黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

租税訴訟の行方

2008-09-27 02:31:11 | 弁護士業務
 10月上旬までブログの更新はしない予定でしたが,本の執筆がいまいち軌道に乗らないのと,久しぶりにコメント欄を見てえらく腹が立ったことから,気分転換を兼ねて今回の記事を書くことにしました。
 以前書いた「司法試験の無価値化がもたらすもの」という記事について,一体何が議論されているのかと疑問に思っていたところ,前回の記事のコメントを読む限り,どうやら「単なる学歴自慢」などと評されているようですね。
 上記記事の趣旨を一言で言えば,「司法試験の合格レベルがあまりに低下し,司法試験合格がもはや専門家としての肩書として意味をなさなくなると,法曹界における学歴差別がますますひどくなる可能性が高い,こんな制度設計は間違っているんじゃないか」ということなのですが,どこをどう読み間違えられたのか,一部の読者にはこれと大きく異なる趣旨に受け取られたようです。
 もっとも,黒猫が東大ロー以外の法科大学院を評価していないのも事実で,同じ司法試験の合格率50%台でも,たとえば司法試験の考査委員になった教授に受験指導をさせて問題を起こすほど司法試験の受験指導に熱心な(悪く言えば予備校化している)慶応ローと,司法試験の受験指導は一切行わず,ビジネスロイヤーを念頭に置いた独自の厳しいカリキュラムを学生に課し,しかも「司法試験の受験勉強などする必要はない。大学院のカリキュラムをこなせば司法試験程度は余裕で受かる」などとかなり嘘の多いことを学生に吹き込んでいる(それにもかかわらず合格率50%台をキープしている)東大ローを同一に論じるわけにはいかないでしょう。
 法科大学院は,そもそも予備校教育の弊害とやらを排除する目的で設けられたのに,その法科大学院自身が予備校化するのであれば,法科大学院に存在意義はありません。旧試験時代であれば,予備校で2年間勉強するとしても学費は100万円もかからない程度でしたが,法科大学院に行けば生活費も込みで優に400~500万円くらいはかかると聞いています。
 しかも,予備校通いと異なり仕事との両立はほぼ不可能ですし,途中で嫌になっても勉強を辞めるのは事実上困難です。少なくとも予備校化はしていないらしい東大ローはともかく,それ以外の法科大学院は,まさしく法曹になろうとする人に金と時間の浪費を強いるために存在しているとしか考えられません。
(ただし,黒猫も東大ローの教育方針を決して賛美しているわけではなく,最先端の教育を重視するあまり,重要な基礎教育がおろそかになっているのではないかと疑っています。あくまで,他の予備校化している法科大学院よりはまし,という程度です。)
 実際,法科大学院の適性試験を受ける人は既に年間1万人を割っているそうですが,ただでさえ団塊世代の退職で企業の求人が増加し,学生の資格取得への意欲が薄れている時代に,司法試験の受験資格を得るために多額の学費と2~3年の時間を費やし,合格して何とか弁護士資格を得ても,法曹界は大就職難で得られるものも少ないとなれば,志望者の大幅減少は当然の結果といえるでしょう。
 そんな状況の中で敢えて法科大学院を目指す人というのは,親が弁護士をやっていて跡を継ぎたい,お金なら親がいくらでも出してくれるなどといった恵まれた人か,あるいは社会人生活になじめない(学生の場合は「まだ社会人になりたくない」)ので,弁護士資格を取るという口実で社会人生活から逃避したい人くらいではないでしょうか。
 そんな見るからに使えなさそうな人のうち,半分の約5000人が法科大学院に入学し,そのうち3000人が司法試験に合格して法曹資格を得てしまう。今の法曹界は,時代に合わせて仕事のやり方自体を大きく変える質の転換が求められているのに,今の試験制度はどう考えても,それを可能にする優秀な人材が入ってくるシステムになっているとは思えません。
 よって,今すぐやるべきことは,司法試験の受験要件から法科大学院修了を外すこと。これをやっても,東大ローのように独自の存在意義があるところは生き残るでしょうし,存在意義のない予備校化したところは潰れるでしょう。誰にいくら批判されようが,黒猫のこの主張は決して譲れないところです。

