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『日本語のはじめ』 第一篇・第二篇 東亞學校 (1936.7)

2020年10月10日 | 清国・民国留日学生 1 教育、松本亀次郎

       

 

 日本語のはじめ 第一篇
   東亞學校

  第一篇の教授に關して

一、第一篇では發音と假名とを教へるのであるが、すべて直觀教授から導くといふ立場にあるので、最初から各課を通じて、その本旨を失はない樣にしたい。
一、卷頭の諸圖は教授上の参考までに掲げてあるので、はじめからこれを順次に説明してかゝる意味ではないのである。
一、本篇は二十課になつてゐるが、時に、既習の箇處の總練習などもすべきであるから、二十五六時間を要するものと考へる。最初において練習をおろそかにしない習慣をつけておきたいと思ふ。
一、まづ發音を教へて後にその文字を授けるのを大體の順序とし、あまり教科書に囚はれない樣にして教へたい。
一、【直】とあるのは文字によらない直觀的教授で、これが掲げてない課でも、連絡を取つて、常に反覆練習すべきものと考へて貰ひたい。
一、本篇で教授上最も苦しい點は、新しい語が可なりに多く出て來ることである。これは發音練習をおもの目的として選んだものであるから、一々の單語をおぼえようといふ方面には、あまり力を用ひさせないでおきたいと思ふ。
一、濁音・拗音・促音等の名目は、暫く舊慣に從っておく。その扱ひ方や音聲學上の基準のことについては、これを別冊「ことわりがき」に讓る。
一、各課について注意を要する事項を次に少々記しておく。括弧内にある數字は課を示したのである。
  〔一〕 ●留學生の發音は槪して長短音が明瞭でない。「メ」を「メー」「ネ」を「ネー」、「セカイ」を「セーカイ」と發音するがごときである。
 これははじめから注意を要することと思ふ。
     ●マ行の發音を教へる時、鼻音教授の基を作っておく。
     ●「アマ」「イマ」「ウマ」「エマ」等の類は、發音を練習して日本語の口調になれさせるために、その一斑を示してあるものと見られたい。
     ●【直】の中で「林 サン」とあるごとく、學生の名を毎時五名七名づつ記憶して行きたい。又、「ソレハミミデス」とあるごとき名詞は、手近のものから便宜に授けて行かふといふ一例である。
  〔二〕 〔一〕と共に、子音に混雜を來してゐないものを先づ授けるのである。
  〔三〕 此の課は子音に混雜を來してゐるものであるからその氣持ちを以て教へたい。  
         例 〔省略〕
  〔四〕 まづ五十音圖に就て縱横に讀みならはせ、殊に、キチシ・ムヌルなど紛れ易いものには、相當の注意を以て練習させておきたい。
  〔六〕 此の課にはmn〇三樣の音に注意が加へてある。
  〔七〕 唇・舌・後舌の三音に注意して、鼻音との關係を知らせ、また促音教授の基をも作っておく。
  〔八〕 練習用の單語はg 〇 の音に心をおいて選んであるが、此の「ガ」「カ」等の別は必ずしも嚴正にしなくてよいと思ふ。
  〔九〕●カ行音「ク」「キ」に終る字音語が、カ行音で始まる字音語に續いて熟語となったものは、「ク」「キ」の假名をそのまゝに書いて、促音によむことと定めた。
    ●末尾の圖は、「イッパ」「イッピ」「イッタ」「イッチ」等のごとく、促音がパ行・タ行・カ行・サ行・シャ行の音にのみかゝることを示したものである。
 〔一〇〕長短音の比較に注意する。
〔一一 一二〕●第一拗音中「エエ」、「オオ」の類は、本來の國音語において稀に用ひられるのみである。
    ●第二拗音は、外來語の發音を記す時のみ用ひることと定めておく。
    ●拗音における長短音の區別は殊に注意を要する。
 〔一三〕●國音語の轉呼音は、こゝには、ハ行のものだけに止めておく。
    ●漢字音語の轉呼音については、本校の教授上には、大體、轉呼的表音記法を許してゐるのであるから、從來慣用の記法は、こゝに參考のために、その數例を掲げてあるのだと考へて貰ひたい。
 〔一四〕●發音は既に教へてあるから、此處では、寧ろ字の書き方を教へながら音の練習をしたいのである。
    ●圏中に入れた「いろは」は必ずしもその順を讀みおぼえさせたり、歌意を授けたりする意味ではない。これは、五十音圖で、「そらよみ」にさせないため、發音練習の一種とする積りで參考にのせておいたのである。
    ●〔一四〕以下には發音のみの練習題が殆ど省いてあるが、片假名の例に倣って適宜にこれを課せられたい。
    ●練習の單語は既に片假名の所で教へたものを利用してゐるのである。まづ、讀方・發音の復習をして、後に、平假名で書かせたい。
〔一七 一八〕既に教へてある發音の特別練習で、拗音・鼻音・促音等をも含ませるのである。なるべく發音の圖解によつて反覆習熟させたいとおもふ。
〔一九 二〇〕直觀教授【直】の方面で反覆され、耳と口とをはたらかせた話し方に目をも加へて、第二篇に步を進めるのである。

第一篇 發音・假名

  昭和 七年十一月三十日 發行 【非賣品】
  昭和十一年 七月二十日 四版
     東京市神田區神保町二丁目廿番地三
  著者兼發行者 東亞學校

       

第二篇 短い句・日用語

  第二篇の教授に關して

一、會話・文法・書取・作文・講讀等の初階といふ本旨は、全部を通じて變らないのである。
一、本篇は、短い句の基本型と、日常の用語とを主眼としてあるので、入門書としての目的は、ほぼ、ここに盡きてゐると考へてもよいのである。
一、各課の期日は、目次にだけ掲げておいた。これは、教授者の考によって、目次にあるごとき題目を、便宜記入させられても構はないと考へる。
一、平常語體と敬語體との對照は、はやく、第十二課からはじめて居るが、本篇では、主として、敬語體の會話式を採って、其の間におのづと、平常語體を含ませた程度に止めておく。
 そして平常語體は、多く講讀式の形を採って、これを第三篇に譲ることとした。
一、毎課の末に附けた細字の部分は、練習用となり、かたはら、其の課の要領を示してゐるのである。それゆゑ、一々に練習題を揭げることをやめて、教授者自在の運用を希望して居るのである。
一、促音・拗音の假名は第一篇につゞいて、本篇の終までは、右傍に細書する形式を採った。
一、漢字音の假名遣には、大體において、表音的記法を採り、左傍に、歴史的の假名をも附けておいた。
  此の歴史的假名遣は、實用を希望するのではないが、本校の教科書に表音的假名遣を用ひるのは、暫く、入門書程度に止めておく考を以てしたのである。
一、本篇四十課の教授時數は少なくとも、五十時間以上を要するものと考へる。



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