机やテーブルなどにつかまっての片足立ちや、お尻を上げ下げするスクワットが有効です。

山田英生 骨、関節、筋肉など人間の身体の動きを担う運動器の健康を保つことは健康長寿を維持するためにも大切ですね。運動器が健康でなければ、その先には要介護や寝たきりの状態が待っています。健康長寿は医療の力だけではなく、自らの日々の努力で獲得するものと言えますね。


山田英:認知症を防ぐ生活習慣

2014-05-09 10:35:59 | 認知症
散歩も。趣味も。家事も。

認知症の予防法は、

生活の中に

たくさんあります。


認知症を防ぐ運動・生活習慣

 「いつまでも健康で自立した生活を送りたい」―。健康長寿は、すべての人の共通の願いです。そんな健康長寿の大敵となるのが認知症。今の段階では、まだ完全に治る病気ではありませんが、それでも栄養バランスのとれた食生活に加え、適度な運動をすれば、ある程度は予防できることがわかってきました。なぜ運動は認知症予防に有効なのか、どんな運動をどのくらいすればよいのか。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(54)が認知症予防と運動との関係などについて語り合いました。

シミは脳にもできる

山田英生 最近、公園や街の中、川沿いの堤防などでウォーキングをする人をよく見かけるようになりました。特にご高齢の方が多いようです。やはり、健康を意識して歩いておられるのでしょう。今、日本人の平均寿命は、男性約79歳、女性約86歳と世界でもトップクラスの長寿を誇っていますが、健康で自立した生活ができる健康寿命は、男性73歳、女性78歳と平均寿命に比べ、6~8歳短くなっていると聞きました。やはり、要介護状態になって家族に迷惑はかけたくない、天寿を全うするまで元気に暮らしていたいと誰でも思いますよね。健康長寿の大敵となる認知症は、バランスのとれた食生活と適度な運動で、ある程度は予防できると言われていますが…。

白澤 私たちは、年をとると顔にシワやシミが増え、視力や筋力が衰え、身体機能が低下してきます。こうした機能の衰えは、脳も例外ではありません。特に女性が気にするシミは、何も顔や手足だけに出るものではなく、実は脳にもできるのです。このシミは、「老人斑」と言って、大脳の神経細胞の外側にでき、アルツハイマー病の特徴の一つになっています。認知症は、脳の中に「β-アミロイド」というタンパク質が蓄積して老人斑をつくり、神経細胞が障害されて脳が委縮する病気です。最近の研究によって、脳も使い続ければ活性化し、アルツハイマー病を予防できることがわかってきました。それには、認知症を防ぐ食材はもちろんですが、運動と生きがいが重要になってきます。

山田英生 日ごろからスポーツや運動をしている人を見かけると、「健康的だな」と思いますが、やはり、こうした人たちは、こまめに身体を動かしているせいか動作も機敏で、表情もはつらつとしています。人間も動物も、使わない臓器や器官は、退化しやすいとよく言われますが、脳も同じなのですね。運動は、なぜ認知症予防に効果的なのでしょうか。

神経細胞も再生する


白澤 年をとると、体の機能が低下するのと同様に脳の機能も衰え、一度失われた脳の神経細胞は、再生しないと言われてきました。ところが、近年になって、脳の神経細胞も再生機能を持っていることが明らかになってきたのです。脳の中で、記憶や学習をつかさどる「海馬」の神経細胞の中には、年をとってもまだ分裂を続けている「神経幹細胞」という細胞があり、運動を継続的に行うことによってこの細胞が増えることが判明しました。つまり、運動によって認知機能が改善され、脳の老化防止に効果があることがわかってきたのです。

山田英生 いくつになっても人間の脳細胞は、体を動かせば活性化するのですね。今から約10年前、107歳、108歳で大往生を遂げられた長寿の双子姉妹、「きんさん・ぎんさん(成田きんさん、蟹江ぎんさん)」は、100歳を過ぎてもかくしゃくとされ、「理想的な老後像」として、多くの人たちに慕われました。特に姉のきんさんは、テレビに登場する前は、体や脳も衰え、やや認知症の兆しもあったそうですが、テレビなどに出演するにつれ、その症状も改善していかれたと聞きました。その健康長寿の秘訣は、好き嫌いがなく何でも食べ、100歳を過ぎてからも毎日30分の散歩を欠かさなかったため、と当時の新聞には紹介されていました。

白澤 きんさんは、「人間、歩けんようになったら、おしまいだ」が口癖で、家族や医師の勧めもあって90代後半から下半身の筋力トレーニングを毎日欠かさず続け、その甲斐があってか、衰えた筋肉も回復し、自力で歩けるようになったそうです。妹のぎんさんも晩年までお元気で、「体は、実年齢よりも20歳若かった」との医師の談話が当時の新聞に載っていました。お二人の生き方は、まさに健康長寿を全うされた生き方と言ってもよいでしょう。日々の食事や心の持ち方に加え、運動することが認知症の予防に有効であることが実証された典型的な例ではないでしょうか。

