黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

崩壊直前のローに入学することの危険性

2013-01-20 23:00:04 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 今日は,記事を投稿するつもりはなかったのですが,以下の参照記事について黒猫の見解を述べることにします。

<参照記事>
自ら定評のない法科大学院であることを表明する勇気。(PINE's page)
http://puni.at.webry.info/201301/article_9.html
定評のない法科大学院修了者の司法試験受験資格剥奪を考えている人たち(Schulze BLOG)
http://blog.livedoor.jp/schulze/archives/52000497.html

 両記事では,法曹養成制度検討会議第4回会議における井上委員の発言に言及されており,要するに定評のない法科大学院の修了者について,司法試験の受験資格を剥奪する制度が検討されているというのです。
 現行法では,質の悪い法科大学院に対する法令上の処分は学校教育法13条の学校閉鎖命令,同法15条の改善勧告(改善勧告に従わない場合は変更命令,それにも従わない場合には廃止命令が可能)といったメニューがあるのですが,いずれも法令違反等があった場合にしか適用できません。
 既にご存知のとおり,法科大学院の中には,法令違反とまではいえないとしても,教育体制や教育内容がその求められる水準に達していないと思われるところが相当数あるわけですが,そのような法科大学院に対し監督官庁である文科省が採れる措置は,せいぜい補助金の削減くらいしかないわけです。
 そこで井上委員が考えているのは,法科大学院制度に対する社会的信頼を確保するため,おそらく競争倍率や司法試験の合格実績等に照らし明らかに質に問題があると認められる法科大学院については,法令上の処分として司法試験の受験資格を認めないものとする制度を創設しようということでしょう。井上委員だけでなく,鎌田委員(早稲田大学総長)もこのような制度を設けることは大学の自治に反しないという趣旨の発言をしていますので,政府や法科大学院関係者もこのような制度の導入には前向きの姿勢を見せていると考えてよいでしょう。
 もともと,司法審の意見書では,第三者機関による認証評価で不適合となった法科大学院には司法試験の受験資格を認めないものとする制度が提唱されていたところ,立法段階でなぜかこの制度が採用されず,法科大学院に対する認証評価は単なる形式上のものにとどまっている(授業内容にかなり問題があっても,非常に形式的な基準さえ満たしていれば適合とされる上に,仮に不適合とされても実質的なお咎めは無し)という問題があったので,現状の改善策について井上委員のような意見が出てくること自体は,何ら不自然なことではありません。
 ただし,法令上の処分については遡及適用の問題がありますので,現実的に考えられるのは対象法科大学院に入学している人の受験資格を剥奪するということではなく,処分時以降に対象法科大学院へ入学しても司法試験の受験資格は認めないという制度でしょう。そのような制度であれば,黒猫としては別に反対する理由はありません(PINE先生やSchulze先生はこのような制度にも反対される趣旨のようですが,仮にこのような制度がダメということであれば,法科大学院制度の廃止も学生の期待権を奪うものであり許されないといった結論になりかねません)。
 ただし,このような制度が設けられた場合に,法科大学院入学者が安心して勉強できるかと言われると話は全く別です。例えば,以下のような事例を考えてみましょう。

(事例)
 A法科大学院は,実質競争倍率が2倍を下回っている上に,修了者の司法試験合格率も全国平均を大きく下回っているなどの事情から,平成25年秋の臨時国会で成立した法科大学院の不適格認定制度(仮称)に基づき,同年12月1日,文部科学大臣から法科大学院として不適格である旨の認定を受けた。これにより,平成26年度以降にA法科大学院に入学した者については,同大学院を修了しても司法試験の受験資格は認められないことになった。

