黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

司法修習はなぜ必要なの?

2011-10-20 21:21:10 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 民法改正に関する記事の続編を書く予定でしたが,今年の司法試験合格者らしき人が書いている興味深い記事を見つけたので,とりあえずリンクを貼っておきます。
http://megalodon.jp/2011-1003-0017-43/ameblo.jp/thanks-hiro/entry-11025932177.html

 この記事には,司法修習について以下のように書かれています。
「ただ、司法修習に向けて勉強は一切していません。
 どーせ刑事訴訟なんてやらないし、民事訴訟も知財しかやらないだろうし・・・。
 ただで1年も拘束されて、生涯年収を減らされて、司法修習制度はマジで渉外弁護士にとっては懐疑的な制度としか言いようがない。
 結構前から、企業の法務部関係者とかは強く主張しているところですが。
 司法修習中も商事法務とかを読んで、しっかり渉外弁護士としての意識を高めておかないとやばそう。
 ロースクールでは、周りはほとんど同じ道に進む人だったから、同じような意識を持って勉強することができた。
 語学のレベルもかなり高かった。
 何よりも司法試験だけでなく、将来を見据えた姿勢で学習している環境が心地よかった。
 当時は、司法試験の勉強ができなくていらいらしたが、今思えば多分野にわたる視野がもてて本当によかったと思う。
 しかし、これからの司法修習はどうだろう・・・。
 司法修習の合間に就活している修習生、刑事弁護・検察官を志望する修習生、と一緒に勉強会をやって、同じような意識を持って、先端的な議論を展開することができるのだろうか・・・。
 結局一人での勉強なら仕事しながらのほうが得ることが多いのではないか・・・。
 なんだか司法修習に魅力を見出すことができない。
 1年間遊べるとか全然うれしくないし、大して役にも立たないし、本当に無駄な制度だと今のところは思う。」

 まあ,所詮司法試験に合格したばかりで,現実を知らない人たちの発言なので,そう目くじらを立てる必要はないと思いますが,このブログは法科大学院関係の読者も多いと思いますので,このような意見に対する黒猫の見解を一応書いておこうと思います。

1 司法修習前の勉強について
 裁判官や検察官に任官しようとする人は格別,単に弁護士を目指すのであれば,司法試験に合格した後,司法修習に向けて特段の勉強をする必要は特にないと思います。黒猫自身も特にやっていませんでした。
 というか,司法修習の成績は,基本的な法知識と法的思考力,文章力や読解力といったものに左右され,司法修習に向けた小手先の勉強だけで成績を左右できるのは,民事裁判科目の要件事実論くらいしかありませんし,司法修習の成績は裁判官や検察官に任官しようとするのであればその採否等に影響するようですが,弁護士としての就職にはあまり影響しませんので,特別やるべきことはありません。
2 司法修習の魅力について
 黒猫は,従来からの司法修習を無条件に擁護する論者ではありませんので,こういう人たちの意見も一理あるとは思います。
 司法修習は,主要5科目の内3科目が刑事分野であり,実際の弁護士業務等と比較しても刑事分野に偏り過ぎているきらいがあります。また,司法修習では民事及び刑事に関する実務の基本を習得することが目的なので,企業法務の最先端に属するような学習や議論をすることはまずないですし,外国語を使う機会もまずありません。将来の進路が渉外弁護士と決まっているのであれば,司法修習中も修習とは別に,独自の学習を行う必要はあるでしょう。
 ただし,「1年間遊べる」という認識は全くの誤りですね。司法修習が2年間だった頃は,修習もかなりゆったりした内容のものであったようですが,修習期間が1年6箇月に短縮された黒猫の世代では,遊んでいる余裕は特になかったですね。現在の修習期間は1年にまで短縮され,二回試験に落ちる人も結構多い(最近は,二回試験の問題を解きやすいものにするなどの工夫を凝らしているので一時期より若干不合格者は減ったものの,平成22年度も90名の不合格者を出したそうです)。
 渉外弁護士を目指す人でも他の道を目指す人でも,およそ法律の専門家を目指すのであれば,裁判実務の基本も知らないで応用なんか出来るはずもありませんし,将来人に法律を教えることもできないでしょう。もっとも,実務修習期間は従来より大幅に短縮されているので,実際に何も得るところなく修習を終わらせてしまった人も,最近は多いのかも知れませんが・・・。
 また,大手事務所でも不景気に伴いリストラが行われており,そうでなくても中途退職者の非常に多い職場ですので,通常の民事や家事・刑事など,弁護士であれば当然に知っているべきと思われている事項についての勉強すらも怠っていると,おそらく実務に就いてから酷い目に遭うでしょうね。最近は,大手事務所所属の弁護士でも破産管財人や個人再生委員をやっている人が結構いますし,渉外弁護士であれば民事訴訟は知財くらいというのは,どこでそんな誤った認識を植え付けられたのやら・・・。
3 司法修習以外の選択肢について
 現行制度上,司法試験に合格すれば司法修習を経なくても,企業などの法律関係業務に7年以上従事することで弁護士資格を得ることは可能です。上記の記事を書いた人は,さすがに7年は長いと感じたのか,それとも司法修習→大手事務所就職という既存のルートに乗ることがキャリア形成上有利と考えたのか,いかに不平はあっても一応司法修習を受ける道を選んだようですが,今年から司法修習生が無給(貸与制)になることに伴い,今後は本当に司法修習を経ず,仕事で弁護士資格を取ろうとする人も増えてくるだろうと思います(むしろそういう道の方が,従来の法曹像にとらわれない広い視野を持った人材になれるかもしれません)。
 まあ,最近は渉外事務所も訴訟業務を含めていろんな仕事に手を出しているので一概には言えませんが,従来イメージされてきた渉外弁護士の業務(M&Aやファイナンス関係の業務)については,必ずしも弁護士資格が必要なわけではなく実際の業務も経営コンサルタント等と競業関係にあるようなので,本当に渉外弁護士のような仕事がしたいのであれば,そもそも司法の道なんか目指さないで正面から経営コンサルタントを目指した方が,はるかにリスクも少なく安上がりではないかという気もするのですが,未だにこういう道を目指す人の気持ちはよく理解できません(なお,一部誤解している人がいるようですが,黒猫自身はこういう渉外弁護士を目指していたわけではありません)。

2 コメント

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Unknown (よっしー)
2011-12-20 07:57:31
>現行制度上,司法試験に合格すれば司法修習を経なくても,企業などの法律関係業務に7年以上従事することで弁護士資格を得ることは可能です。

次に構造改革が行なわれたら、この期間の短縮が議論されそうですね。そして、ついには修習は裁判官、検察官志望者だけに変更されるという可能性もありますね。アメリカの真似をしてロースクールを作ったのだから、アメリカと同様修習はなくなるのが自然だと思いますよ。
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Unknown (あつひろ)
2012-02-04 15:12:47
>未だにこういう道を目指す人の気持ちはよく理解できません

単に、難易度の高い道を進むことで自己の存在証明をするしか能がない連中なんじゃないでしょうか。頭いいから理三。それの文系版と考えれば納得。
なんか出身高校とか中学まで予想できちゃって嫌ですが。
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