黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院は,質量ともに貧しくなる一方

2013-03-24 19:41:49 | 法科大学院関係
 法曹養成制度検討会議・第9回会議の議事録が公開されていました。
http://www.moj.go.jp/content/000109248.pdf

 議論の内容は,前半が「法曹有資格者の活動領域の拡大について」という話で,後半が「法科大学院の定員,設置数について」という話なのですが,議論の内容は相変わらず錯綜していますので,このブログでどうやって取り上げるか悩んでいるところです。
 ただ,分かりやすい情報として,鎌田委員の「今度の4月に入学してくる人は多分2,800人ぐらいになります」という発言がありました。業界の内部事情に通じた人の情報ですから,この数字は概ね信用していいでしょう。
 法科大学院が発足した平成16年から,法科大学院全体における入学者数と定員数の推移は以下のとおりです。

          入学者数     定員数   
  平成16年  5,767人   5,590人
  平成17年  5,545人   5,825人   
  平成18年  5,784人   5,825人
  平成19年  5,713人   5,825人
  平成20年  5,397人   5,795人
  平成21年  4,844人   5,765人
  平成22年  4,122人   4,909人
  平成23年  3,820人   4,571人
  平成24年  3,150人   4,484人
  平成25年  2,800人(?)

 このとおり,実入学者数の急激な減少に定員削減が追いついていない状況にあります。
 そして,法科大学院別の入学者数については,既に関関同立ロー入試結果まとめ 関西大ローの入学者26人との情報(Schulze BLOG)など,かなり悲惨な情報が乱れ飛んでいますが,外観上実入学者数が減っていない法科大学院でも,人気の低下傾向は否定できない状況にあります。
 以下は,平成24年度の競争倍率が3倍以上だった法科大学院(入学者が定員の50%を下回ったところを除く)について,平成24年度と平成25年度の志願者数をまとめたものです(順番は,競争倍率が高かった順です)。なお,数字は各大学のホームページで確認していますが,正確な人数情報がなく受験番号等から推定したところもあるので,多少の誤りがあるかも知れません。

                  平成24年    平成25年
  首都大学東京(定員52人)     451人    377人(推定)
  一橋大学(定員85人)       593人    514人    
  東京大学(定員240人)      919人    800人
  神戸大学(定員80人)       758人   (未公表)
  京都大学(定員160人)      680人    520人
  北海道大学(定員80人)      341人    251人
  慶應義塾大学(定員230人)  1,412人  1,110人
  千葉大学(定員40人)       286人   (未公表)

 一部未公表のところもありますが,人気校でも志願者数が確実に減少しているのが分かります。
 なお,一橋大学法科大学院では,最終合格者の外部試験成績も公表しているのですが,同大学法科大学院未修者コース最終合格者のTOEIC試験平均点と,合格者最低点は以下のとおりです。

            平均点    最低点
  平成20年度  809.7点  595点  
  平成21年度  825.6点  535点
  平成22年度  792.5点  535点
  平成23年度  815.2点  555点
  平成24年度  784.5点  405点
  平成25年度  776.9点  435点

 TOEICの試験だけで選抜しているわけではないので年度によってばらつきはありますが,全体としてじりじりと質の低下が起きていることは分かります。というか,TOEICが400点台って,他の分野ではあまり英語力の証明にならないような気がするのですが・・・。
 例年司法試験の合格率がトップであり,昨年の競争倍率が5倍を超えている一橋大学の法科大学院でもこんな状態ですから,入試で外国語能力を問題にしている他の法科大学院(東大ローなど)も,おそらく似たような状況なのでしょう。ちなみに,出願に際して外国語能力証明書の提出を義務づけていた慶應義塾大学法科大学院では,2014(平成26)年度入学試験から,外国語能力証明書の提出は任意となりました(TOEICについては,900点以上の人は特に高く評価するそうです)。

 上位校といわれる法科大学院では,国際的視野を持った法曹といったスローガンを掲げ,英語による授業などを売りにしているところが多いですが,実際には不人気のため高い語学力を持った学生が集まらず,掛け声倒れに終わっているところが多いようです。
 JILA (日本組織内弁護士協会)の梅田康宏事務総長(司法修習53期、NHK勤務経験あり)は,法科大学院のプログラムについて「ビジネス交渉と契約書ドラフティングを一連の流れとして行う実習プログラム」や,「現役の企業内弁護士をGSとする授業や講演プログラム」を企業ニーズに即して英語で行うべきだと主張されているそうですが(参照:「企業内弁護士の展望と課題(福岡の弁護士|菅藤浩三のブログ)」),仮にそんなことをしたら,大半の学生が授業に付いて行けない事態になりそうです。たとえそれが東大や一橋の法科大学院であっても。

