ライフ、健康

元気で幸せで暮らすため いい生活習慣を身に付けまましょう

山田英生:良い生活習慣、認知症を防ぐ食生活

2014-05-08 15:29:07 | 認知症
良い生活習慣、認知症を防ぐ食生活

認知症に、まだ特効薬はありません。
でも、予防に良い生活習慣はあります。

認知症を防ぐ食生活


 高齢社会の進展に伴って、今後ますます増加が予想される認知症。症状が進めば、物忘れが極度に激しくなり、身の回りのこともできずに、寝たきりになったり、介護が必要になることもあります。「健康で長生きしたい」という高齢者を襲う認知症ですが、その根本的な治療法は、残念ながらまだ確立していません。それならば、認知症を治す特効薬が現れるのを待つよりも、認知症にならないよう予防することが健康長寿には何よりも大切です。最近の研究では、食事や運動などである程度、認知症を予防できることがわかってきました。どのような食材をどのように食べればよいか。長寿と老化研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(54)が語り合いました。

誰にもある発症リスク

山田英生 年をとると、増えるのが認知症ですね。認知機能が低下し、末期になれば、自分や家族が誰だか分からなくなり、寝たきりになることも多いと言われています。せっかく、長生きしたのに認知症になっては、QOL(生活の質)が損なわれ、とてもお気の毒に思いますね。

白澤 アルツハイマー病は徐々に記憶が失われ、自分や家族が誰だか分からなくなる心配があるうえに、原因も分からず、治療も不可能とされてきたため、誰もが避けたい病気の一つと思ってきたのでしょう。

山田英生 人口の高齢化に伴って認知症の人は急増し、現在、208万人と推定されています。2035年には推計で450万人を超えるとも聞きました。認知症は、若年性アルツハイマー病を別にすれば、加齢に伴って発症する病気とも言えます。年をとれば誰でも認知症になりうる可能性があり、とても心配になりますね。

白澤 アメリカのレーガン元大統領が自筆の手紙でアルツハイマー病を全国民に公表した時、テレビニュースは「あのレーガン元大統領でさえアルツハイマー病になったのだから、スーパーマンだっていつ発症してもおかしくない」というようなコメントを流したように記憶しています。つまり、アルツハイマー病は、年齢を重ねれば誰がなっても不思議ではありません。

山田英生 あれは、大変印象的な言葉でした。告白の中で「私は今、人生の黄昏へ向けた旅に出発します」という米国民に向けたメッセージにも感動しましたが、それ以上に、人一倍エネルギッシュに世界を動かしていた彼でさえもアルツハイマー病になる、ということに大変ショックを受けたものです。でも、レーガンさんの勇気ある告白は、アルツハイマー病の深刻さを世界に伝えると同時に、アルツハイマー病がもはや隠す病気ではないことを堂々と宣言したものとして高く評価されていますね。

白澤 その通りです。彼の告白は、全世界の人たちへの警告であり、大変インパクトがありました。前々回の対談で、東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)の研究で「亡くなられた約7000人を病理解剖したら、51%の人にがんが見つかった」という話をしましたが、アルツハイマー病も、80~85歳の人に限れば、35~40%の人が抱えていたことがわかっています。この割合を考えると、誰でもアルツハイマー病になるリスクがある、と言えますね。

山田英生 認知症というと、一般的には物忘れを連想しますね。たとえば、年をとると、「人の名前が出てこない」「漢字を忘れる」「物をどこにしまったか覚えていない」というような経験をよくします。こんな物忘れがあまりにも多いと「認知症の始まりではないか」と心配する人も結構多いようです。

家族に深刻な周辺症状

白澤 脳の衰えは、年をとるごとに進んでいきますので、ある程度の物忘れは、自然な老化現象といってもよいでしょう。でも、物忘れがひどくなると、加齢に伴う物忘れなのか、認知症によるものなのか初期の段階では、なかなか区別がつきません。認知症の初期の段階を、「軽度認知機能障害」(MCI)と言い、同じ話を何度も繰り返すような兆候がよく見られるようになります。もっと症状が進めば、「その日が何日で、何曜日なのか」わからなくなる「見当識障害」が出てきたり、さらに「身の回りのことができない」、「文字が読めない」などの「認知機能障害」が現れてきます。こうした障害は中核症状と呼ばれますが、介護する家族にとって最も大変なのは、徘徊や失禁、幻覚、妄想、暴力などが出てくる周辺症状と言ってもよいでしょう。

