ボツネタ経由で発見した記事。
http://sls.cocolog-nifty.com/buchi/2006/11/post_14d8.html
四国LAW/Buchi研というサイトで、地方在住者は新制度により旧制度より損した面が多い、という意見が述べられているのですが、この人は旧制度の実態を本当に理解して書いているのか、という気がします。
以下、「 」内が記事の引用部分、それ以外が黒猫のコメントです。
「最も大きいのは、ロースクールに通えない人にとって、予備試験を受けるしか、法曹になる道がなくなったこと。(その予備試験がどのような難易度になるかは不明だが、ロースクール修了を受験資格としたことと矛盾しない程度の試験にはなるだろう。)自学自習で予備試験の合格能力を修得できる人など限られるだろうから、むしろ通信制のロースクールを認める方が地方在住者にとって有難いと思う。」
旧試験のもとでは、大学の教養課程まで修了すれば司法試験第二次試験の受験資格を得られたので、一見この指摘は当たっているようにも思われますが、実際に旧試験に合格するには、受験予備校での勉強が事実上ほとんど不可欠であり、しかもほとんどの受験予備校は都内などに集中しているため、受験予備校の無い地方の在住者が上京することなく旧試験に合格することは、事実上かなり困難であったと思われます。
もっとも、司法試験の受験予備校には通信講座やWEB講座などを開講しているところもあるので、それらを利用すればあるいはどこに住んでいても旧試験に合格することは可能だったかもしれませんが、実際の合格者層がほとんど都心の有名大学出身者で占められていたことを考えると、そのような方法で地方在住のまま旧試験に合格した人は、仮にいたとしても極めて少数派でしょう。
その意味では、四国や島根などにもロースクールが出来ている新制度の方がまだましではないかという気がします。ただ、実質的に法科大学院が新試験の受験予備校と化し、実務教育がますます形骸化するような事態になれば、別に通学制にこだわる必要はなくなりますので、むしろ通信教育のロースクールを認めたほうが、地方在住者や勤労者が法曹になる途を開くという意味で有益かもしれませんね。
「また、ロースクールがある地域であっても、おそらく地方のロースクールはどこも教員確保に苦労しているだろう。たとえ教員を確保できたとしても、人の入れ替わりが多い程、一般に経験の蓄積が乏しくなり教育力は低下する。」
まあ、当初の制度構想から考えれば、とてもロースクールなど運営できないだろうと思われるほどの人的資源しかない二流以下の大学が、実際には安易にロースクールを設立できてしまっているという実態がありますので、そのように無理やり作ったロースクールでは、むしろ教員不足になるのが普通でしょうね。それは、ロースクールを作った大学の自己責任で解決してもらうしかない問題だと思います。
「そして、卒業後の新司法試験でも地方在住者は損である。新司法試験は中1日置いて4日の試験であるため、近隣に試験地がない学生は受験のために、前泊を含め5泊6日の試験ツアーを覚悟しなければならない。特別の出費だけでなく、その間、ホテル住まいで体調管理にも気を使わなければならない。新司法試験の試験地は、今年が全国広島と高松を除く高検所在地の6箇所、来年は広島が加わり7箇所しない。」
この人、旧試験の受験地がどうなっているのか知らないのでしょうか。
平成18年度の旧試験の場合、
択一試験(1日間)の受験地は10箇所
[東京都・横浜市],[京都・吹田市],[名古屋市],[金沢市],[岡山市],[福岡市],[宜野湾市],[仙台市],[札幌市],[高松市]
論文試験(2日間)の受験地は7箇所
[東京都],[吹田市],[名古屋市],[岡山市],[福岡市],[仙台市],[札幌市]
そして、口述試験(3日間)の受験地は、なんと千葉県浦安市にある法務省浦安総合センターの1箇所だけです。
なお、平成11年度までは、口述試験の日程は6日間でしたし、論文試験の日程も3日間でした。
新試験の受験地が6~7箇所しかないから地方に不利ということですが、少なくとも旧試験時代よりはどう考えてもましではないかと思います。
