私の住んでいるところは海浜を埋め立てた造成地です。中心部を高層住宅群が、その周りを中層住宅群が、さらに外側を戸建て住宅群が順に囲むという、大規模なニュータウンによく見かける住宅構成となっています。地域全体に公園を多数配置し、中央に遊歩道を通して緑を多くしてあり、あたかも地域全体が公園のような景観を呈しています。
この地域に限ってのことですが、ゴミ収集には地下にパイプラインを埋設した吸引収集システムが採用されています。元々が埋立地の住宅地ですから、常時ゴミ出しができる利便性をダシに住民を高・中層住宅群に呼び寄せようとしたのがそもそもの発想だったそうです。
全国的に見ても斬新な試みだったのですが、このゴミ収集システムの大部分は供用開始から40 年近く経過し、パイプラインの老朽化がかなり進みました。システムを維持継続するには何百億円という莫大な経費が見込まれ、さすがに行政側から廃止の声が上がりました。
ゴミ出しの利便性が損なわれるので、住民側としてはこれに反対するのは当然です。特に高層住宅の住民にとっては死活問題で、常時ゴミ出しができなくなれば容易くスラム化する恐れが大なのです。他方、戸建て住宅地区にとっては大した問題ではなく、ゴミ出し場のカラス対策さえ万全であればいいはずです(つまりこの地区はオマケ)。私個人としても、道で拾い集めたゴミを処分できなくなる恐れがあり、放っては置けない問題でした。
こんな事情から行政 ― 住民代表間の協議会が設けられました。ほぼ1年で12回の会合を経て、今後20年間は存続させるという中間報告がまとまったばかりです。私は第3回目の会合から傍聴者として参加しています。
* * * * *
ついこの間、この協議会を傍聴した日のことです。このところ傍聴席からの発言が多く、会議の進行がその都度横道に逸れることが続いていました。この日も同じような成り行きで、戸建て住宅地区の住民2人が発言を繰り返していました。戸建ての住民だけあって、いかにも社会的地位のある高額所得者然とした風貌をしていました。
発言内容はと言えば、「海外駐在で見知った外国のシステムがよかったので、それを導入しては・・・」、あるいは「車で乗り付けて来る部外者が投入口の鍵を持っていて、どうやら不法投棄らしい・・・」という類い。どうみても議題からズレた興味本位の発言で、代り番こに “上から目線” で意気揚々と発言を楽しんでいるふうでした。住民のエゴが出るのはある程度仕方ないとしても、緊急性も真剣味もない発言というのは言語道断です。
会の終了間際、司会者が「他に何かご意見はありませんか?」という形式的な締めの発言があったので、私はすかさず挙手をして発言を求めました。
「今日に限らないのですが、このところ傍聴席からの不規則発言が多くなっています。会議運営のルールが変わったのでしょうか? 私が初めてこの会に参加したのは第3回目の会合で、そのとき不用意にも発言を求めてしまったのですが、ルールだから傍聴席からの発言は認めないとハッキリ言われました。その一言で私は納得しました。もし傍聴者に意見があるのなら、先ず正式メンバーの委員にそれを伝え、委員を通して諮ってもらうのが本来の筋だと思うのですが?」
すると会議中いつも何かと口を挟みたがる委員がこんなふうな発言をしました。この委員は戸建て住宅地区の住民代表です。
「仰ることはごもっともなんですが、傍聴席の方にも傾聴すべきご意見があるはずで、それを聞かないというのも大人気ないと言うか、、、できるだけ貴重なご意見は聞いておくと言うのが・・・」。
初めは顔に笑みを作っていた私ですが、これを聞いているうちに段々顔が強ばって来るのがわかりました。この委員の発言は、どんなに贔屓目に見ても何ら建設的ではなく、単に一言居士特有の八方美人的なものだったのです。
気まずくなった空気を察して司会をしていた行政側が助け船を出してくれました。
「われわれ行政の立場からすれば、傍聴席からの発言は許されない、というのが原則でして。ですから議事の進行状況に応じてですね、時間があれば司会者がその都度対応を決めるということでどうでしょう。」この当り前の一言でその場が治りました。
閉会後、会議室を出た私を住民側代表の委員長が追いかけてきました。
「いやぁ、よく言ってくれました。あれぐらい言っていいんです。放っておけば好き勝手を言うばかり。あんな調子でやられて、私なんか住民の同意を得るのに3ヵ月もかかったんですよ。民主主義というものは実に手間暇かかるものだと半分ウンザリしています。」
この委員長は私の好きな現場重視の人物で現実主義者です。行政側との協議に際して彼の採った手法は、現場の現況分析から始めて問題点を抉り出し、それを基に解決策を探るという合理的なものでした。今後20年間は存続させるという中間報告をまとめたのも彼です。もっとも、その中間報告をまとめるという協議会の当日でさえ異論を述べた委員がいたのですが・・・。まさに住民代表として打って付けと、彼への信頼感は増すばかりなのです。ちなみに彼は高層住宅の住民です。
私が敢えて発言を求めたのは、実はこの委員長の心中を推し量ってのことでもありました。合理主義者の彼は不規則発言を苦々しく思っていたようですが、司会者でもない彼には注意したくともできなかったのです。それなら代わりに私がと、思い余っての発言だったのです。
私としては、今後のことを考えた上での義憤からやったつもりだったのですが、ひょっとして戸建ての住民への “ひがみ” からだったのでしょうか?
