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読書の森

お母さん その2


紗奈は小さな頃からよく他人から「まあお父様そっくり、、」と言われた。
俊一はそれなりに目鼻立ちの整った顔立ちで見た目は良い。それでも紗奈は貶された気になった。

美奈子に言わせると「いい加減で嘘つきでとんでもない」父親に似ているなんてそれこそとんでもない気分だった。
それに比べて、真面目で優秀なパート事務員で、頭が良い可愛い母に自分が何故似てないのか情けなかったのである。
彼女は母は自分の成長だけを楽しみにしていると思い込んでいた。

しかし、母が不用意に漏らした愚痴は紗奈の心を深く傷つけて、その後紗奈はことごとく親に反発するようになった。

沙奈が中学に入った頃、一家はやっと落ち着いた。
俊一は女性客の多い宝飾店の営業として水を得た様に働いて落ち着いた。美奈子は医療事務の資格を取ってパートに出ていた。

働き始めてから美奈子は洗練されたと19歳の沙奈は思う。
美しくなったと同時にハッとする程女っぽくなった他人が居るようだった。

紗奈は、愚痴ばかり言っても好きなハンバーグやロールキャベツを作って、沙奈を喜ばせた母を懐かしいと思った。



女が働く事は決して悪い事でなく、男女の仕事の能力の差はないと美奈子は思っている。
沙奈が母の勧める大学でなく、作業療法士の専門学校に入ったのは資格を取りたかったからである。
女を匂わせる職場が嫌だったという事もある。


この仕事なら確実に職にありつける。
頼りない夢見がちな両親が反面教師になって、沙奈はかなり現実的な娘になった。

美奈子は沙奈が自分と同じ様に一流大学に進まないのが不満である。
「大卒と専門学校じゃレベルが違うのよ」
「レベルじゃ実社会に出られないの!」

「お父さんが悪いのね。あんなんだから、娘がお金の事ばかり考える」
美奈子は独り言の様に言った。
沙奈は聞こえない振りをして自分の部屋に行ってしまった。


美奈子は「まあ仕方がないか。子どもは親に反抗するものだしね」とゆっくりと椅子に座り直し、携帯を取り出した。
「娘は娘、私は私だ」
画面を見てニッコリする。
大学時代の友達の佐原からのメッセージが入っている。
彼女は大分前から大学時代の同級生とメールを楽しんでいるのだ。

追記:この背景の時代設定を考えてしまいます。つい自分が紗奈役と勘違いしてしまいますが時代的には美奈子役が自分の時代よりちょっと下の筈です。

読んでいただき心から感謝します。 宜しければポツンと押して下さいませ❣️

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