山田英生 認知症には、いくつか種類があると聞きました。

白澤 大きく分けて脳梗塞や脳出血などの脳疾患に伴って、脳の記憶や言語をつかさどる部位が障害を受けて起こる脳血管性認知症と、脳の中に「βアミロイド」と呼ばれるたんぱく質が蓄積され、神経細胞を壊して脳が委縮するアルツハイマー型認知症があります。75歳までの人には、脳血管性が多く、75歳を過ぎるとアルツハイマー型が増え、全体の約6割を占めるとも言われています。

広がる治療の選択肢

山田英生 よく「親が認知症だったから自分も危ない」と思っている人が多いようですが、アルツハイマー病は遺伝するのでしょうか。

白澤 まだ原因は解明されていませんが、「家族性アルツハイマー病」のように遺伝するタイプを除き、ほとんど関係ないと言ってもよいでしょう。アメリカではアルツハイマー病の患者さんの5%、日本では3%が遺伝要因と言われ、残りの人は遺伝とは関係なく、環境要因、つまり生活習慣が関係しているとも言われています。たとえば、太っている人、肉など高脂肪食を摂り続けている人、タバコを吸う人、血圧が高い人などもリスクが高いことが最近の研究でわかってきました。

山田英生 現在、アルツハイマー病の治療は、どの様な状況なのでしょうか。治療薬などはあるのでしょうか。

白澤 アルツハイマー病の治療薬は、これまで一種類だけでしたが、昨年、貼り薬(パッチ剤)など3種類の新しい治療薬が登場したほか、2種類の薬の併用も可能になりました。

山田英生 認知症の患者さんやご家族にとっては治療の選択肢が広がり、特にパッチ剤の登場は介護する家族の負担軽減にもつながりますね。

白澤 確かに治療の選択肢が増えたことはよいことですが、いずれも進行を遅らせる薬で、アルツハイマー病を根本から治す特効薬ではありません。今のところ、βアミロイドの量を減らしたり、脳内への蓄積を阻害する方法はまだ開発途上にあります。免疫力を活発にしてβアミロイドを取り除くワクチンが実用化されるまで多分、10年、20年はかかるでしょう。それを待つよりも今の時点では、アルツハイマー病にならないための予防法を確立するほうが大切ではないでしょうか。アルツハイマー病は、いったん発症すれば、死滅した神経細胞を元に戻すことはできません。それよりも、まだ神経細胞が残っているときに、症状を進行させないように予防するほうが重要だと私は思います。ネズミを使った実験などから、アルツハイマー病は食事や運動などで予防できることがわかってきました。

山田英生 今の段階では、アルツハイマー病は完全に治せないものの、予防することはできるということですね。では、どんな食べ物を、どのように食べればよいのですか。

白澤 「ブレインフーズ」という言葉を聞いたことがあるかと思います。脳を活性化させる食べ物のことですが、アルツハイマー病予防との関係で、比較的エビデンス(科学的根拠)があると言われています。たとえば、カレー粉に含まれているウコン(ターメリック)の化学成分クルクミンは、ポリフェノールの一種ですが、このクルクミンをβアミロイドの溶液に加えると神経細胞が死滅しないことがわかっています。カレーをたくさん食べるインド人は、アメリカ人に比べアルツハイマー病患者が少ないとの報告もあります。

酸化を抑える野菜の力

山田英生 野菜や果物も認知症の予防によいと聞きました。

白澤 認知症予防のカギとなるのが、体をサビつかせる活性酸素をどう抑えるかでしょう。野菜や果物には、植物の化学成分であるファイトケミカルが十分含まれ、とても抗酸化力に優れています。また、果物には活性酸素を抑えるビタミンCが豊富に含まれています。旬の野菜や果物をたっぷり摂ることは認知症を予防するうえでとても大切ですが、朝、忙しい人はその代わりに野菜ジュースを摂っても構いません。1836人の日系米国人を対象にした大規模疫学調査では、野菜か果物ジュースを1週間に3回以上飲む人は、1回以下しか飲まない人に比べアルツハイマー病になるリスクが76%も低いことがわかっています。ジュースに含まれているポリフェノールがアルツハイマーの予防によいのでしょう。

