男は遠山和人と言い、透の幼馴染である。
次男の彼は、両親と不和だった。
両親から離れる為に大阪で働きながら大学に通っていた。
神戸市須磨区のアパートで一人暮らしをしていた。
「そこへ木下君が訪ねて来たのです」
実は和人と靖子は同じ様な境遇にあった。
靖子も不和な両親から離れ、自活していたのだ。
意地っ張りの靖子の気持ちをほぐすにはどうしたらいいか。
透は気の置けない和人に打ち明け、相談をする為に神戸に行ったのだ。
「そんな!それで透はどうしたんですか?」
「亡くなりました。二階建てのアパートの一階だったのですが、彼はグッスリ眠り込んでいたのです。逃げ遅れて建物の下敷きになったのです」
靖子は、目の前の男が何故それを直ぐに伝えなかったのか、分からない。
驚くことも泣くことも怒ることも忘れ、ただじっと目を見つめた。
男が嘘を言っているなら、分かるから。
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