「せいぜい一週間の試験ツアーが耐えられないなんて単なる甘えにも聞こえるし、私が受験生ならむしろ、「ホテルであれば雑事に煩わされず試験のことに集中できる」というプラス思考に切り替えるだろう。」
司法修習になれば、司法研修所(埼玉県和光市)の集合研修のため2ヶ月間は研修所のいずみ寮か、その近隣地に居住しなければなりませんし、実務修習地が運悪く出身地と関係ない遠隔地に指定されれば、約10ヶ月間もそこに移住することになりますから、せいぜい1週間の試験ツアーが耐えられないなんて人は、とてもこの先生きていけないでしょうね。
「それはそれとして、今年40人程度の受験生の試験地があったのだから、司法試験委員会において来年は広島だけでなく、熊本、岡山、金沢、新潟あたりを試験地に加える議論をしていただけたのかどうか、是非知りたいところ。高検所在地(残念ながら高松は今回、広島高検高松支部扱いですが)じゃなきゃ体制が組めない?たかが4日の試験にそれはないでしょうに。」
試験地を数箇所増やしたところで受験ツアーを強いられる受験生がいなくなるわけではありませんし、しかも自分でせいぜい1週間の試験ツアーが耐えられないなんて単なる甘えにも聞こえると書いておきながら、わざわざ受験者の少ない受験地を新たにいくつも加えることが、費用対効果の観点から適切であるとどうやって説明するつもりなのでしょうか。試験地を増やすといったって、試験会場や試験官などの人員を確保するだけでも、相当の費用と労力がかかるんです。どう見てもこのような議論には説得力が感じられません。
この記事を書いたのはロースクールの教員ということですが、旧試験がどのようなものであるかも知らないでこのような議論をしているのはいかにも滑稽であり、しかも将来の法曹を養成する立場にありながらこの程度の説得力に欠ける議論しか出来ないというのでは、ロースクール教員の「人材不足」は本当に深刻なんだろうなあと言う他はありません。まあ、どうせブログだからと言うことで、深く考えも調べもせず好き勝手なことを書いているという一面もあるのでしょうが。
http://sls.cocolog-nifty.com/buchi/2006/11/post_14d8.html
四国LAW/Buchi研というサイトで、地方在住者は新制度により旧制度より損した面が多い、という意見が述べられているのですが、この人は旧制度の実態を本当に理解して書いているのか、という気がします。
以下、「 」内が記事の引用部分、それ以外が黒猫のコメントです。
「最も大きいのは、ロースクールに通えない人にとって、予備試験を受けるしか、法曹になる道がなくなったこと。(その予備試験がどのような難易度になるかは不明だが、ロースクール修了を受験資格としたことと矛盾しない程度の試験にはなるだろう。)自学自習で予備試験の合格能力を修得できる人など限られるだろうから、むしろ通信制のロースクールを認める方が地方在住者にとって有難いと思う。」
旧試験のもとでは、大学の教養課程まで修了すれば司法試験第二次試験の受験資格を得られたので、一見この指摘は当たっているようにも思われますが、実際に旧試験に合格するには、受験予備校での勉強が事実上ほとんど不可欠であり、しかもほとんどの受験予備校は都内などに集中しているため、受験予備校の無い地方の在住者が上京することなく旧試験に合格することは、事実上かなり困難であったと思われます。
もっとも、司法試験の受験予備校には通信講座やWEB講座などを開講しているところもあるので、それらを利用すればあるいはどこに住んでいても旧試験に合格することは可能だったかもしれませんが、実際の合格者層がほとんど都心の有名大学出身者で占められていたことを考えると、そのような方法で地方在住のまま旧試験に合格した人は、仮にいたとしても極めて少数派でしょう。
その意味では、四国や島根などにもロースクールが出来ている新制度の方がまだましではないかという気がします。ただ、実質的に法科大学院が新試験の受験予備校と化し、実務教育がますます形骸化するような事態になれば、別に通学制にこだわる必要はなくなりますので、むしろ通信教育のロースクールを認めたほうが、地方在住者や勤労者が法曹になる途を開くという意味で有益かもしれませんね。
