黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士「未登録者」の意味するもの

2012-12-22 01:00:31 | 弁護士業務
 記事の連投になってしまいますが,弁護士業界にとって重大な情報が入ったところなので,このブログでも言及しておくことにします。

<参照記事>
弁護士の“就職難”が深刻化(NHKNEWSWEB)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121221/k10014340751000.html

 この記事によれば,今月司法研修所を卒業した人(65期)のうち,弁護士として活動するために必要な弁護士会への登録を行わなかった人が,全体の約4分の1にあたるおよそ540人にのぼったということです。前年の未登録者数約400人という数字もかなり問題になりましたが,今年はそれを上回る数となっており,これは過去最悪の数字です。
 日弁連としては,司法試験の合格者数が多すぎるとして現行制度の見直しを求めているということですが,この記事ではもう少し詳しく,弁護士未登録者数の増加が社会にどのような影響を及ぼすのかを考察してみることにします。

1 弁護士の養成過程と登録制度の意義
 弁護士になろうとする者は,まずは司法試験に合格しなければなりません。司法試験は,法曹(弁護士に限らず,裁判官や検察官も含む)として必要な法律学の知識や応用力を試すものであり結構な難関試験ですが,司法試験の内容は法律学の理論的なものが多く,司法試験に合格したからといって直ちに弁護士としての業務が出来るようになるわけではありません。
 そこで,司法試験に合格した者を対象に,法曹としての実務を勉強するための司法修習が毎年行われており,この司法修習を受けて考試(一般に「二回試験」と呼ばれています)に合格した者に限り,法曹(弁護士,裁判官,検察官)の職に就くことが法律上認められています。
 裁判官や検察官への任官の話はここでは省きますが,司法修習を修了したからといって当然に弁護士業務を行うことが認められているわけではなく,全国いずれかの弁護士会に登録をしなければ,弁護士業務を行うことはもちろん,弁護士と名乗ることも法律上は認められていません。
 また,能力的にも司法修習を修了すれば当然に弁護士業務が務まるわけではなく,少なくとも最初の1~2年くらいは,既存の法律事務所などに就職して働きながら弁護士としての実務を学び,それを経てようやく独立開業できる一人前の「弁護士」となれることになります。
 そのため,司法修習を経て弁護士登録をするというのは,実質的には弁護士養成制度の終わりではなく「重要なプロセス」という位置づけになっており,たとえ司法試験に合格しても弁護士登録ができないのであれば,実際には弁護士として活動することは不可能ということになります。
 なお,司法改革以後は,司法試験の受験者に原則として法科大学院の修了が義務づけられましたが,法科大学院で効果的な実務教育を行うことはほぼ不可能である一方,司法修習の期間も1年半から1年に短縮され中身が薄くなってしまったため,弁護士登録をした後のOJTがこれまで以上に重要となっています。

2 弁護士未登録者の急増とその原因
 司法修習生で弁護士になろうとする者は,修習中に弁護士登録申請の手続きを行うのが通常であり,修習中に手続きを行った者は修了後の「一括登録日」にまとめて弁護士登録が行われます。司法改革以前は,裁判官や検察官に任官する者を除き,司法修習を終えながら一括登録日に弁護士登録をしない者はせいぜい数十名程度に過ぎませんでした(その主な理由としては,法曹ではなく研究者を志望する者,あるいは病気などの理由で弁護士登録を見送った者などがいたと言われています)。
 ところが,司法改革で司法試験合格者が急増した61期あたりから,一括登録日に弁護士登録をしない者(未登録者)が急激に増えるようになり,65期の司法修習生が修了した今年の未登録者は,前述のとおり約540人にものぼる事態となってしまいました。その主な原因としては,弁護士登録に必要な入会金や会費が払えないことです。
 東京弁護士会の場合,入会時に入会金3万円,日弁連弁護士名簿登録料3万円,登録免許税6万円の合計12万円が必要であり,さらに月額23,200円(年額278,400円)の年会費(特別会費や日弁連の会費を含む)を支払う必要があります。
 これだけでも十分高いと思うのですが,年会費は登録後の年数に応じてどんどん上がっていき,登録5年目になると月額48,700円(年額584,400円)もかかります。実際はそれ以外にも,公益活動義務やその他の細かい負担があったりするのですが,ここでは省略します。ちなみに,東弁はこれでも安い方であり,会員数が少ない地方の弁護士会では,年間の会費負担が100万円を超えるところもあるほか,会務活動の負担もかなり重くなります。
 司法改革以前は,弁護士自治を守るためある程度の負担は当然と考えられていたこと,また司法修習生のほとんどが既存の法律事務所に就職可能であり,弁護士になればある程度の収入を得られることが前提となっていたことから,このような高額の会費負担もそれほど問題視されることはなかったのですが,司法改革で司法試験の合格者が毎年2,000人台にまで急増すると,司法修習を終えても既存の事務所に就職できない人が急増し,「ノキ弁」「タク弁」「即独」といった言葉が流行するまでになりました。
 それでも,司法修習を終えた時点である程度貯蓄のある人は,既存の事務所に就職できなくても自宅を事務所にするなどして一応弁護士登録をすることは可能なわけですが,法科大学院制度の影響で多額の借金に苦しむ司法修習生が増え,さらに65期から司法修習生に対する給費制の廃止(貸与制の施行)がこれに追い討ちを掛けたため,一括登録日時点で弁護士登録をすることさえもできない修了者がさらに増加したものと考えられます。
 なお,未登録者540人という数字は,実質的に弁護士になれない者が540人というわけではありません。一応弁護士登録をすることはできても,弁護士業務未経験のまま自宅を事務所にしているような人がまともに弁護士業務を行える可能性は極めて低く,既存の法律事務所に就職できなかったため,司法修習修了の時点で事実上弁護士になる道がほとんど閉ざされているという人は,540人よりさらに多いと推測されます。