 それと,記事の最後の方でちょこっと触れた,黒猫の後輩が自殺した事件のことですが,思わぬ反響を呼んでいるようなので,一応補足説明をしておきます。
 彼のことは,黒猫も教室や発表会などでたまに見かける程度で,直接話をしたことはありませんでしたが,青山学院大学に入学した後,謎の自殺を遂げてしまいました。何が自殺の原因かははっきりしませんが,彼の両親の話によると,青山学院大学は彼にとって第一志望の大学ではなかったようで,志望大学に入れなかったことが自殺の原因の一つではないかということでした。
 黒猫としては,もちろん彼の自殺に賛同するつもりなど毛頭なく,むしろ青山学院大学なら決して悪い大学ではないし,他の聞いたことないような大学の出身者でも,例えば税理士や社会保険労務士の資格を取って,コンサルティング業務で成功して下手な東大卒よりずっと大儲けしている人もいるし,何も自殺する必要なんかないだろうと思うのですが,日本で年間3万人以上にのぼる自殺者の大半は,冷静に考えれば何も死ぬ必要はないだろうというような,ろくでもない理由で死を選んでいるのが実情であり,今となっては取り返しもつかないことですから仕方ありません。
 年間3万人以上という数字から分かるとおり,今では一般人が自殺しただけではニュースにもならないほど自殺事件は日常化しており,彼のことも黒猫がブログに書かなければ世間にも知られずに終わってしまうかと思い,先の記事でちょこっとだけ触れることにしました。
 その記述の趣旨を読者諸氏がどのように解釈したのかは知りませんが,黒猫としては,あくまで「実力はあるけど家庭の事情や運で一流大学に入れなかった人の希望を奪うような制度設計を国がやっていいのか」という趣旨で書いたつもりです。
 もし,黒猫の該当する記述を,「青山学院大学くらいの大学にしか入れなかった人は自殺するしかない」などという趣旨に読み違えた人がいたら,その人は文章読解能力が明らかに欠落しています。中1あたりから国語の勉強をやり直した方がよいでしょう。

 前置きが長くなりすぎてしまったので,精神異常者云々という話は次回以降に回すことにして,本題に入ります。
 今日(9月26日),日弁連で「弁護士業務に役立つ事業承継と税務訴訟の実務ポイント」という研修会があり,鳥飼総合法律事務所の2人の弁護士が講義をやっていました。第1部の「弁護士が中心となる事業承継プラン」に関する話は後日に回し,今日は第2部・税務訴訟の話についてコメントします。
 「弁護士に役立つ税務訴訟の知識」と題された講義は,そのテーマとは裏腹に鳥飼弁護士の雑談に終始した感があるのですが,税務訴訟業界の実情を知るという意味で,実務上それなりに参考になる話ではありました。実例の1つとして取り上げられたのは巨額贈与事件の一審判決(東京地判平成19年5月23日)と控訴審判決(東京高判平成20年1月23日)です。以下,事案の概要を説明します。
 現行相続税法第1条の3では,相続税の無制限納税義務者として,次の2種類が挙げられています。
一  相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの
二  相続又は遺贈により財産を取得した日本国籍を有する個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの(当該個人又は当該相続若しくは遺贈に係る被相続人(遺贈をした者を含む。以下同じ。)が当該相続又は遺贈に係る相続の開始前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたことがある場合に限る。)
 ところが,以前は上記の2号に該当する規定がなかったため,日本の大金持ちの中には,贈与を受けた年だけ海外に移住して,贈与税の課税逃れを図る行為が横行していました。
 このような状況の中,武富士(有名な事件なので実名を出しても別に構わないでしょう)の後継者であったAは,公認会計士から「政府税制調査会が法改正を検討しているので,今年中に贈与を実行した方がよい」とのアドバイスを受け,平成11年12月27日,贈与税が課税されない香港にサービスアパートメントを借りてそこに出国した上で,両親からオランダの非公開会社持分(課税価格1653億0603万1200円)の贈与を受けました。
 そして,当時の相続税法基本通達によると,日本の国籍を有している者については,たとえ贈与を受けた時点で法施行地を離れている場合でも,国外において勤務その他の人的役務を提供する者で,国外における人的役務の提供が短期間(おおむね1年以内)であると見込まれる者などについては,その者の住所は法施行地にあることとなるのであるから留意する,といった規定があったため,公認会計士は,Aに対し「少なくとも1年以上は香港に居住している必要がある」などとアドバイスし,結局Aは3年半ほど香港に滞在していました。
 もっとも,その間Aが香港にいた日数は全体の約65%であり,1か月に1度は日本に帰国し,全体の4分の1ほどの期間は東京の杉並にある自宅で起居しており,しかもその間,武富士の役員としての職責を果たし,常務取締役,専務取締役と順調に昇進を続けていました。
 その後,平成17年になり,杉並税務署長は,Aに対し,上記贈与の当時日本国内に住所を有していたものにあたるとして,納付すべき贈与税額を1157億0290万1700円,無申告加算税を173億5543万5000円とする賦課決定処分を行い,Aはこれを不服として課税処分の取消訴訟を提起しました。
 事案の流れからして,主要な争点は本件贈与当時,Aの住所が日本国内にあったかどうかの一点に尽きるわけですが,第一審ではAが勝訴,控訴審ではAが逆転敗訴という,正反対の判決がなされました(事件は現在最高裁に係属中)。
 判断の分かれ目になったのは事実認定のところで,第一審ではAの香港における滞在期間の長さを重視して香港を住所と認定しましたが,控訴審ではより詳細な事実関係を認定して,杉並の自宅を住所と認定しています。
 鳥飼弁護士は,租税法律主義は納税者の予測可能性を重視するものであり,タックスプランニングによる租税回避は認めるべきものとしつつ,タックスプランニングに必要な要素は①税法及び通達,②税務実務,③契約法,④証拠法の4つであり,Aの行ったタックスプランニングは,公認会計士のアドバイスによるものであり③と④の検討が欠けていたと結論付けていました。