山田英生 地中海料理を食べている人は、アルツハイマー病に罹りにくいとも聞きました。地中海料理といえば、野菜や果物、魚介類、穀物、豆類などを食材としてふんだんに用いる一方、肉は少なめ、油はオリーブオイルを使うのが特徴ですね。日本食とよく似ていると言われていますが、地中海料理のどんな点がアルツハイマー病の予防に良いのですか。

白澤 ニューヨークに住む1984人を対象に、健康と食事の関係を聞いた調査があります。その結果によると、「最も地中海料理に近い食事を摂っている人」は、「最も地中海料理とかけ離れた食事を摂っている人」に比べ、アルツハイマー病の発症リスクが68%も低かった、との報告があります。野菜・果物など抗酸化作用を持つ食品と不飽和脂肪酸のオリーブオイルを中心としたバランスのとれた食事がアルツハイマー病の予防に良いのでしょう。確かに地中海料理で使われている食品群は、オリーブオイルを除けば、日本食とよく似ています。であれば、日本食中心の食事を続ければ、認知症を予防できる可能性があるかもしれません。

魚を食べて認知症予防

山田英生 地中海料理には魚介類がよく使われますが、魚が認知症によいとも聞きました。

白澤 確かに魚をたくさん食べている高齢者に認知症の人が少ない、とも言われています。おそらくマグロ、ブリ、イワシ、サンマなど背の青い魚が持っている脂のDHA(ドコサヘキサエン酸)にその秘密がありそうです。アルツハイマー病が進んだ18カ月のマウスに0.6%のDHAを含んだエサを与え、3か月間飼育したところ、老人斑(βアミロイドが脳に蓄積してできたシミ)の面積が40%減少したとの研究結果があります。このほか、地中海料理の定番である赤ワインや、脳血管性認知症の原因の一つでもある脳梗塞を防ぐ働きがあるとされる納豆などが認知症によいとされています。こうした食品を積極的に摂り、バランスのとれた食生活を心がけることは、健康長寿にとって欠かせないでしょうね。

山田英生:長寿に影響を与える因素

2014-05-08 15:01:51 | 高齢社会
長生きは、たいせつ。元気に長生きは、もっとたいせつです。

老化とアンチエイジング


 人間なら誰でも老化は避けることができません。老化を少しでも遅らせ、「いつまでも若々しく元気に暮らしたい」と思うのは、多くの人の共通した願いではないでしょうか。しかし、現実にはQOL(生活の質)を下げる認知症や寝たきりなどがわが国では増えています。90歳、100歳になっても、身の回りのことは自分ででき、健やかに老いるサクセスフル・エイジングを実現するには、どうすればよいのでしょうか。寿命や老化研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と、山田英生山田養蜂場代表(54)が老化とアンチエイジングなどについて語り合いました。

老化にも個人の差

山田 私も50歳を越したせいか最近、テレビに出てくる人の名前がすぐ出てこないことがよくありますね。仕事でもちょっと無理をすると、すぐに疲れが取れないことも増えてきました。これも一種の老化現象なのでしょうか。人は誰でも老化は避けられないと分かっていても、「いつまでも元気で仕事をしていたい」「ずっと若々しく、美しくありたい」と思うのは、自然の感情ではないでしょうか。でも、人によって実際の年齢よりも若く見える人もいれば、老けて見える人もいます。老化にもだいぶ個人差があるように思えますが…。

白澤 かなりありますね。年をとればとるほど、その差は大きくなっていきます。たとえば、小学校や中学校の同窓会に何十年ぶりかに出席したとき、すっかり老け込んで誰だか分からないオジさん、オバさんもいるでしょう。その一方で、顔かたちや雰囲気が昔と変わらず、年齢を感じさせない若々しい人もいると思います。その差は、どこにあるか。いつまでも若々しく元気でいたいと努力するアンチエイジング・ライフの差と言ってもよいと思います。

山田 おっしゃる通り、同窓会での同級生の変わりようには、びっくりさせられることがあります。でも、こうした外見の差は、男女によって違うような気もします。老化に男女の差はあるのですか。

白澤 ありますね。男性か女性かによって老化しやすい機能や身体の器官が異なります。たとえば、動脈硬化につながる血管の老化は、女性に比べ男性のほうが進みやすく、より注意が必要でしょう。反対に骨粗しょう症の原因ともなる骨の老化は、女性ホルモンの影響もあって女性のほうが、男性より進みやすいといえます。山田 そうなんですね。老化の進み方は男女とも一緒で、身体も全体が一斉に老化していくと思っていました。