 なお,法科大学院の経営については,冒頭でも取り上げた早稲田大学総長の鎌田委員が,第9回会議でこのような本音を漏らしています。

「大学経営的観点から申しますと,今の人数でも法科大学院単独で計算すると全く経営的に成り立たない人数でやっているわけで,これをもっと定員を減らすということになると,教員をかなり減らして,特殊な科目は廃止していくとか,授業料を大幅に値上げしていくということをやらないと対応できないようなことにもなりかねないので,ここのところはある程度の規模を持っているがゆえのメリットというふうなこともありますので,そこは調整していただければと思っております。」

 上記の発言は,他の委員から都心の大規模校も定員を減らすべきだという伊藤委員の発言に対する反論としてなされたものですが,早稲田大学法科大学院は,現在の定員数が270人と,中央大学と並んで全国最大規模の法科大学院であり,しかも初年度納付金157万円(うち授業料126万円)とかなり高い学費を取っているところなのですが,その規模でも法科大学院単独では全く経営的に成り立たないというのです。
 早稲田でさえ単独では経営が成り立たないというのであれば,他の中小法科大学院の経営は一体どうなっているのか,想像するだけで恐ろしいことになります。
 不人気で学生が集まらず,法曹の海外進出を志向した高度な授業などは夢のまた夢,おまけにどこも経営は大赤字だけど,撤退したら法学部の人気も下がってしまうということで,いわば大学の経営体力を削りながらの不毛な生存競争が続いている,それが法科大学院の実態なのです。
 既に74校中6校が募集停止を表明しており,これからも経営体力の尽きた法科大学院が徐々に撤退していくでしょうが,こんなことを続けていたら,そのうち大学自体が経営破綻に陥る事態にもなりかねません。法科大学院制度をこのままずるずると続けていくことは,法曹界にとっても大学にとっても,日本の将来にとってもマイナスにしかならないのです。

 もう,いい加減こんな馬鹿なことは止めましょうよ。法科大学院制度はさっさと廃止して,地に足の付いた法曹養成制度を考え直しましょう。日本では,こんな当たり前の議論がなぜ通用しないのですか?

15 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-03-24 19:55:32
私はもう今更なので、このまま法科大学院が大学本体の系家基盤まで崩し、弁護士業界をずたずたにした教授が路頭に迷うまで続けて欲しいと思います。
大学は必ず破綻に追い込まないといけません。
大丈夫です、世の中の人の役に立っているのなら、ロー教授を飢えさせるような真似を国民がするはずありません。
また例え教授を廃業することになっても成仏出来るでしょう。
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Unknown (Unknown)
2013-03-24 20:32:29
ここまで来たらもう行けるところまで行くしかないです。中途半端では責任が不明確になります。
そして、最終的には関係者一同に心から反省していただく。
今回の失敗は絶対に繰り返してはなりません。
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Unknown (Unknown)
2013-03-24 22:41:19
>私はもう今更なので、このまま法科大学院が大学本体の系家基盤まで崩し、弁護士業界をずたずたにした教授が路頭に迷うまで続けて欲しいと思います。

