女はガタガタと震えながら片隅の席に座った。
「椅子濡れるけどすいません」
「後で拭きゃいいんだから、気にしないで」
女将はふくふくした笑顔で盆を差し出した。
女は一気に茶碗を煽って妙な顔をした。
「ハハ甘酒よ。ご飯と味噌汁あるけど食べない」
「余計なお節介しないで」
女はピシャリと言って、茶碗を邪険にテーブルに置いた。
気色ばんだ常連客に主人が笑顔で目配せした。
客たちは心得て今まで通りに雑談を交わし出した。
女はそれをギラギラ光る目で見つめていたが、やがて疲れ切った様に身体を壁に持たせかけた。
目元に一筋涙を流していた。
まるで女が安らぐのと合わせた様に嵐はそれから暫くして静まった。
人心地が付いた女は、バックから大判のハンカチを出して椅子を拭いた。
立ち上がってぎごちないお辞儀をした。
「ごめんなさい。お代はいくらですか?」
女将は手を振りかけたが、直ぐに甘酒の値を言った。
女はきっちりと勘定を済ませた。
よく見ると知的な顔立ちをしている。
「気をつけて帰りなね」
「はい、有難うございます」
「心配だね。駅まで無事帰るか」
「俺見てくるよ」
「お前だと余計心配だ」
笑い声がして、客の一人が女の後を追った。
その漁師の話によると、彼女は何事も無かった様に上りの列車に乗ったという。
彼は早速「はるか」に御注進に及んだのであるy
女将の晴子はホッと胸を撫ぜおろした。
「あの子はあの時の私と同じだわ」
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