
18年余りの月日を経て再会した二人だが、5分と経たない間に昔の会話が蘇った。
「能美は若いね」
「子供ないから自分が子供でいられるのよ。元だって若いよ。独身?」
「うん、能美が忘れられなくて」
「、、、、」
「嘘だよ。あまり給料が安いんで女房が呆れて逃げた。それに懲りたんだ」
二人は笑い合った。

元の会社は雑誌や娯楽書を販売する他に、
自費出版の仕事にも手を出している。
原稿を校正、編集し製本する。
部数が問題であくまでも自費出版であるから全額自己負担である。
少なくとも売れる本というのを前提にしていない。
「うちのやり方はそうなんだが」
「承知してます。でも本屋さんに置いて貰う事は出来るんでしょう?」
「もちろん返品覚悟なら」
本当の会話はそこから始まった。
本来なら能美は新聞か出版社の編集部に努めて活躍してみたかった。
それが一度の社会経験も持たずに、大人しい奥様に納まっている。
これが一番のストレスの溜まりどころである。
気のおけない元と話してる内に能美はイキイキとした自分を取り戻してきた。
ワードに書き溜めた原稿を能美は持参していた。
ロマンチックなホラー小説というべきだが、どうも中途半端だ。
文章が整ってるという以外に作品としてインパクトが薄い。
元は正直に能美に伝えた。
「なあに?自費出版でお金さえ出せば本にしてくれるんじゃないの?」
その時能美いう通り、ありきたりの書き物として出版の手続きすれば良かったと心から元は思っている。
しかし、元の心の奥に浮んだのはずっと能美と話す時間を持ちたいという欲望だった。
「思い切って僕のアドバイスで書き直してみないか?売れる読み物になるかも知れない」
「えっ!私の書いたもの読者がつくわけ?」
能美の目はキラキラとハートを浮かべた様に輝いた。
「うん」
元の目も輝く。
お互いに20年前の青春の日々を生きている錯覚に陥った。