 法曹養成制度検討会議は,来年の8月くらいまでに意見をまとめる予定であり,最速では今年秋の臨時国会で関連法律案が可決される可能性もあるわけですから,実際に上記のような処分が今年中に行われる可能性もゼロではありません。
 そして,このような処分を受けたA法科大学院にわざわざ入学しようとする学生はほとんどいないと思われるので,この不適格認定は事実上の廃校命令にほぼ等しい意味を持つわけですが,処分の遡及適用といった問題や,現に在籍する学生への期待権保護といった観点を考慮し,処分当時現にA法科大学院に在籍する者,あるいは同法科大学院を既に修了した者については処分の法的効力が及ばないため,A法科大学院修了者の司法試験受験資格が剥奪されることはなく,またA法科大学院に現に在籍する者については,同大学院を修了すれば司法試験の受験資格は付与されることになります(ただし,実際に合格できるかどうかは別の問題ですが)。
 ただし,このように考えた場合でも,平成25年までにA法科大学院に入学した者について,処分の事実的影響が全く及ばないとまでは言えないでしょう。
 まず,この不適合認定を受けたA法科大学院は,経営者がよほど奇特な人で処分に対する取消訴訟も辞さないというのでない限り,おそらくこれを契機に翌年度以降の学生募集を停止し,法科大学院の廃校を決めることになるでしょう。これまで自主的に廃校を決めた法科大学院は,いずれも新規学生募集は停止するものの,現在籍者については全員修了するまで面倒を見るという姿勢を取っていますが,廃校が決まった法科大学院の教育内容については文科省を含めてほとんど誰も関心を払っていないので,そのような法科大学院で充実した教育を受けられるとは到底思えません。
 ましてや,法令の規定により強制的に取り潰される形となったA法科大学院が,自主的廃校を決めた他の法科大学院のように,在籍者の面倒を最後まで見ようという態度を示すかどうかは分かりません。無責任な経営者であれば在籍者の全員修了を待たずに廃校してしまうかも知れませんし,法科大学院に対する不適格認定の影響が同大学の法学部や他の学部・学科等にまで及び,受験生が激減して大学自体が潰れてしまうかも知れません。また,仮に司法試験を受験でき試験に合格できても,既に廃校が決まったような法科大学院では就職もかなり難しいでしょうし,仮になんとか就職(または即独)できたとしても,肩身は相当狭くなるでしょう。
 さらに言えば,法科大学院制度については既に崖っぷちまで追い詰められた感のある政府当局が,遡及適用の禁止といった法の一般原則を厳守せず,在籍者に対する受験資格の剥奪といった極端な行為に走る可能性もゼロではありませんから,新たな不適格認定制度によって潰される可能性がある法科大学院に入学するのは,非常に危険な賭けであると言うしかありません。
 
 では,上記のような制度によって不適格認定を受けるおそれがない法科大学院は,実際にどれほどあるのでしょうか。全国的に法科大学院への志願者数は激減しており,私立の中では名門校と考えられる中央大学や慶應義塾大学でさえも,今年度入学者の選抜では(一般に文科省が入学者の質を維持する最低ラインと考えている)競争倍率2倍というラインを維持するのがやっとであろうと思われる状況です。
 そして,少しでも志願者数を増やそうと考えているのか,中央大学では既修者の飛び級制度が設けられており,慶應義塾大学でも平成26年度入学生の選抜(つまり今年行われる入試)から同様の制度を設けると表明しています。
 既修者の飛び級制度というのは,大学4年生をパスして法科大学院の既修者コースに入学できるとするものであり,これを利用すれば,最短で法学部3年+法科大学院2年の5年,つまり法学部4年の課程に実質1年プラスするだけで大学院修了プラス司法試験の受験資格が認められることになります。黒猫としては,これ自体かなりの脱法行為ではないかと思いますが,実際には日本を代表するような私立大学がこれほどの出血大サービスをやっても,最低限の競争倍率を維持するのに必要な学生さえなかなか集められない,というのが法科大学院制度の現状なのです。
 それを考えると,不適格認定制度の適用を受けるおそれが当面なさそうだと言えるのは,今でもそれなりの競争倍率を維持している東京大学,京都大学,一橋大学と首都大学東京(国立大学より授業料が安いので人気がある)の4校くらいであり,それ以外は全部危険だと評するのが適切でしょう。

 井上委員や鎌田委員だけでなく,日弁連(法科大学院制度の改善に関する具体的提言)も法科大学院の改善策については法令改正によりその裏付けをもって実施することが必要であると言っています(地方校や夜間校についての猶予措置を設けよという日弁連の主張は,こうした法令による強制措置を執ることが前提になっています)ので,法科大学院推進派の多くは上記のような不適格認定制度を設けることに賛成であり,かつこのような制度を設けることにより法科大学院制度を維持することが可能だと考えているものと推察されます。
 しかし,実際にこのような制度が導入された場合には,不適格の判定基準をめぐっての混乱も予想されるほか,これによって法科大学院制度に対する信用不安が現状よりさらに広がり,多くの法科大学院で志願者数のさらなる激減を招く可能性が高いと考えられます。これによって中央・慶應・早稲田といった一流私立大学までもが法科大学院撤退の検討を余儀なくされ,最終的に法科大学院制度そのものの崩壊につながる可能性も否定できません。
 もちろん,黒猫自身は法科大学院制度など早く潰せという立場ですから,政府当局がこのような制度を作って法科大学院制度を自滅に追い込むことに反対する理由は何もありません。そのため,井上委員の発言については黒猫も去年から知っていましたが特段取り上げるつもりはなく,ただ他の先生が騒いでいるので『黒猫のつぶやき』でも一応取り上げることにした,というに過ぎません。
 ただ,これから法科大学院への入学を考えようとする学生の立場で改めて考えてみると,制度改正により在籍している法科大学院がいきなり取り潰しの憂き目に遭うだけでなく,自らの司法試験受験資格さえも奪われ,不服を言う人に対しては「予備試験を受ければ良いだろう」の一言で片付けられる可能性があるということは,十分アナウンスしておくべきだと思います。