「また、ロースクールがある地域であっても、おそらく地方のロースクールはどこも教員確保に苦労しているだろう。たとえ教員を確保できたとしても、人の入れ替わりが多い程、一般に経験の蓄積が乏しくなり教育力は低下する。」
まあ、当初の制度構想から考えれば、とてもロースクールなど運営できないだろうと思われるほどの人的資源しかない二流以下の大学が、実際には安易にロースクールを設立できてしまっているという実態がありますので、そのように無理やり作ったロースクールでは、むしろ教員不足になるのが普通でしょうね。それは、ロースクールを作った大学の自己責任で解決してもらうしかない問題だと思います。
「そして、卒業後の新司法試験でも地方在住者は損である。新司法試験は中1日置いて4日の試験であるため、近隣に試験地がない学生は受験のために、前泊を含め5泊6日の試験ツアーを覚悟しなければならない。特別の出費だけでなく、その間、ホテル住まいで体調管理にも気を使わなければならない。新司法試験の試験地は、今年が全国広島と高松を除く高検所在地の6箇所、来年は広島が加わり7箇所しない。」
この人、旧試験の受験地がどうなっているのか知らないのでしょうか。
平成18年度の旧試験の場合、
択一試験(1日間)の受験地は10箇所
[東京都・横浜市],[京都・吹田市],[名古屋市],[金沢市],[岡山市],[福岡市],[宜野湾市],[仙台市],[札幌市],[高松市]
論文試験(2日間)の受験地は7箇所
[東京都],[吹田市],[名古屋市],[岡山市],[福岡市],[仙台市],[札幌市]
そして、口述試験(3日間)の受験地は、なんと千葉県浦安市にある法務省浦安総合センターの1箇所だけです。
なお、平成11年度までは、口述試験の日程は6日間でしたし、論文試験の日程も3日間でした。
新試験の受験地が6~7箇所しかないから地方に不利ということですが、少なくとも旧試験時代よりはどう考えてもましではないかと思います。
「せいぜい一週間の試験ツアーが耐えられないなんて単なる甘えにも聞こえるし、私が受験生ならむしろ、「ホテルであれば雑事に煩わされず試験のことに集中できる」というプラス思考に切り替えるだろう。」
司法修習になれば、司法研修所(埼玉県和光市)の集合研修のため2ヶ月間は研修所のいずみ寮か、その近隣地に居住しなければなりませんし、実務修習地が運悪く出身地と関係ない遠隔地に指定されれば、約10ヶ月間もそこに移住することになりますから、せいぜい1週間の試験ツアーが耐えられないなんて人は、とてもこの先生きていけないでしょうね。
「それはそれとして、今年40人程度の受験生の試験地があったのだから、司法試験委員会において来年は広島だけでなく、熊本、岡山、金沢、新潟あたりを試験地に加える議論をしていただけたのかどうか、是非知りたいところ。高検所在地(残念ながら高松は今回、広島高検高松支部扱いですが)じゃなきゃ体制が組めない?たかが4日の試験にそれはないでしょうに。」
試験地を数箇所増やしたところで受験ツアーを強いられる受験生がいなくなるわけではありませんし、しかも自分でせいぜい1週間の試験ツアーが耐えられないなんて単なる甘えにも聞こえると書いておきながら、わざわざ受験者の少ない受験地を新たにいくつも加えることが、費用対効果の観点から適切であるとどうやって説明するつもりなのでしょうか。試験地を増やすといったって、試験会場や試験官などの人員を確保するだけでも、相当の費用と労力がかかるんです。どう見てもこのような議論には説得力が感じられません。
この記事を書いたのはロースクールの教員ということですが、旧試験がどのようなものであるかも知らないでこのような議論をしているのはいかにも滑稽であり、しかも将来の法曹を養成する立場にありながらこの程度の説得力に欠ける議論しか出来ないというのでは、ロースクール教員の「人材不足」は本当に深刻なんだろうなあと言う他はありません。まあ、どうせブログだからと言うことで、深く考えも調べもせず好き勝手なことを書いているという一面もあるのでしょうが。