Wind Letter

移りゆく季節の花の姿を
私の思いを
言葉でつづりお届けします。
そっとあなたの心に添えてください。

私の七十二候

2018-09-24 15:02:45 | ~詩でつづる私の七二候~

               

                        

                                                     高安ミツ子


         

                       

                 

 


                                      今年の猛暑を拭うように

                                      不意に秋を知らせて彼岸花が咲きだしました

                                      飛沫のような花びらが私の心を絡めてゆきます


                                      幼い頃彼岸参りをした墓地の周りには

                                      死者を照らすかがり火ように

                                      彼岸花は朱色で咲いていました

                                      葉なしで咲く彼岸花の激しさが怖くて

                                      黙って通りすぎようとしたとき

                                      母の微かなため息を聞いたような気がしました

                                      そのため息は私の知らない母でした


                                      母のアルバムには

                                      海軍服を着た男性の写真が1枚ありました

                                      母と結婚を約束した人だと知りました

                                      男性が戦死したという間違った知らせの先に

                                      私が生まれたと思うと

                                      子供心に私がいることの不安があって

                                      写真がいまだに残されていることから

                                      母の心のかけらを見た思いになり

                                      こちらを向いてない母へのジェラシーが湧きました


                                      彼岸花は母の恋心の証だったのでしょうか


                                      私もいくつもの角を曲がって

                                      今まで生きてきたように思えます

                                      ふと 我が家の庭に咲く彼岸花をみていると

                                      恋心を呑みこんだ母の

                                      哀しい微笑みを見るように思え

                                      私の記憶の波はたゆたっています


                                      けれど

                                      秋の陽ざしは日常のかけらを拾うように

                                      庭のあちこちに腰をおろしています

                                      私の心はまあるくなって

                                      母の心情を空の高さで測れる 時が流れています

                                      足元にはあの時と同じ彼岸花が秋風に揺れています 


                                      深まりゆく秋の気配

                                      十五夜が近づいています

 

                               

 

                                           

                                 あの夏の暑さはどこに行ったのだろうかと思えるほど
                                秋の気配が感じられます。
                                今日は十五夜です。仲秋の名月、芋名月ともいうそうです。

                                我が家の周辺も住宅地になりススキが見られなくなりました。
                                そのため数年前に庭に植えたススキが今年も十五夜を迎える
                                役割を担ってくれます。ススキ、ホトトギス、白萩、
                                萩(赤)藤袴(ふじばかま)、秋海棠(しゅうかいどう)
                                そしてアゲラタムを庭から採って花瓶にいけ横になって
                                いる夫の部屋に飾りました。夫が坐骨神経痛の激痛で苦し
                                んでいます。その痛さがとれることを十五夜に祈りたいと
                                思います。今晩十五夜が見られますように。
                       
                                             (2018.9.24)

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私の72候

2018-09-08 21:13:29 | ~詩でつづる私の七二候~

                                

 

                                    (すいちょうか)          高安ミツ子


 

 

                     

 

                          

     

 

                           夏空の綿雲やイワシ雲が見えなくなる頃

                           酔蝶花は夕闇から夕闇へと

                           手を広げるように咲いています

 

                           酔蝶花は深い闇の伝説を語るように

                           どこからか吹いてくる風のそよぎに

                           微かな香りを混じらせていきます

 

                           すると大分過ぎてしまった時計がまわりだし

                           消えていた私の悲しさや 淋しさの匂いが

                           酔蝶花の傍らに漂い始め

                           あの時の後ろ姿がひとしお蘇ってきます

 

                           故郷を離れた夜の深い哀しみ

                           行き先の不安を感じるような

                           全山を包む漆黒の中

                           無情なほど進むことを拒んだ山霧

                           あの時の峠が迫ってきました

 

                           夜はひっそりと心の波紋を広げていきます

                           今宵の月明かりは

                           ひらりと昼間を飛び越えて

                           ひらりと過去を押しやって

                           夜は静かにたゆたゆと流れています

                           酔蝶花の蜜を吸うように

                           虫たちが飛びかい命をつないでいます

 

                          いくつもの思いを背負った私の心歌は

                          命をつなぐことはできたのでしょうか

                          私の眼の奥で

                          揺れている私の道すがらを

                          酔蝶花は夜のやさしさで包んでいます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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