高安ミツ子
冬空を鮮やかに彩っていた 皇帝ダリアが一晩の内に 霜枯れてしまった朝 義母は静かにみまかりました 冬が南天の赤い実に寒さを結んでいくように 沢山の思い出を私に結んだまま 義母は永久の眠りにつきました 最後は自分が誰であるかも 生きている風景も見えなくなってしまった 義母の寂しさを思うと まだ暖かさが残る義母を 何かで包んであげたいと思っても 私は自分の顔を重ねて泣くことしかできませんでした あなたと最も近しい距離にいられたはずの時間は 別れの深さを伝えていました 夫と二人で見送った朝 義母から託された約束の ナデシコの浴衣を義母に着せました そして お化粧をすると昔の義母の面影が蘇り 義母は安らかな顔になりました ここ数年 義母をつなぎ止める言葉が見つからず 波がひいていくように私たちから遠のいていきました それは誰かが大きなヤツデの葉を振り払って 義母の記憶を消していくようにも思える重い日々でした 施設を訪れるたびに夫は 遠のいていく義母への思いを 千羽の鶴に折り込んでいきました そして今日の折り鶴は 「苦しむことなく飛び立てるように飛翔している鶴を」 と夫は申します 二人とも黙って別れの気持ちを折りました 今 帰宅した義母を迎える我が家の庭は 冬枯れで淋しいけれど 義母の好きだった カマツカが赤い実を残しています 見上げると澄んだ冬空を風花が舞っています 義母との三十四年間響き合った時間から もう、はぐれてしまった寂しさが私を濡らしていきます 風花は静かに眠る義母をいとおしむように 冬空を舞っています |