Wind Letter

移りゆく季節の花の姿を
私の思いを
言葉でつづりお届けします。
そっとあなたの心に添えてください。

紫陽花の坂道

2013-08-07 10:18:07 | 花物語

   

 

            紫陽花の坂道          高安ミツ子

 

  夕暮れの浜辺のような切なさを残し 

  あなたは黙って逝ってしまいました

  『私は緑がないところでは生きられないの』

  病弱だったあなたの言葉が蘇っても

  季節の区切りができない私は
 
  いまだにあなたへ別れの言葉は言えないのです


  雨が少ない梅雨の季節を

  紫陽花が

  日差しに絡まれて咲いています

  あなたが呑み込んでいた哀音が

  坂道に咲く紫陽花の花影から聞こえます


  あなたの面影は

  紫陽花の小さな炎の集まり

  てまり花の青に染まっていき

  あなたの声が

  今日はひどく遠くに感じられます


  見あげると坂道の曲がり角は

  あなたと私の別れの境界線になって

  越せない距離を紫陽花が描いているようです


  ひとつの風が涼やかに吹いてきました

  あなたが背負っていた

  重い荷物を下ろすように

  紫陽花の群生をゆすり

  私の心をもゆすっていきます


  ぽつぽつ降り出した雨に

  私の中のあなたを濡らさぬように

  紫陽花の咲く坂道を歩き始めました

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