寿命は遺伝より環境

白澤 そうではありません。老化が進みやすい部分もあれば、比較的緩やかに進むところもあり、脳や血管、骨、筋肉、免疫など老化の進み方がそれぞれ違います。たとえば、肺活量は早くから衰えやすい機能の一つで、30歳から45歳までの間に平均20%も落ちるといわれているのに対し、人間が生きていくうえで最小限必要なエネルギー量の「基礎代謝」や神経機能などは、一生を通じて緩やかに衰えていきます。このように体の器官、機能によって老化のスピードが違うわけです。しかも、どの部分から老化が始まるかも人によってそれぞれ異なりますね。山田 それは、老化には個人差があるということですね。老化の進み具合や寿命も、やはり親から引き継いだ遺伝の影響が大きいのでしょうか。

白澤 確かに遺伝の影響はありますが、それほど多くはありません。一卵性双生児と二卵性双生児の寿命を比較した疫学上の研究から、人の寿命は遺伝要因が25%で、残りの75%は環境要因によって決まる、と言われています。つまり、年齢より若く見えるか否か、あるいは90歳、100歳まで長生きできるかどうかは、親からもらった遺伝的な要因よりも環境要因のほうが3倍も大きい、と言えます。だから、たとえ親が早死にしているからといって「自分は長生きできない」と悲観的に考える必要はありません。こうした寿命や老化に影響を与える環境要因の中でも食事、運動、生きがいの3つが特に重要であることが最近の研究でわかってきました。

山田 そうしますと、長生きすることも、いつまでも若々しく元気でいることも、親から譲り受けた遺伝の部分よりも、自分の心がけや努力などで変えられる環境の部分のほうが大きい、ということになりますね。白澤 そう言えますね。寿命や老化にはその人の生まれながらの体質もありますが、育った環境や生活習慣しだいで大きく変わってきます。重要なのは、「自分はどこの部分から老化が進むか」を知り、それに合わせた対策を取ることです。山田 最近の健康ブームを反映してか、いろんな所で「アンチエイジング」という言葉を耳にするようになりました。今では女性だけでなく男性の間でも、若さを保つための努力をする人が増えているようです。この言葉はもともと、年をとることによって起こる身体的な機能の衰えをできるだけ抑えることによって、老化が進むのを食い止めることを言いますが、最近ではどちらかというと、顔のシワやタルミを取るといった若返り方法など、主に美容面でよく使われている言葉のようにも思えます。先生が目指されているアンチエイジングとは、どのようなものでしょうか。

体の中から老化予防

白澤 もともと、アンチエイジングは、老化に逆らうという意味の「抗加齢」という考え方が一般的でした。しかし、現在は長寿遺伝子やテロメア(細胞の染色体の末端にある染色体を保護する構造物)などの研究に代表されるように、遺伝子や細胞レベルでの老化研究がかなり進んでいます。そうした流れの中で、加齢や老化のプロセスをコントロールし、老化のスピードを緩やかにしていく「加齢制御医学」というコンセプトが出てきました。私もこうした考え方に基づいて研究を進めています。美容整形などのように、見た目だけを若返らせるのではなく、体の内側から老化プロセスに働きかけて老化をコントロールしようという考え方ですね。本当の意味での健康長寿を目指すには、こうした考えをきちんと理解することがとても大切です。

山田 先ほど、先生は身体の器官や機能によって老化の進み具合が違うと言われましたが、老化にはどのようなタイプがあるのですか。

動脈硬化は血管の老化

白澤 まず、代表的なのが血管の老化ですね。「人は血管とともに老いる」と言われていますが、加齢とともに確実に老化していくのが血管です。血管の老化が極度に進めば、全身の老化を促し、やがて脳卒中や心筋梗塞といった命にかかわる重大な病気を招くこともあります。

山田 いわゆる動脈硬化ですね。

白澤 そうです。動脈硬化は、血管の壁にコレステロールや中性脂肪などがたまり、血管が狭くなって弾力がなくなり、血液がスムーズに流れなくなった状態を言います。だから動脈硬化は、かなり血管の老化が進んだ状態といってもよいでしょう。この病気が怖いのは、自覚症状がないまま静かに進行することです。その原因となるのが、肥満や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に加え、運動不足や過度の飲酒、喫煙など乱れた生活習慣が引き金になるケースが多いと言えますね。

