「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」
ナンシー・フレイザー著 -ちくま新書
第3章 ケアの大喰らい ― なぜ社会的再生産性は資本主義の危機の主戦場なのか
今日の社会的再生産の危機に関し、フレイザー氏は、その原因は社会秩序にあり資本主義
社会そのものが腐敗していることを論点としている。資本主義社会では、社会的再生産に対
する労働は生産的労働を生み出すが、その労働は非生産的とみなされる事を指摘する。
しかし、この労働は資本主義の経済的生産にとって必須の前提条件なのである。産業革命以
降、資本主義社会は社会的再生産の労働を経済的生産の労働から切り離し、そして資本主義
社会は女性が従属する現代の新たなかたちの制度基盤をつくった事にも言及している。
16世紀から18世紀の重商主義体制、19世紀のリベラルな植民地主義体制、20世紀中
期の国家管理型資本主義体制、そして現在の金融資本主義体制。この4つの体制は、前章で
考察した「人種差別に基づく蓄積」の4つの体制とも合致する「社会的再生産に依存する経
済的生産」の4つの体制である。
1980年代に入ると現在の金融資本主義体制が形成され始める。グローバル化と新自由主義
の時代である。この体制は、国家及び企業に社会福祉の削減をもたらすことになる。その結
果、社会的再生産の二重構造が生まれる。社会的再生産を支払える者と支払えない者との格
差が生まれた。金融資本主義体制の決定的な特徴である、債務をもって金融機関が国家を制
する仕組みが出来たことをフレイザー氏は指摘する。(第5章で詳細説明) 金融機関に国
家と国民に市場規律に従う権限を与えることになったのである。これは個人投資家の利益を
守ることなのである。社会の保護は徐々に損なわれて行く。
「社会的再生産に依存する経済的生産」の4つの体制に於いて、資本主義社会のジェンダー
秩序は議論の対象であり、市場化、社会的再生産、解放という三つの運動の中で、「切り離
された領域」「家族賃金」「共稼ぎモデル」へと変化を推し進めて来た。この後の状況は、
生産と再生産との分離をどのように作り直すのか、そして「共稼ぎモデル」の次世代モデル
を模索することになる。この章の課題である「社会的再生産の危機」(ケアの危機)の根源
には社会的矛盾がある。現在の社会的生産が主導で、社会的再生産が下に位置付けられる構
造への克服が求められる。自然を食い尽さずに社会的再生産を育む新たな社会秩序を描くか
が、次章の テーマとしている。