読書の森

ダイヤモンドだね



加野小夜子は、夫靖己の49日の法事を終えて間もなくに倒れ、48歳で命を閉じた。
看病疲れによる過労死かと思われたが、後に夫を襲ったすい臓がんに彼女も罹っていたことが分かった。
それだけの肉体的苦痛を生前みじんも人に見せなかったと言う。

葬儀は身内だけの密葬だった。


かって、大手デパートの外商部長をしていた靖己は、極めて太っ腹だが大雑把で隙だらけの性格だった。

バブル景気の際は栄華を極め、いざ緊縮財政に入った時に、彼の行った杜撰な仕事の失敗が明るみに出てしまった。
同時に放埒な女性関係も取り沙汰されて、居た堪れずに50歳で会社を辞めた。



小夜子は気の強い性格だが、この時は夫を全面的に庇った。
「気がいい人なのよ。気がつく様で脇が甘いの」

妻の庇いだてなど、何も役に立たない。
社交のつけを個人で代替わりして、全て借金となった。
弁済は退職金では足りず、下北沢の邸宅を売り払う事になった。

郊外の貧弱なアパートに二人で住んだ。
そして、貯金を取り崩す生活を立て直したいと、小夜子はスーパーのレジのアルバイトに励んだ。

気落ちして別人の様に痩せた靖己も、職探しに精を出すが、プライドの高い彼は、合う仕事を見つけられない。
煩悶する日々が続いた挙句、身体を壊した。

彼は医者にかかり、検査の結果癌と診断された。
既に手遅れだった。
闘病一年で亡くなったのである。
小夜子は必死で看病した。
まるで周りが全て敵に回ったかの様に、夫のそばに医者以外の何者をも寄せ付けなかった

彼女の生涯において靖己を独占した唯一の時間だったろう。

読んでいただき心から感謝します。 宜しければポツンと押して下さいませ❣️

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