山田 動脈硬化を避けるためには、生活習慣の改善が何よりも大事なわけですね。

白澤 それと、血管の老化と並んで怖いのが、脳の老化ですね。「最近、物忘れがひどくなった」「新しいことが、なかなか覚えられない」といった悩みをお持ちの方も多いと思います。実際、脳の機能は20代、30代のころから少しずつ低下していきます。脳の老化は、アルツハイマー病や脳血管性の認知症などにつながる可能性も出てきます。こうした脳の老化を防ぐには、バランスのよい食事や適切な運動、正しい生活習慣を心がけることが何よりも重要です。山田 なるほど、食生活や運動など生活習慣の大切さがよくわかりました。

老化には6つのタイプ

白澤 それと、もう一つ注意したいのが、骨の老化です。骨の老化は、骨粗しょう症の原因ともなり、転倒骨折すれば寝たきりの原因ともなります。このほか、老化には体力低下の要因ともなる「筋肉の老化」、老年期うつ病につながりやすい「心の老化」、がんや肺炎などの発症とも関係のある「免疫の老化」と、大きく分けて6つのタイプがあります。

山田 老化にもいろいろなタイプがあるのですね。

白澤 そうです。こうした老化についての知識を持つと同時に、自分の老化のタイプを知り老化の原因となっている生活習慣を少しずつ改善していけば、老化を上手にコントロールすることも、十分可能でしょう。大切なのは、どんなことでもよいですからアンチエイジングのための第一歩を早く踏み出すことです。

健やかな老いを目指す

山田 ここ数年、日本人の平均寿命が延び、ものすごいスピードで高齢化が進んでいます。長生きすることは、すばらしいことです。しかも、生きている限り、自分のことは自分ででき、健康で元気に暮らせる健康長寿こそが多くの人の願いでもあるでしょう。文字通り健康長寿は、健康で年齢に相応した幸福を享受することであり、延命により生きながらえる「長命」とは本質的に違うと思います。どうしたら健康長寿を手に入れられるのでしょうか。

白澤 年をとれば、とかく病気を抱えて生きることが多くなります。であれば、寝たきりの期間をできるだけ短くし、日々生き生きと暮らしながら天寿を全うすることが理想的な生き方といってもよいでしょう。100歳になっても自分の身の回りのことができ、元気で自活できる健康長寿こそが私の提唱するアンチエイジング・ライフの医学的ゴールです。

山田 健康長寿のゴールですね。

白澤 そして、このゴールに無事ゴールインできれば、サクセスフル・エイジングを叶えることができたといえるでしょう。そのためにも、アルツハイマー病や寝たきりにつながりやすい骨粗しょう症はもちろんのこと、高齢期のQOLを下げやすい糖尿病などの生活習慣病や加齢とともに増えるがんなどを防ぐことが大事です

山田英生:高齢生活の邪魔もの

2014-05-08 14:25:15 | 高齢社会
人生100年時代。 長生きすることが、 本当に幸せであるために。

高齢社会 日本の光と影


 年々延びる日本人の平均寿命。100歳を超える人は昨年、47000人を突破し、2050年には70万人に達するとの予測もあります。「人生100年時代」も夢ではなくなってきましたが、その一方で増え続けているのが認知症やがん、寝たきりなど健康長寿を妨げる病気。こうした病気を予防し、いつまでも元気で健やかに過ごしたいと思うのは、多くの人の共通した願いでもあるでしょう。山田英生(54)・山田養蜂場代表が第一線で活躍する研究者、医師らと語り合う対談シリーズ「予防医学―病気にならないために」。今回の対談相手は、老化、寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)。テーマは「健康長寿をめざす生き方」です。

「人生100年時代」も

山田 日本人の平均寿命は、女性が86・39歳と26年連続世界第1位、男性も79・64歳と世界第4位で、男女合わせた平均寿命は、世界一といってもよいでしょう。しかも、100歳以上の高齢者は急増し、2011年には47756人に達しました。今後、医療技術がさらに進めば、「人生100年時代」も夢ではないような気がします。

