蔵書目録

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『バレエ』 1号 橘秋子バレエ団 (1947.11)

2024年07月09日 | バレエ 2 エリアナ・パヴロワ、貝谷八百子他

   

  バレエ
   1号 橘秋子バレエ団
  
  魔の笛  川路柳虹
  
    忘れた笛は  魔の笛
      水色の空に
        小鳥を呼ぶ
    森の木がくれ
        泉のほとり
    小鳥は知らぬ
        夢を追ふ
  
   橘さんと「魔の笛」
          川路柳虹  
 最近バレエが盛んになつて來た事は大變喜はしい事だと思ひます。私も隨分バレエを見て來ました。バレエを見る人は多分誰でも感じると思ひますが、バレエの美しさの中に詩情が多分に含んでゐる事が一層私をバレエファンにしたのかも知れません。特に橘さんのバレエを見て居りますとその感が深く、詩の躍動を連想させ美しい世界に引込ませてくれます。
 今度私の詩を橘さんが振付をしたいと御話のあつた時、私は橘さんなら詩を生かし立派な美しい作品に作りあげてくれると樂しみにして居ります。「魔の笛」はごく輕い内容のもので「不思議な笛」とか「戀の笛」とかにしたかつた位でした。小鳥と少年のロマンチックな物語りから、人間純愛を描き出さうと意圖する橘さんの詩的抱負が期待され、作品の出來上るを樂しみにして居ります。
 橘さんもお一人で色々な意味で隨分苦勞された事と思ます。今後共バレエ界の爲日本人の作詞作曲になるものを起用して創作バレエをどしどし發表して頂き度いと思ひます。
   魔の笛梗概
 山深い泉のほとりに、小鳥好きの素朴な少年がありました。小鳥使ひの如く思ふまゝ小鳥とたわむれる事の出來ないのを平常大變悲しく思ひ、或時機を見て小鳥使ひの笛を手に入れました。少年の喜びはたとへ樣もなく、空に向ひ喜びの笛を吹くのでした。
 珍しい一羽の銀色の小鳥がその笛の音を聞いて舞ひ降りて來ました。少年と銀色の小鳥とは仲よしになり、遊びたわむれ、樂しい日が幾日も續きました。
 山の惡戯者の惡魔が突如現はれたので少年達は逃げ隱れたのでした。惡魔は其處に置き忘れた不思議な笛に依つて少年の愛せる銀色の小鳥を捕涯より落し傷けたのでした。何も知らぬ少年はもどり來りて笛を吹くのでしたが傷ついた小鳥は再び起つ事が出來ませんでした。 
 銀色の小鳥の影を追つて泉のほとりに佇む少年の心は、さびしくも亦あはれな姿でした。
 
   橘さんのバレエを見て
             武者小路實篤
 この地上で最も美しく、最も微妙に作られてゐるものは人体だと思ひます。神の姿を想像する時、東西共人体以上のものは考へ出せませんでした。高々羽を着けて見る場合も有りますが、最高の神の姿は人体以外ではなく、羽さへ着けてゐません。人体はそれ程人間にとつては最高の姿と思はれます。この人体を最も美しく生かして見せるのが、舞踊だと思ひます。僕は舞踊の事はよく知りませんが、舞踊が好きな事は人後に落ちないつもりです。最も美しい舞踊は、美の神秘の世界に我等を導くものと思ひます。
 さう言ふ意味で、僕は日本に美しい舞踊が生れて、我等を喜ばしてもらひたいと思つてゐます。それ丈け舞踊と言ふものは又大變なものだと思ひます。
 橘さん達に依つてバレエの基礎的訓練がどう言ふ風に行はれるかを知つて、この大變さを如實に知りました。何事も人並以上に圖抜けて進む事は大變な事だと思ひました一朝一夕ではものにならない。身体をきたえるにはそれ丈の工夫と努力が必要な事を今更に感じました。
 そしてその爲に努力する人々に感心しました。暑い最中でも。寒い最中でも、藝に身を入れてゐる時は、暑さ寒さも忘れる程眞劒になつてゐるのに感心しました。この努力に依つて、ものになるのだと思ひます。委しくは他の人から説明があると思ふので、僕は何事も結果に相當する苦心と努力が拂はれてゐる事に感心した事を話し、益々良き結果を得られる樣努力を望む次第です。橘さんにはいゝ後繼者があるのもこの際お喜び申したいと思ひます。何事も努力であり、勉強であり、根氣であると思ひます。どうぞ立派なバレエを日本でも見られる樣、益々御骨折り願ひます。

