半世紀以上も前の出来事。高2の夏、学校登山で戸隠山に登った。
男女共学になってまだ3年しかたっていない我が高校は、2年生300名のうち女子生徒は25名しかいなかった。
私は級友たちが『マドンナ』と呼んでいた6組の紀子に淡い恋心を抱いていたが、当時は異性と話したりすることは御法度だった。
戸隠山の「蟻の戸渡り」を渡り切って、山頂近くの岩場を4~5名ずつのパーテイで鎖を頼りに上っていた。
女子のパーテイの最後尾に紀子がいた。紀子は、岩場の下にいるいる私の20メートルほど上をのろのろと登っていた。私は思い切って声を掛けた。
「お~い、早く登れよ~!」
心とは真逆の乱暴な口調になってしまった。
「ゆ~君こそ、ぐずぐず言ってないで早くおいでよ~!・・・確かに紀子の声だった。
嬉しかった。僕の名前を知っていてくれたことと、声を掛けてくれたことと。それに・・・あの甲高い声。
ただそれだけだった。そんな時代だった。
・・・そして、次に彼女と言葉を交わしたのは30年後の同期会だった。
男女共学になってまだ3年しかたっていない我が高校は、2年生300名のうち女子生徒は25名しかいなかった。
私は級友たちが『マドンナ』と呼んでいた6組の紀子に淡い恋心を抱いていたが、当時は異性と話したりすることは御法度だった。
戸隠山の「蟻の戸渡り」を渡り切って、山頂近くの岩場を4~5名ずつのパーテイで鎖を頼りに上っていた。
女子のパーテイの最後尾に紀子がいた。紀子は、岩場の下にいるいる私の20メートルほど上をのろのろと登っていた。私は思い切って声を掛けた。
「お~い、早く登れよ~!」
心とは真逆の乱暴な口調になってしまった。
「ゆ~君こそ、ぐずぐず言ってないで早くおいでよ~!・・・確かに紀子の声だった。
嬉しかった。僕の名前を知っていてくれたことと、声を掛けてくれたことと。それに・・・あの甲高い声。
ただそれだけだった。そんな時代だった。
・・・そして、次に彼女と言葉を交わしたのは30年後の同期会だった。