3 弁護士業界と社会に与える影響
 このように,司法修習を修了しながら一括登録日の時点で弁護士登録できない人は,司法試験に合格しながら実際には弁護士となる道がほとんど閉ざされているということになります。医者の世界では,医師の国家試験に合格し二年間の研修医を経ても医師免許を受けられないという人はほとんどいないと思いますが,弁護士の世界ではそれが現実に起きてしまっているのです。
 司法改革以前では,このようなことはまず起こらなかったのですが,現状では弁護士になるのは司法試験に合格するだけではダメで,司法修習を終えるまでに良い法律事務所に就職できなければ,事実上その時点で弁護士人生の終わりを宣告されたも同然の状況に置かれてしまうわけです。
 もちろん,既存の事務所に就職するには,既存の弁護士の子弟や個人的なツテのある人の方が当然有利ですので,このような傾向がひどくなると,やがては既存弁護士の子弟などでなければ事実上弁護士になれないことになってしまいます。現在の弁護士業界を「ギルド的体質」などと批判する人がいますが,現状のような感じで司法試験の合格者が多すぎる状態が継続していくと,弁護士業界の「ギルド的体質」はますます強化されてしまうことになります。
 日本のサムライ業のうち,海事代理士は試験こそ行われているものの,業界の閉鎖的体質から試験に合格しても独立開業はほとんど不可能と言われており,弁護士業界もそれに近い状況になるかも知れません。また,苦労して司法試験に合格しても弁護士になれない可能性が高いというのであれば,法曹志望者も質量共に激減することになり,
 また,弁護士資格を得ながら経済的事情により弁護士登録のできない人が増えると,弁護士会費が高すぎる,いっそのこと弁護士会は任意加入制にすべきだといった不満がこれまで以上に高まることになり,日弁連や各地の弁護士会は崩壊の危機にさらされることでしょう。

4 二種類の「解決」策
 このような問題の解決策としては,二つ考えられると思います。一つは日弁連の主張しているとおり,司法試験の合格者数を減少させること。日弁連は年間1,500人を主張していますが,司法修習生のほぼ全員が就職できるようにするには,年間1,000人程度が限度であるとも言われており,基本的にはそのあたりまで減員させることが必要になるでしょう。
 もう一つは,弁護士登録できないのは弁護士会の会費負担が高すぎるからであるとして,弁護士会を任意加入制にしてしまうこと。日弁連などは猛反対するでしょうが,弁護士会内部では自治などとっくの昔に崩壊しており,東京や大阪など都市部の派閥に属する弁護士が会務を牛耳っている状態が長く続き,これに対する一般会員の不満がかなり高まっていますので,任意加入化に賛成する弁護士は若手を中心に少なくない数にのぼっていると考えられます(黒猫自身も任意加入化には賛成です)。
 ただし,弁護士会を任意加入団体にしてしまうと,これまで弁護士のボランティア的な負担で支えられてきた司法修習はほとんど実施不可能となってしまうため,司法修習も廃止せざるを得なくなり,結局司法試験に合格すればすぐに,または司法試験合格後一定の実務経験を経てから弁護士となることを認める,といった制度にならざるを得ないことになります。
 要するにアメリカの制度に近い形になるということですが,実際には,単に司法試験に合格しただけでは自ら弁護士業務を行うことなど,日本でもアメリカでもほとんど不可能であり,こういう制度では既存の法律事務所に就職できないと実質弁護士としては何も出来ないため,一種の徒弟制・ギルド制のような法曹養成システムになってしまいます。
 もし,弁護士会を任意加入化してしまえばよいという見解を採る場合には,司法試験合格後の法曹養成システムを抜本的に再構築する必要があります。医師の場合は,医師国家試験に合格した後2年間の研修が必要であり,専門医になるためにはさらに3~4年間大学病院などに勤務して研修を積む必要があるそうですが,それを参考にするような形で新たな法曹養成システムを作ることが必要になってくるでしょう。ただし,法曹界には大学病院に相当するような職場はないので,誰が専門弁護士を育てるのかという問題があるほか,司法試験の合格者が増えるほどシステム構築の費用はかさむので,合格者数を適切な人数に絞るということはやはり必要になるでしょう。 