   帝都座出演に際して
           橘秋子  
 最近バレエが一般に認識され各所で公演が持たれる樣になりました事はバレエ界の爲は勿論文化日本建設の爲にも大變喜ばしい事で御座ゐます。然し未だいずれも或特種の觀客しか把握して居らない感が多々あります事は大變殘念な事で御座ゐます。將來はもつと大衆に近ずき親しまれなければならないと思はれますので、その意味に於きまして今回は街中の小劇場に獨立公演を試み大衆に親しまれ理解出來るバレエを上演致すべく計劃してみました。今後も發表會とは別個にどし〱かゝる小劇場公演を致して參り度いと存じます。
 バレエ藝術も一般の人達の高峯の花でなくあく迄も大衆と共にあつてこそ始めて文化日本のバレエ發展が望まれる事と存じます。
 今回はその試石としての企劃で御座ゐます故何卒御聲援の程御願ひ致します。
 尚今回の「魔の笛」上演に際しては川路柳虹先生始め諸先生の  絕大なる御支援を深謝致します。
               (二二・一一・一五 稽古場にて) 
  
   プログラム 〔下はその演目、詳細は写真参照〕 
    一部
 一、野ばらの夢(ウエバー曲) 
 二、ミヌエット(ボッケリニー曲) 
 三、蝶と蜂(ドヴルザーク曲)
 四、ハンガリアン舞曲(五番)(ブラームス曲)
 五、トンボ(ショパン曲)
 六、アニトラの踊(グリーク曲)
    二部
   獨唱
    三部
 川路柳虹原案
   魔の笛(ショパン曲)  
  
  橘秋子後援會に就て
 今回帝都座公演を機會に橘秋子後援會を結成致し得ました事は長くバレエ界に地道にバレエ運動を行つて參りました橘秋子さんの爲又將來のバレエ界の爲喜びにたえません。
 先般七月末日日比谷公會堂に於て終戰後第一回公演を開催致しました際は主催者側の種々の手違ひから橘さん直接の後援者各位に對しても連絡不充分であつた事を御詑び申上げます。
 橘さんは御存知の如く故パブロバ師に就かれ本格的バレエを修業され其後獨立して約廿年益々圓熟せる舞踊家としてバレエに精進して居りますが、今後は後進の指導ばかりでなく再び第一線に立つて大いに活躍して頂き度く然も現在迄唯一人歩んで來られた苦難の道を今後は後援會に依り少しづゝなりと皆で力になり直接間接激勵し橘さんのより良き後援者となり、さらに一歩進んでバレエ發展の爲將又新日本文化建設の爲の一助ともなれば幸と存じます。
 その意味に於きまして未知旣知を問はず後援會會友を一人でも多く御誘ひ下さる樣御願ひ申上げます。
   昭和廿ニ年十一月十日
        發起人〔イロハ順〕
               川路柳虹  
               ナデシタ・パブロバ
               武者小路實篤
               靑木得三
   
  第一回公演記錄
     昭和廿二年七月廿九日    於 日比谷公會堂
      主催    東京バレエ協會
      後援    日刊スポーツ社
            都敎職員組合  
   プログラム
     第一部
 挨拶          武者小路實篤  
 解説付第一次基本練習  橘秋子バレエ團 
 歌謠曲         ビクター専屬歌手
 合唱          明星混聲合唱團
     第二部
 一、ハンガリアン・ダンス
 二、追憶
 三、南國の夜
 四、蟻と蜂
 五、ヂプシーの悲哀
 六、モーメント・ミュジカル
 七、野バラの夢
 八、山の唄  
 九、ボレロ
 十、ハンガリアン・ラブソデー
    伴奏 ビクター ソフィスケイ ケース
  
  客席 〔下は、その一部〕
  
 ベビーバレエ團を主宰する福田阿佐美ちゃん最近の進歩は目覺ましいもので周囲の者が舞台を見る毎に驚いてゐる。あの踊り振りはどう見ても十四歳の少女とは思へない。是非あのまゝ素直に、延び々々と育つてもらひ度いものだ。阿佐美ちゃんこそ十年後の日本バレエ界を風靡する事だらう。期待してゐる。



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