白澤 そう思いますね。かつては「人生50年」といわれた時代もありましたが、それも今となっては、遥か遠い昔の話。私は、100歳以上長生きして、元気に人生を謳歌している方たちを「百寿者」と呼んでいますが、私がお会いした百寿者の中には、これまでの人生で一度も医師の世話になったことがない人が何人もおります。誰でも正しい食生活生活習慣を実践すれば、百寿者になることも夢ではないと思いますね。

山田 本来、長生きすることは、喜ばしいことなのですが、なぜか高齢社会をよくない、困った社会のように考えたり、長寿自体を望まない人も少なくないようです。ある生命保険会社が25歳から65歳までの男女約800人に「長生きしたいか」を尋ねたところ、約4人に1人が「長生きはしたくない」と答えたという記事が新聞に載っていました。その理由も「お金」や「病気・入院」「介護」への不安が背景にあるようです。確かに、お金の点では将来、公的年金がまともにもらえそうもない、などの心配もあるのでしょう。また、「病気」についても認知症や寝たきりへの不安があるために、長生きしたくないと思っている人も、結構いるようです。

白澤 私も講演会などで老いや長寿についてよく話をする機会がありますが、会場内からは「長生きしても仕方がない」「100歳まで生きるなんてとんでもない」といった悲観的な声が寄せられることが時々あります。やはり「老い」には、病気や寝たきりといったマイナスイメージがあるからでしょう。

山田 そうかもしれません。でも、長生きしたくない社会というのはちょっと寂しい気がしますね。

増えるポックリ願望

白澤 今、このように多くの人が老いに悲観的なイメージを抱いたり、長寿をあまり望まないのは、身近に「死ねない病気」が増えているからと言っても過言ではありません。誰でも亡くなる時には「ピンピンコロリと逝きたい」という願望を持っていますよね。よくタバコを吸う人に「タバコは止めたほうがいいよ」と注意すると、「どうせ、オレはポックリ逝くから構わないよ」などという人がいるでしょう。でも、今の時代、ポックリ逝きたくても逝けないから問題なんです。たとえば、重度の心筋梗塞に陥っても、血管を内側から広げる金属製の筒の「ステント」を入れれば、そう簡単には亡くなりません。私の知っている患者さんで、ステントを何本も入れられ、8回蘇生した人もいます。

山田 延命治療のため、自然死や老衰で穏やかに死んでいくことができにくい時代ですね。前日まで元気にピンピン暮らして、ある日突然コロリと逝ければ、どんなに幸せでしょう。先生の言われる「死ねない病気」とは、どんな病気ですか。

QOLを損なう認知症

白澤 たとえば、アルツハイマー病などの認知症と、骨粗しょう症がその代表といってもよいでしょう。 認知症は説明するまでもありませんが、骨粗しょう症は骨がスカスカになり、転倒骨折すると、寝たきりの原因にもなりかねません。そうなるとQOL(生活の質)が大きく損なわれます。人間、すべての機能が失われたら、あとは自然に任せることも必要だと私は思います。ドイツの老人ホームには、寝たきりの人がほとんどいません。自分で食べられなくなったら、自然に任せるといったコンセンサスが国民の間に定着しているからでしょう。やはり、人生の最終章は、その人らしく尊厳と品格に満ち、喜びや幸せに包まれて生きるのが理想だと思います。病棟で必要なものは、点滴などよりも、やさしい家族の思いやりかもしれません。

山田 そう思いますね。私が幼いころはどこの家でも、その家の主が還暦や古希を迎えると、家業を子供に任せ、余生は子供や孫たちに囲まれながら悠々自適に暮らしていた人が多かったように思います。本来なら60歳、70歳まで一生懸命働き、家族を養いながら社会にも貢献してきたのですから、老後こそ、その成果を享受できる時間ではないでしょうか。ところが、今の時代はそれがなかなかできにくく、とても歯がゆく申し訳ない思いがします。通信販売をしていてよく感じることですが、核家族化が進み、今は高齢のご夫婦のみか、お年寄りの一人暮らしが増えました。その結果、一人で寂しく亡くなっていく方も少なくありません。また、ご夫婦のうち、どちらかが病気になったら、もう一方の方が介護する「老老介護」や認知症の人が認知症の人を介護する「認認介護」も珍しくなくなってきましたね。