 大学院に入学するかどうかは個人の自由ですから,自分は法科大学院(またはその教授)が大好きだ,だから修了して司法試験の受験資格が得られなくても,それどころか余計に年を重ねて法務博士なんて余計な肩書きが付き,将来の就職が非常に不利になって莫大な借金だけが残るリスクを甘受してでも法科大学院に入りたいんだ,あるいは自ら進んで国家的詐欺の犠牲になり国や大学の財政再建に貢献したいんだなどと主張する人には,もう黒猫も言うことはありません。勝手にしてください。
 ただし,そこまで熱烈な法科大学院の「信者」でない人が,将来法曹になりたい,あるいは他に適当な進路がないから法科大学院への入学を考えているというのであれば,制度改正により法科大学院を修了しても司法試験の受験資格は得られなくなるか,もしくは受験資格そのものが無意味になる可能性が高い,入学者はレモンのように金を絞り取られた挙げ句あっさり国に捨てられる可能性が高いということを十分に考慮の上で,入学の是非を判断して下さい。何も考えずに入学して後から既得権を奪われたなどを騒がれても,黒猫としては「そんなの自己責任だよ」と切り捨てる以外にありませんから。

53 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-01-21 00:06:07
>>不適格認定制度の適用を受けるおそれが当面なさそうだと言えるのは,今でもそれなりの競争倍率を維持している東京大学,京都大学,一橋大学と首都大学東京(国立大学より授業料が安いので人気がある)の4校くらいであり,


はっきりいって,東大・京大・一橋が残るだけで十分。
このあたりが,ガンガン定員を増やせば何も問題は起こらなかった。

東大・京大が定員を削減し,関関同立や甲南が定員を増やしまくったからおかしなことになった。
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学生の期待権について (schulze)
2013-01-21 01:16:49
黒猫先生、お世話になります。
「PINE先生やSchulze先生はこのような制度にも反対される趣旨のようですが,仮にこのような制度がダメということであれば,法科大学院制度の廃止も学生の期待権を奪うものであり許されないといった結論になりかねません」とのご指摘について補足させていただきます。
私は従来から司法試験の受験資格からロー修了要件を外すよう主張していますが、それを「法科大学院制度の廃止」と言うのであれば、ロー修了生が司法試験を受験できなくなるわけではないので、必ずしも期待権に反するものではないと思っています。
受験資格制限を設けつつ、特定のローの修了生のみ受験資格を与えないということ。しかもそれを統廃合を促す手段として用いることに、私は抵抗感を感じています。この問題は学生の司法試験受験への期待権、すなわち「すでに修了した者や在籍中の学生から受験資格を奪うという話ではない。これから入学する者は受験資格が得られないことは分かって入学するのだから問題ない。」という単純な問題ではないと思うのです。私はたしかにブログで「期待権」について書いたのですが、そこで想定している期待権とは、受験の利益という単純な期待の他にも、法務博士の学位の価値・評価への影響も含みます。同じ法務博士の学位でありながら、A大学の法務博士とB大学の法務博士で評価が分かれてしまう。こんなことをロー入学前に予期できるでしょうか。これは、法科大学院が文字どおり廃止されて法務博士の学位が消滅するのとは、意味合いが異なると思うのです。・・・ただし、そうは言っても、定評あるローと底辺ローとで学歴としての評価に差があるのは現実だし、学生だってそんなことは分かって入学しているから別にいいのだという意見もあるかもしれないですね。そうだとしても、それをあからさまに公言してしまっては身も蓋もないじゃないかって、感じてしまうのですよ。それだったら、そんなローは認可取り消す方が先だろうと。それと、こんなことを許したら、きっと恣意的運用が始まるんじゃないでしょうか。そういう懸念も含めて、私は受験資格を盾に統廃合を進めようという発想自体に、何とも言えない気持ち悪さを感じている次第です。
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ローはいらない。 (学部生)
2013-01-21 11:44:23
もうローは東大も京大も潰していいよ。税金の無駄遣い。
東大京大ローは今他大学からの入学者が増えてる。理由は、超一流企業に入れる可能性の高い東大京大の学部生にとって弁護士の魅力が激減したこと、就職の弱い他大学の学生は中小ブラック企業に入るよりはローに行って資格とった方がまだましと判断して入学を目指すから。
一度ロー入試に失敗した東大京大生はほぼ浪人せずに超一流企業に流れてます。そこまでして弁護士に拘る人は減っている。
つまり、東大京大ローさえ自校の学部生に見放されています。
それに東大京大ローの授業の質は酷く、学生からは不満の声しか聞こえない。私は学部生ですが、先輩からは、ローでこんな無駄な2年を費やして年収の低下が続く弁護士を目指すより、一流企業にもし内定取れる確信があったなら企業に行くべきだったという声がよく聞こえてきます。
当方東大京大いずれかの学部生ですが、もちろんローには行きません。
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Unknown (Unknown)
2013-01-21 12:15:08
>一度ロー入試に失敗した東大京大生はほぼ浪人せずに超一流企業に流れてます。

