高安ミツ子
朝もやは山を遠くにみせています
夏の終わりを知らせているのでしょうか
葛(くず)が人の心を呑みこむように
空き家に絡まっています
この町も多くの時が流れ
消えゆくもの生まれ来るものを
時代のペンキはテカテカ光らせ
人々の噂は忍び足で夏の終わりを歩いています
見やると
秘めやかに露草が咲いています
目立たない風景で
現実を縁どるように露草は咲いて
人々のため息や緩やかな感情とともに
やがて空気となり
見えない歴史となって町を包んでいくのでしょうか
昼になるとしおれてしまう露草に
モンシロチョウが
命の確かさを舞っています
生命の愛おしさがこみあげてきます
今日の露草は遠い思い出をも引き寄せて
静かに生きる道しるべのように
私という一枚の絵を染めていきます
ふと
今宵 分厚い思い出をくすぐりながら
1枚の絵をなぞるように
夜想曲が聞きたくなりました
見上げると雲の動きが変り
夏の終わりを知らせています
秋雨前線が近づいているようです