貴重な高齢者の経験

白澤 確かに、そういう面もありますが、その一方でお元気なお年寄りもたくさんいます。中でも70歳から80歳の方は特にお元気ですね。病気にかかっている人や体の弱い人は多分、4分の1ぐらいで、あとの4分の3は、お元気な人たちといってもよいでしょう。まだまだご本人にも働く意欲があり、体力的、精神的にも十分働けるのに、「定年」という一線を引いて、無理やり現役を引退させる日本の社会システム自体に問題があると思います。実にもったいなく、これまで培った経験や技術を生かせば、ご本人の生きがいにもなるし、労働力の確保の点からも大いに社会に貢献できると思いますね。

山田 まったく同感です。この超高齢社会の日本で、一律に50歳代で肩たたき、60歳代で定年というのは、おかしいと思います。働く意欲のある高齢者には、その経験を生かしていただけるような社会に制度を変えていく必要がありそうです。今の高齢者は、昔と比べても若く、腰の曲がった人などはほとんど見かけません。70歳になっても、バリバリ仕事ができる人もたくさんいます。若い頃に比べれば多少、意思決定が遅くなることはあるかも知れませんが、その分、長年培った経験から間違いのない判断をされる方が多いように思えます。こうした経験や技術を生かさない手はありません。たとえば、60歳前は、1日8時間働いていたのを60歳を過ぎたら4、5時間勤務に変えるなど仕事の量や質を変えても、職場で責任を担っていただくことは、少子高齢社会ではとても重要ではないでしょうか。

白澤 よく少子高齢化に伴って、高齢者の人口比率が大きくなることを、日本の経済が破綻するかのように言う人がいますが、そうした考えは間違っていると思いますね。たとえば、100歳以上の高齢者の約8、9割は寝たきりですが、約1、2割は元気で、この中には活動的に働いている人もいます。特に男性は90歳、100歳になっても元気に仕事やボランティアなどに精を出している人が結構います。この働いている人の割合をもっと増やせば、かなりの経済効果を生み出せるでしょう。どんなに高齢化しても、健康な人が増えればそれだけ働く人も増えるので、経済が崩れることはないはずです。そのためにも、健康長寿が重要になってきますね。

山田 高齢者のQOLを妨げる病気として、先ほど先生は認知症と骨粗しょう症をあげられましたが、がんはどうでしょうか。確かに、早期がんなら90%以上は治るとも言われ、以前のような「不治の病」との印象は薄れてきました。そうは言っても、年間70万人近い人ががんに罹り、毎年35万人を超える人が亡くなり、1981年以来、日本人の死因の第1位を占めています。しかも、がんと診断されるまで20~30年ぐらいかかると言われ、そのためか60歳を過ぎたころから急激に増え、やはり加齢に伴う病気との印象が拭えません。

白澤 おっしゃる通り、日本人の死因をみると、第1位はがんで、第2位が心臓病、第3位が脳卒中です。確かに、闘病の辛さや死につながる恐怖、治療費の高さなどからがんは誰でも罹りたくない病気のナンバーワンと言ってもよいでしょう。しかし、年齢別にがんの死亡率をみると、男性は65歳~69歳、女性は55歳~59歳をピークに前後になだらかな曲線を描いています。しかも、高齢になればなるほど、減少し、90歳を過ぎるころにはグーンと減っています。

山田 意外ですね。歳をとればとるほど、がんになりやすいと思っていました。

がんを克服する長寿

白澤 かつて私が勤務していた東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)に興味深い調査結果があります。東京都老人医療センターの協力で、亡くなられた約7000人(平均年齢82歳)を病理解剖したところ、51%(男性56%、女性46%)の人にがんが見つかりました。実に2人に1人ががんを抱えていたことになります。ところが、亡くなられた人の多くが、がんで亡くなったかといえば、そうではありません。亡くなられた人の死因は、肺炎、心臓病、脳卒中がほとんどで、がんで亡くなられた人は意外と少なかったのです。つまり、高齢になればなるほど、がんでは亡くならないと言えますね。

山田 しかも、高齢者のがんは、若い人に比べ緩やかに進行するとも言われています。そうなると、がんと共生しながら長生きすることになりますね。

白澤 そうです。長生きすればするほど、がんになってもがんで亡くなるケースは少ないとも言えるでしょう。長寿はがんに勝つコツといってもよいかも知れません。

山田 「老い」は、誰も避けて通ることができません。であるならば、最期までがんや認知症、寝たきりにならず、元気で自立した生活を送りたいものです。