19 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-12-26 11:58:56
もともとカネある人を相手にする仕事なんであって、貧乏人相手の仕事じゃないんだよね。

そんなにカネ持ちなんていないんだよね。
なのに増やしちゃった。

学者は弁護士の仕事がわかってない。
こいつらコストを一切考えないからね。
ぬくぬくしてるから。
いっぺん、世間の荒波に放り出すべきだよ。
法科大学院がつぶれたら、たくさんの学者が失業するけどなw
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Unknown (Unknown)
2012-12-26 00:24:23
登録なんて、日弁連のお偉いさんにお布施するだけだからね。
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弁護士数 (reisei)
2012-12-25 01:10:44
弁護士の登録者数は4万人以上となると思いますが、その後は抹消者数が増えて4万人前後で推移するのではないでしょうか。弁護士資格保有者は5万人以上になるのでしょうが。但し、そのうち2万人前後はただ食べていけるだけで年金や退職金の準備などできないと思います。
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Unknown (Unknown)
2012-12-24 23:24:14
登録しないと名刺に弁護士と記載できないですから、正確な意味ではインハウス弁護士ではなくなってしまいます。

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解答ありがとうございますU+203C (レオ)
2012-12-24 22:12:32
Unknown様、早急に教えて下さってありがとうございました。疑問に思っていたのですが、胸のつかえがとれました。ご親切に感謝いたします。
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Unknown (65期)
2012-12-24 21:52:48
>レオさん

所属する企業によります。登録をしなくてもいいと企業もあります。
だから今年の未登録者の中には、インハウスになっている人もいます。
もちろん未登録者の全員ではありません。
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Unknown (Unknown)
2012-12-24 17:42:03
東弁副会長先生によれば
未登録は急いで稼ぐ必要のない余裕世代特有の現象だそうですw
http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2012_12/p38.pdf
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質問です (レオ)
2012-12-24 16:46:17
インハウス(企業内弁護士?)の方も登録はしなくてはいけないのでしょうか?
誰かご存じの方がいれば教えて下さい。
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やっぱりななはバカだ (はち)
2012-12-24 09:07:34
http://www.shirahama-lo.jp/blog/2012/09/
ヌルくて一生安泰なのはお前の脳内だけだ。
ぼけwww
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やっぱりヌルい (なな)
2012-12-23 16:17:19
http://www.jurists.co.jp/ja/topics/others_3903.html

新人弁護士入所のニュースのページで、退所した人はリンク切れになります。
自主的に退所した人もいるだろうし、この程度で競争が厳しいのでしょうか?
やっぱりヌルくて一生安泰です。
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Unknown (Unknown)
2012-12-23 15:13:26
その通りだね さん

そういうことでしょうね。
学生は賢い(すくなくともローの学者よりも)ので、
もはやブランド価値のないどころか、マイナスキャリア
でしかないロー→法曹なんか目指しません。
それより、IT企業やら既存の大企業に入ったほうが、
夢がある。
お金になる。福利厚生もしっかりしている。
そして、日本社会は、なぜか、こういう、既得権のある
既存大企業は「既得権益をむさぼって」と言われない
のに、個人の必死の努力で得た資格が「既得権益」
などと言われる。
要するに努力を否定する社会なわけで、このような国
が、韓国や中国に浸食されて消えてなくなるのは時間
の問題でしょうね。
努力しないアホと、自分の力で考える能力のないアホ
ばっかりになることが目に見えてるもん。
アメリカの、対中国重視>対日本軽視というシフトを
見ていてもよくわかります。
自民党政権に戻ったのも、アメリカはびっくりしてるで
しょうね。
原発問題も、あれだけメタメタな目にあってまだ原発
ってアホだろJAPは?と言われてますよ。海外では。
こんど大地震起きたら、今度は助けなくていいよね?
滅びてくれていいよね?と言われています。
ま、当然のことですよね。