 Aの訴訟代理人として控訴審の判決文に書かれているのは,あの有名な升永英俊弁護士と,その下で最近若手ナンバーワンなどと呼ばれている荒井裕樹弁護士(ほか復代理人1名)ですが,少なくとも判決文を読む限り,それほど高度なことをやっているようには見えないですね。Aさんは大金持ちの上に,巨額の損失がかかっているということで一流の訴訟弁護士に依頼したのでしょうが,こういった事件では大して腕の振るいようがなかったのではないかと思います。
 しかも,事件の解説をしている鳥飼弁護士は,税務訴訟では日本でも十指に入るほどの高名な先生らしいのですが,この事件について語っているとき,現行法の内容に関する言及が全くなく,この判例が今後の実務にも影響するかのようなことを言っていたので,黒猫としては,ひょっとしてこの問題について現行法がどうなっているか把握してないんじゃないかという印象を受けました。
 鳥飼弁護士自身も,自分は税法について詳しいわけじゃないと語っていましたので,要するに現在の租税訴訟は,やる気があれば税法に詳しくなくてもやれるということみたいですね。
 もっとも,鳥飼弁護士のいう「タックスプランニング」(黒猫はFPなので,この用語をあたかも租税回避策のように使われるのは違和感があるのですが)には,弁護士と税理士の協働が必要であり,前記①から④までのすべてを満たした「タックスプランニング」を行える人は,日本にはまだほとんどいないということでした。
 事後的な訴訟であれば,関連する税法の規定などは事件処理中に順次把握していく方法でも間に合いますし,事件後に法改正が行われたかどうかも関係ないわけですが,弁護士が租税回避策を立案するという場合には,現行税法や実務のほか,将来における法改正の動向も踏まえて行う必要があります。新司法試験では選択科目に租税法という科目がありますが,これを取ったというだけでは不十分で,おそらく公認会計士とのダブル取得者くらいでないと難しいでしょうね。
 税理士は国税庁の監督下にあり,否認のおそれがあるぎりぎりの租税回避策はそもそもやらないのが普通ですし,公認会計士は契約法や証拠法に関しては基本的に素人と考えてよく,そもそも弁護士との協働の必要性すら認識していないように思えます。
 もっとも,このAさんの事件を考えてみるに,このようにぎりぎりの租税回避策を実行せず,きちんと相続税のうち払うべきものは払うという方針でタックスプランニングを行っていれば,支払うべき税額はもっと少なくて済んだはずです。
 一般的に相続税より贈与税の方が金額が高いですし,その後相続税法の改正で最高税率も70%から50%に下がっていますから,このまま最高裁でAさんの敗訴が確定した場合には,下手なタックスプランニングで逆に大損をしたということになります。その場合,アドバイスをした公認会計士に法的責任は認められるのでしょうか?
 Aさんが最高裁で負けた場合,公認会計士への責任追及をするのかどうかは分かりませんが,仮にやったら面白いでしょうね。その訴訟の勝敗に関係なく,タックスプランニングに弁護士を加える必要性は強く認識されるかもしれません。
 ちなみに,アメリカの内部統制システムには,租税対策も含まれているらしいのですが,日本の内部統制システムに租税対策が含まれていないのは,鳥飼弁護士の見解によると,日本ではそのようなことをやれる人が,社内にも社外にもほとんどいないからだそうです。
 欧米では,そもそも税理士という資格がなく,税金の申告業務は弁護士がやっているということなのですが,日本では税理士の存在によって法律と税務との間に高い垣根があるため,このようにお粗末な事態が発生しているのです。
 そして,実は税法の知識があまり必要でない租税訴訟すらも,大きなものはごく少数の弁護士に独占されている状態で,必ずしも一般的な業務にはなっていません(もっとも,国を相手にする訴訟なので,勝訴率も決して高くなく,割の良い業務かどうかは議論の余地がありますが)。
 租税訴訟は,最近弁護士会の研修などでも頻繁に登場しており,弁護士業務の中では先端分野といってよいでしょうが,そういう先端分野で実務をリードしているのは弁護士の中でもごく少数派であり,ほかの圧倒的多数はマーケティングの段階でつまずいているか,現状維持で満足しているような感じですから,いきなり新人弁護士の数だけ大量に増やされても,これを既存の法律事務所で受け入れられるわけがありません。
 今の人数でも,比較的簡単にできる債務整理事件などについては競争が激しくなっており,今の弁護士業界に必要なのは単純な人数増加ではなく,専門性の向上に向けた組織的な取り組みでしょう。租税訴訟一つをとっても,たとえば国か弁護士会で税務の専門認定制度を作れば,それだけでも状況は大きく改善されると思うのですが。

