Wind Letter

移りゆく季節の花の姿を
私の思いを
言葉でつづりお届けします。
そっとあなたの心に添えてください。

麦秋の祈り

2016-06-25 16:17:39 | ~詩でつづる私の七二候~

~シリーズ~
(詩でつづる私の72候 小満)

 麦秋の祈り            高安ミツ子                 
              

 四十雀(シジュウカラ)が

 初夏の匂いをついばむようにさえずっています

 空に並ぶうろこ雲をみあげていると

 黄金色に色付いた麦秋が目に浮かび

 麦畑を元気に走り回っていた

 幼い頃の弟が蘇ります


 思い出の弟の麦畑に

 黒いカラスが舞い下りたのはいつからなのか

 弟は生きる悲鳴は忍ばせたまま 

 身を削りながら都会のカラスと戦ってきたのでしょうか


 麦秋の明るさからは遠のいた今

 病を背負った弟は樹下の暗がりを歩いています

 弱気をはかない弟に

 姉さんはかける言葉が見つかりません


 あのとき姉さんを力づけてくれた弟よ

 最期まで慈しんで母さんを見送ってくれた弟よ

 あなたが実らせたいくつものやさしい果実を

 いっぱい いっぱい集めて

 あなたの心に届く薬を姉さんは作りたいのです


 故郷の懐かしさが

 生きる力になってくれるのなら

 姉さんは精いっぱい

 故郷の料理をたくさん作りましょう


 けれどあなたの哀しみを

 塗り替えられないもどかしさが

 麦の穂波がかすむほど

 姉さんの眼を濡らしています


 四十雀の鳴き声は

 山を恋うる弟の声をからめて

 紫陽花を少し色づかせ

 梅雨の前触れを知らせています


 姉さんは麦秋の季節に

 あなたの明日のページを今日も祈っています



★★★★★★★ Mitsuko's Room ★★★★★★★

  一年を七十二候に分けた暦を踏まえ私は身の回りの風景、
 風や花や人や時代を私の七十二候の詩として書き始めました。
 すると、周りの目に映るもの、耳に聞こえるもの、心に
 届くものが新鮮に迫ってきます。
 鶯のさえずりホトトギスのさえずりがいとおしく感じられます。
 日常に立ち止まれる時間の素晴らしさを感じます。
 鶯に子供を育てさせるというホトトギスが今鳴いています。
 子供を育てる遺伝子がホトトギスにはないのであろうか。
 育児放棄して鳴くホトトギスに、哀れみを感じてしまうのは
 私の感情移入のし過ぎなのかもしれません。

  わが家の紫陽花は今年は色鮮やかに咲き家じゅうに
 紫陽花を飾りました。紫陽花は日本が原生で八仙花とも呼ばれ
 ます。万葉集にも出てくる花だそうです。
 今はいろんな種類がありますが夫はホンアジサイと呼ばれる
 日本でもっとも古くから原生している品種で、花が毬状
 に咲く青紫のものが一番素晴らしいと賛辞を送っています。
 夫の横には老犬「こむぎ」が分かったような顔で紫陽花を
 眺めています。
                      (2016.6.21.)

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