読書の森

有川浩 『ストーリーセラー』 続き

もちろんこれは私小説ではない。
ありえない物語なのに、迫力を持って迫る。

男と女はデザイン会社の同僚でお互い気になる存在だった。
ある日、一人残業していた男が女の忘れたUSBメモリーをパソコンに繋げたところから恋は進展する。
忘れ物に気づいて急いで引き返してきた妻の前で、男は食い入るようにパソコンの画面を見ていた。

そこには魅力的な物語が展開していた。
本が三度の飯より好きな男が、かって読んだどんな話より面白い。
しかし、物語は女にとって大切な心の秘密であり自分だけの密やかな楽しみだったのだ。
読ませまいとする女の唇を強引なキス(!)で塞いで男は夢中で読了した。

大学時代文芸部に属していた女、書くことの大好きな彼女は悪意ある批評を浴びせられ、心をズタズタに引き裂かれ、深い傷を負った。
以来、二度と自分の作品を人に見せなかった。
小型のノートパソコンを持ち歩いて、休み時に楽しみで物語を作っていた。

男は女と結ばれて、やがて二人は夫婦になる。
夫の勧めで応募した小説が大賞を受賞、妻は一躍人気小説家になった。

有名になった妻につけ入る親族、ありもしないデマで妻を誹謗するかっての文芸部出身のライター、頼りない両親も認知症の祖母の介護を妻に押し付ける。

肉親やかっての仲間の重圧に耐えかねて、妻は普通でなくなった。
それだけなら治療する手だてはあるだろうが、病に蝕まれて死に至る運命にある。
この暗い状況を救うのは、夫婦の愛である。
読み進む内に、作者がなぜ「ベタ甘」と呼ばれているのかよく分かる。

本を愛して、本を仲立ちにして仲良くなるのが好きで、という辺りは物凄く共感できるが、ちょっとなあと感じる嘘っぽさ。
それをファンタジックなベールが覆う。

結局、厳しい現実をファンタジーに変えたのが、有川浩さんの真骨頂なんだなと思った。
小説家志望の方がいらしたら絶対お薦めの一冊です。
多分、心を癒す何かがあると思います。
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