日本に、未来はないと思います。






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その通りだね (Unknown)
2012-12-23 14:29:39
たかろうと思ったら、思った以上にスカスカだったんで、「もっと需要を掘り起こせ」と逆切れしているのが大学教授様ですよ。
学生もさ。いまどき、弁護士=ブランドとか思ってないとローに入らないもんね。


あと、大手事務所がぬるいか厳しいかは、自由と正義の後ろの方見て、統計採ってみれば?言い合っても不毛じゃない?俺は面倒くさいからやらないし、結論は知らないけど。
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Unknown (Unknown)
2012-12-23 13:07:09
今の修習生とかロー生って。
情報収集力なさすぎ。
今や、大学事務職員の給料の半分でも、もらえれば御の字っていうからね。
事務職員の目からみれば、アホみたいな教授のくそな授業を受けて、朝から
夜までブタのようにワシワシ勉強(ただし的外れw)して、しんどい目して、
良くて事務職員の半分の給料の半分wしかも年金もなければ退職金もないw
あわれ過ぎて、笑え・・・いや、気の毒過ぎでしょ。

なのに、事務職員にはやったらとエラソーな学生が居るんだよね。
あんたら弁護士様になったら偉くなれるつもりかも知れんけど、現実は
事務職員の半分の給料がいいとこだよ?年金も退職金もないよ?倒れたら
人生終了だよ?三振なんかしたら奨学金債務で即ホームレスか破産へ一直
線だよ?ま、そういうリスク計算もできないから、的外れなことしかやら
ないんだろうけどねぇ・・・と、思ってしまうw

ま、教授様もアホよね。
ロースクールなんぞ、所詮、弁護士というブランドがあってこそメシの種
になるのに、そのブランドを落とすようなことしか言わないからねえ。
所詮、他人のフンドシでメシ食ってるタカリにすぎないことを自覚してないね。

今からでも、合格者減らせ!ローも減らせ!!狭き門にして、弁護士は儲
かるようにすべき!って言った方が、いいような気がするなぁ。
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Unknown (きゅう)
2012-12-23 09:15:06
公務員や財閥系大企業と同様の感覚で一生安泰なんてことはないと思いますよ。
パートナーって企業の取締役とは違いますから。
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おいこらはちよ (なな)
2012-12-22 23:09:42
長島大野とか西村あさひとか,仕事はヌルくてみんば留学いけるしパートナーなれて給料高いからとりあえずみんな安心しきっているぞ。

でたらめほざいてんじゃねえぞwwwww
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おいこらななよ (はち)
2012-12-22 22:36:40
どこの大手事務所だあwww
たいていの渉外事務所は2年~3年で首にしてるだろうがwww
でたらめほざいてんじゃねえぞwwwww
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Unknown (なな)
2012-12-22 21:15:05
そういう一方で、大手事務所は給料高く、留学に行けて、仕事もヌルくて一生安泰というのはどうも納得できません。
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Unknown (Unknown)
2012-12-22 19:17:54
それまで、収入はどうしてるんだろう。登録費すら払えないのなら、大した貯蓄も支援者もいないだろうに。
まともな事務所に就職できてれば、一斉登録の時に登録するよね。フツー。
まあ、法科大学院マンセーの人たちから見れば、

「この数字の評価は間違っている。」
「そもそも法曹有資格者が弁護士になる必要などないのだ。これは、法曹有資格者が社会のいたるところに広がっていることを示しているのであって、法科大学院の理念が実現されていることを示しているのだ。キリ)」

さもなきゃ

「去年の例を見れば、最終的には、ほぼみんな登録はしている。だから就職難など都市伝説だ。キリ)」

登録=事務所に採用されてお給料もらえるってわけじゃないよね。
ほんとは中身が大事なんだけどね。
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Unknown (通りすがり)
2012-12-22 15:47:58
この数字には裏があって、会費節約のため、12月ではなく4月に登録する人も多いそうですよ。
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