>ここまで来たらもう行けるところまで行くしかないです。中途半端では責任が不明確になります。

同意見です。

弁護士数は、おそらくですが、肌感覚として、新人の供給が完全に止まっても後20年くらいは行けますので、大丈夫です。

新人は2~3年で90%以上が廃業するとか、新人弁護士の破産とか管財事件が年100件発生しマスコミで取り上げられるとか、ロースクール出願者が2000名を切るとか、極端な事態に至っても、「まだまだ需要がある」をあい言葉に叫び続けて邁進し、ロースクール撤退大学が相次いで例え焼け野原になろうとも成仏理論をマントラのように唱え(問題の捉え方がそもそも間違っている。例え、法科大学院がすべて潰れて地上から消滅しても、その功績は人々から感謝される。人々から感謝されれば、人間それで良いのではないか。人々から感謝されることがあれば、大学関係者は喜んで成仏できるではないか。)、司法制度改革が、誰が見ても明らかな形で、華々しく玉砕し、全面降伏に至るまで気合を入れて頑張って貰いたいものです。
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Unknown (Unknown)
2013-03-24 22:44:08
下手にやめてはなりません。大学が資格商法の関所ビジネスに二度と手を出そうなどと思わぬくらい完膚なきまで大失敗したほうがよいです。
そのような観点から見ると、まだまだ手ぬるい。もっともっと悲惨な結果になるまで放置しようではありませんか。
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Unknown (Unknown)
2013-03-24 23:05:59
放置してても毎年その餌食になる学生は右肩下がりで減っていっているのだから問題はあまりないでしょうね

それに、今更ローに入って司法試験に合格できなくとも、それがロースクール被害といえるかも少し疑問ですし。
やはりここの記事に挙がっているような、私大であれば中央早稲田慶應、国公立であれば旧帝国大学及びそれに準ずる合格率を誇るローの既修レベルには入らなければ司法試験に合格することは不可能でしょう。これからは高い合格率を誇る予備試験組も増えてくるでしょうし。

そうなると、米倉教授のおっしゃっていたように「予備試験という魔法の杖1つ」で、いずれはほとんどのローが潰れることになるでしょうね。時間の問題はありますが。特に私大は採算が取れなければ潰れるしか道はないわけですし。
問題は国公立がいつまで税金を食いつぶすのだ、という点ですが・・・おそらくこれも時間の問題でしょう
入学者数が定員の半分未満が何年か続けば廃校、という基準を文部科学省がいずれ作ることになるでしょうし。
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Unknown (Unknown)
2013-03-24 23:59:52
なんか本当に終戦直前のような自暴自棄の心境になってきましたね。けど,完膚なきまでに司法制度全体が焦土と化しても結局誰も責任をとらされることはないのでは。本当に革命を起こさないと東京裁判は起こせないだろうし。結局,「一億総懺悔」みたいにうやむやにされるだけのような気が。
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Unknown (白猫ヤマトの特急便)
2013-03-25 00:35:17
現在、法曹への道を目指されてる方々は司法試験合格後の具体的なビジョンって描けてるんですかね?
私も予備から本試験に合格するプランを練ってはいますが、修習貸与、就職難(というか実質的に今後の新人は就職無理?)で本気で勉強を開始して良いか二の足を踏む毎日です。現在、司法試験の受験勉強をする為の資金を溜め込み中です。
個人的にはこれから弁護士を目指すにあたっては最低でも500万円~ぐらいの元手が有り、尚且つ即独立という形態でなければ目指せないものになってしまってると思います。
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Unknown (Unknown)
2013-03-25 01:42:46
この状態を放置していた場合の最悪のシナリオは英米系事務所が既存の日本の事務所を吸収合併するなどして支配を広げていくことです。もう既にそれは始まっているような気がします。
優秀な日本人が日本の資格を取らずにアメリカのロースクールを卒業し、英米系事務所の東京オフィスで働くというのも少しずつ増えていくでしょう。外国資格の弁護士に対する法的規制もTPPをきっかけに少しずつゆるくなるかもしれませんし。
そうすると日本企業はリーガル部門への支出が増加するのでしょうね。
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Unknown (Unknown)
2013-03-25 05:04:33
以前コメントさせて頂きました広島修道ロー生のものです
私の在籍するローではもう数年以上前からとんでもない状況になっています
法律的素養のない教員が留年という権力の名の下に、優秀な学生達を無理やり押さえ込んでいます
気に入らない優秀な学生を意味もなく五年六年留年させて、廃人にしたり放校にしたりと
有り得ないような事態がまかり通っています
今、現在は学生もそういう実態はわかっているので、殆どの学生が教授達の前で背面服従を決め込んでいる状態です
しかし、背面服従がばれないように取り繕うことに勢力を注いでしまい、
実際に実りある勉強することはできません

こんな制度間違っています・・・

こういう極端に悲惨な状況は広島修道だけであって欲しいとおもいます
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Unknown (芳賀)
2013-03-25 10:24:03
最近は法学部生の間でロースクール受験生のことを「司法特攻」、予備試験受験生を「司法ゲリラ」と
呼んでいるようだ。
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