85 コメント

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自分に不利な奴ほど (通りすがり)
2008-09-27 07:28:42
言い訳が長い。
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Unknown (Unknown)
2008-09-27 08:52:35
このブログを読んで心を痛めた彼の知人たちに対して「文章読解能力がない。中1あたりから国語の勉強をやり直せ」などと暴言を吐く神経は正常ではないと思いますね。
ちゃんと謝罪した方がいいんじゃないですか。
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Unknown (逆ギレwwwwwwwwww)
2008-09-27 09:01:47
自分の表現が適切だったかどうかを見直した方がいいと思いますね。
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Unknown ()
2008-09-27 10:01:38
久しぶりに役に立った記事だったw
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Unknown (一弁護士)
2008-09-27 10:56:08
私は、黒猫さんは非常に優れていると思います。東大卒を鼻にかけているわけでもなく(東大卒は年間3000人います、30年で9万人にもなります。掃いて捨てるほどです)、法科大学院をはじめとする法曹養成制度のひどさの分析も的を射ていると思います。ややオタクっぽい感じはしますが、それだけ鋭い分析能力を持っているとも言えます。多くの方のコメントは僻み、やっかみなどに発する反発でしょう。もっと黒猫さんの議論の中身をみましょう。余計なことですが。
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確かに嫌なコメントも… (基本傍観者)
2008-09-27 11:06:25
多々ありましたが。
そして、私のコメントもそうなるのかもしれませんが・・・

文章読解能力が明らかに欠落?

自己分析能力が低い人は、なぜ自分が批判されるのか分からず、他者批判ばかりしますがその口ですか。
 
それともかまってチャンの釣りですか。

いずれにしても、腹の立つコメントが帰って来るのが嫌なら、文章には気をつけないと、文章表現の能力が明らかに劣っていると言われてしまうのでは?

とりあえず、マナー本や自己啓発本でも読みあさってみてはいかがでしょうか。

まともな内容の記事もあるのに、もったいないと思います。
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Unknown (Unknown)
2008-09-27 12:21:38
負け筋事件の準備書面はグダグダと長い。

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Unknown (アハハ)
2008-09-27 12:23:01
言い訳ばっかりだなw
情けないw
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伝聞証拠大好き黒猫 (Unknown)
2008-09-27 13:35:12
慶應ローの実態を一度その目で確認されてから寝言をのたまってください。


しかしこれほど見苦しい言い訳も中々無い。一言「俺は東大以外は認めない」と書いたほうが遥にましだよ黒さんよ。
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Unknown (Unknown)
2008-09-27 15:53:39
先日は、黒猫先生のことだから何か理由があるはずだと、
擁護のコメントを書かせていただいた者ですが、
批判されている方々のほうが概ね正しかったようです。

精神病については、それが病気であるという前提で、
差別的な感情を持たないように常々心がけているつもりです。
病を憎んで、人を憎まず、と。

しかし、こういう人を見ると、自分は正しいと思いこみ周囲の評価を受け入れられないから、
非現実の世界に逃げ込むような精神構造になってしまっただけではと、勘繰りたくもなります。
まぁ、ご自分で病気ではないと仰っているようなので、単なる性格なのかもしれませんが。
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