ということは、学部4年時には新卒就職活動(ミンカン)をしないでローを受験してみるけど、ダメだったら、留年して翌年は就職活動のみになるってこと?
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ロー生の敗北 (クマ)
2013-01-21 12:21:45
経済感覚に鋭い学部生はローを避けますね。
弁護士なるまでにかかる授業料、4年間の逸失利益約など合わせて2500万程。これを10年程で返済すると考え、一年で250万返済が必要。また弁護士には福利厚生、住宅補助、退職金がないことを考慮すると一流企業と比較する際は、年収にして200万程差っ引いて考えるべきです。
そして、弁護士になる27歳頃には超一流企業に行った人の年収が600万円程になっていること。これらを全て考慮すると、弁護士は初任給で1000万もらうことは必須で、かつ企業程ではないとしても1000万からさらに少しづつ昇給していかなければ到底超一流企業には及ばないのです。
もうこれは四大などに行き、かつそこでずっと生き残るしかないですが、それは東大京大の学部かつローの人でもほとんどの人は無理です。
しかも不確実情報ですが、一部の四大で初任給1000万を切ったという情報が真実だとすれば、ローに進学することは、資本主義社会という経済力がものをいう社会で超一流企業に行った人間に確実に敗北することを意味するのです。
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Unknown (Unknown)
2013-01-21 13:00:37
一流ローだけ残して司法試験合格者を2000人以上に保ったら、一流ロー卒業の弁護士のほとんどがまともに就職できなくなることを意味します。そうなれば、頭の良い人は一流ローであっても目指さなくなる傾向が進むだけと思いますけどね。
最終的には自分たちの首を絞めてしまうだけだと気づいていないんでしょうね。
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Unknown (Unknown)
2013-01-21 13:34:04
東大京大のエリートが見放すようじゃこの業界も見えてるなあ。
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Unknown (Unknown)
2013-01-21 13:38:24
ロー制度をいじってる学者どもは、多分ア○なんだろうな。
こいつらは、弁護士という職業の魅力という他人のふんどしで飯食おうとしてるのに、その弁護士の仕事から魅力を奪い去ってるから。
ロー自体には何の魅力もないし、なんのためにもならないし、何のキャリアにもならない。法務博士?なにその称号?こんなもん喜んでもらうヤツがいると思ってるの?○カなの?氏ぬの?
学生も、学者には、一応従ってるけど、くだらん授業なんて聞いてないし。なのに学者は一人悦に入って授業をしている。いいよね、補助金もらって学費をもらって競争なく暮らしていける人たちだから。

淘汰されろというならこいつらこそが淘汰されるべきだろ。ローは要らない。
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Unknown (Unknown)
2013-01-21 13:56:18
>クマさん

確かに生涯年収を考えると弁護士は全く割りに合わなくなりましたね。特に、学費と逸失利益、退職金がないことは非常に痛い。
これでは特に将来の生計を考える優秀な男子学生は一流企業に流れるでしょうね。
やりがいだけ考えればいいお花畑な女子学生は別でしょうが。
しかもこれから益々弁護士の平均年収は下がりますし、優秀層の年収ももちろん下がるでしょう。夢がなさ過ぎますね。若手は可哀想です。
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Unknown (学部生)
2013-01-21 14:30:01
>一年留年して就活するということです。まだ弁護士業界に希望があり、かつローの授業が酷いことが十分伝わってない数年前までは一浪してでも弁護士に拘って東大京大のローを再受験する人の割合が今より多かったとか。しっかりしたデータはないですが…
さらにこれは東大京大ローの話からは外れますが、現役時に早稲田、中央など私大のローに練習受験で合格していても、東大京大ローがダメだった場合は私大ローに進学せずに民間に就職する人も東大京大生の中にはいます。これは直接の知り合いです。
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