大森玉代は加野小夜子と仲が良かった。
スーパーのレジ打ちのアルバイトで小夜子と知り合ったのである。
夫と離婚し、20歳の娘と暮らす。
玉代は自分の事をベラベラ話すが、小夜子は話さない。
しかし、ふと漏らす言葉で彼女の窮状を知ると、同じような生活に苦しむ玉代は親近感がわいた。
たわいないおしゃべりをしながら、通じ合うものを感じると幸せだった。
彼女が亡くなる一ヶ月くらい前に、アパートに見舞いに行った。
意外とイキイキした表情で小夜子は喜んだ。
その時玉代は小夜子にダイヤモンドのネックレスを貰った。
「なあに、本当にこんな高いもの貰っていいの?ご主人の形見よね」
「確かに本物よ。主人が私の為に買ってくれた唯一のものです。
でも、こんなおばさんが持ってるより、娘さんの奈々さんが持つ方がよほどふさわしいわ。きっと主人も喜ぶと思うの」
気が狂ったのかと玉代は小夜子の痩せた顔をまじまじと見つめた。
ごく当たり前の表情をしている。
「あなたが来なかったら、私がそちらに持って行こうと思ったの。
ねっ、私の一番の心残りは、主人の倒産じゃない、二人の間に子どもがいなかった事なのよ。
誰かの子の為に役に立ちたいの。
奈々ちゃんはとても優しい子どもだわ。
片親がなくて不自由な事があったら、ネックレスを売ってちょうだい」
信じられぬまま貰って帰ったが、玉代はいつでも返そうとネックレスを大事にしまった。
小夜子が死んで、あの時の言葉が遺言だった事を知った。
ひどく切ないけど、何故か小夜子がとても幸せに亡くなったと思える。
ネックレスはお金に替えようと思う。
奈々の将来の為に。
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