山田英生 お二人にあやかって、いくつになっても健康で生き生きと暮らしたいものです。そのためには、日ごろから体を動かす習慣をつけることが大切ですね。


無視できない散歩の力

白澤 その通りです。人間が生きていくうえで、大事なのは自分で食べること、自分の力で歩くことと言ってもよいでしょう。ウォーキングなどの運動をすれば、脳の血流がよくなるだけでなく、外へ出ることによって行動範囲が広がるので、さまざまな刺激を受けてストレスも解消され、脳も活性化します。年をとって、家に閉じこもっていると認知症が進むことも最近の研究でわかってきました。散歩程度の軽いウォーキングでも、外に出れば新しい発見や出会いがあり、老化を十分に防ぐ効果もあります。

山田英生 私も時々、散歩しますが、季節の移ろいを感じながら自然に触れるのは実に爽快で、ストレス解消にはもってこいです。

白澤 運動すると、爽快感や幸福感をもたらす「β-エンドルフィン」というホルモン物質が脳内に放出されるため、快い心地になるのです。
山田英生 だから、散歩をすると、気持ちがいいのですね。

白澤 それと、高齢になれば一般的に骨折や転倒、認知機能の低下につながる「ビタミンD」が不足しがちになります。天気の良い日は、ウォーキングでもしながら太陽の光を浴びれば、紫外線の力でビタミンDが補給されますので、大いに外に出ましょう。

山田英生 運動は、間違いなく健康増進につながりますね。

白澤 アルツハイマー病の予防に運動が有効であることは、いろんな調査や研究でもわかってきました。たとえば、アルツハイマー病を必然的に引き起こす『アルツハイマー病モデルマウス』にランニング運動をさせると、「脳の神経細胞を死滅させる老人斑が52%減少した」「老齢のマウスに同じような運動をさせたら記憶力が向上し、短期記憶をつかさどる海馬に新しい神経細胞が増えた」などの報告もあります。また、カナダで65歳以上の健康な住民6434人を対象に平均5年間追跡した調査によると、30分以上のウォーキングを週3回以上している人は、まったく運動していない人に比べ、アルツハイマー病の発症リスクが半分になることもわかっています。

山田英生 エビデンス(科学的根拠)もあるのですね。

1日5000歩を目標に

白澤 それと、肥満の人はアルツハイマー病になりやすいことがよく知られています。肥満を防ぐには、食べ過ぎないことと並んで、運動することが重要であることは言うまでもありません。また、脳血管性の認知症を防ぐには、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を予防することが大切ですが、そのためにも、日ごろから歩くことなどによって運動不足を解消することが重要になってきます。

山田英生 メタボリック症候群や動脈硬化が認知症の発症リスクを高めることは、私も聞いたことがあります。こうした生活習慣病を食事や運動で予防し、同時に認知症の発症も防げるのであれば、一石二鳥ですね。認知症を防ぐにはどんな運動を、どのくらいしたらよいのですか。

白澤 まず、最も手軽なウォーキングから始めてみては、いかがでしょうか。どこでも誰でもできますし、お金もかかりません。よく健康雑誌などに「1日1万歩を歩きましょう」などと書いてありますが、1万歩を歩くには、歩幅やスピードにもよりますが、1時間半はかかってしまいます。これだけの時間を普通の生活で確保するのは難しいでしょう。最初から1万歩という高い目標を掲げると、結構ハードルが高くなりますので、少しずつ距離や歩数を増やしていくのがよいでしょう。できれば、今、歩いている歩数に500歩、距離にして約350mを加え、できれば1日5000歩を目標に歩いてみてください。時間にして1日30分程度のウォーキングを週3回以上すれば、間違いなく健康増進につながると思いますね。

自分に合った運動を

山田英生 でも、仕事を持っている多忙な現代人は、なかなか時間がとれません。

白澤 工夫次第ですね。早起きして1つ先の駅まで歩くとか、駅や会社内でもエスカレーターやエレベーターを使わず、階段を歩く。買い物に行くにも少し遠回りするとか、いろんな方法があるでしょう。

山田英生 時間がなくても工夫すれば、何とかなるものですね

白澤 それと、日ごろの家事も立派な運動になります。たとえば、掃除、洗濯、孫の世話、介護、庭木の手入れ、家庭菜園などもかなりの運動量になりますね。お菓子をつまみながらテレビばかり見ていたり、買い物も車で済ませていたら運動不足になってしまいます。運動は何もウォーキングだけではなく、水泳でも、ダンスでも日本舞踊でもよいのです。大切なのは、コツコツ続けること。そのためには自分の好きな、自分に合った運動をすることでしょう。長く続けられるようになれば、習慣になります。

山田英生 運動は、薬にまさる予防医学と言ってもよいのですね。