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この地域に限ってのことですが、ゴミ収集には地下にパイプラインを埋設した吸引収集システムが採用されています。元々が埋立地の住宅地ですから、常時ゴミ出しができる利便性をダシに住民を高・中層住宅群に呼び寄せようとしたのがそもそもの発想だったそうです。
全国的に見ても斬新な試みだったのですが、このゴミ収集システムの大部分は供用開始から40 年近く経過し、パイプラインの老朽化がかなり進みました。システムを維持継続するには何百億円という莫大な経費が見込まれ、さすがに行政側から廃止の声が上がりました。
ゴミ出しの利便性が損なわれるので、住民側としてはこれに反対するのは当然です。特に高層住宅の住民にとっては死活問題で、常時ゴミ出しができなくなれば容易くスラム化する恐れが大なのです。他方、戸建て住宅地区にとっては大した問題ではなく、ゴミ出し場のカラス対策さえ万全であればいいはずです(つまりこの地区はオマケ)。私個人としても、道で拾い集めたゴミを処分できなくなる恐れがあり、放っては置けない問題でした。
こんな事情から行政 ― 住民代表間の協議会が設けられました。ほぼ1年で12回の会合を経て、今後20年間は存続させるという中間報告がまとまったばかりです。私は第3回目の会合から傍聴者として参加しています。
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ついこの間、この協議会を傍聴した日のことです。このところ傍聴席からの発言が多く、会議の進行がその都度横道に逸れることが続いていました。この日も同じような成り行きで、戸建て住宅地区の住民2人が発言を繰り返していました。戸建ての住民だけあって、いかにも社会的地位のある高額所得者然とした風貌をしていました。
発言内容はと言えば、「海外駐在で見知った外国のシステムがよかったので、それを導入しては・・・」、あるいは「車で乗り付けて来る部外者が投入口の鍵を持っていて、どうやら不法投棄らしい・・・」という類い。どうみても議題からズレた興味本位の発言で、代り番こに “上から目線” で意気揚々と発言を楽しんでいるふうでした。住民のエゴが出るのはある程度仕方ないとしても、緊急性も真剣味もない発言というのは言語道断です。
会の終了間際、司会者が「他に何かご意見はありませんか?」という形式的な締めの発言があったので、私はすかさず挙手をして発言を求めました。
「今日に限らないのですが、このところ傍聴席からの不規則発言が多くなっています。会議運営のルールが変わったのでしょうか? 私が初めてこの会に参加したのは第3回目の会合で、そのとき不用意にも発言を求めてしまったのですが、ルールだから傍聴席からの発言は認めないとハッキリ言われました。その一言で私は納得しました。もし傍聴者に意見があるのなら、先ず正式メンバーの委員にそれを伝え、委員を通して諮ってもらうのが本来の筋だと思うのですが?」
すると会議中いつも何かと口を挟みたがる委員がこんなふうな発言をしました。この委員は戸建て住宅地区の住民代表です。
「仰ることはごもっともなんですが、傍聴席の方にも傾聴すべきご意見があるはずで、それを聞かないというのも大人気ないと言うか、、、できるだけ貴重なご意見は聞いておくと言うのが・・・」。
初めは顔に笑みを作っていた私ですが、これを聞いているうちに段々顔が強ばって来るのがわかりました。この委員の発言は、どんなに贔屓目に見ても何ら建設的ではなく、単に一言居士特有の八方美人的なものだったのです。
気まずくなった空気を察して司会をしていた行政側が助け船を出してくれました。
「われわれ行政の立場からすれば、傍聴席からの発言は許されない、というのが原則でして。ですから議事の進行状況に応じてですね、時間があれば司会者がその都度対応を決めるということでどうでしょう。」この当り前の一言でその場が治りました。
閉会後、会議室を出た私を住民側代表の委員長が追いかけてきました。
「いやぁ、よく言ってくれました。あれぐらい言っていいんです。放っておけば好き勝手を言うばかり。あんな調子でやられて、私なんか住民の同意を得るのに3ヵ月もかかったんですよ。民主主義というものは実に手間暇かかるものだと半分ウンザリしています。」
この委員長は私の好きな現場重視の人物で現実主義者です。行政側との協議に際して彼の採った手法は、現場の現況分析から始めて問題点を抉り出し、それを基に解決策を探るという合理的なものでした。今後20年間は存続させるという中間報告をまとめたのも彼です。もっとも、その中間報告をまとめるという協議会の当日でさえ異論を述べた委員がいたのですが・・・。まさに住民代表として打って付けと、彼への信頼感は増すばかりなのです。ちなみに彼は高層住宅の住民です。
私が敢えて発言を求めたのは、実はこの委員長の心中を推し量ってのことでもありました。合理主義者の彼は不規則発言を苦々しく思っていたようですが、司会者でもない彼には注意したくともできなかったのです。それなら代わりに私がと、思い余っての発言だったのです。
私としては、今後のことを考えた上での義憤からやったつもりだったのですが、ひょっとして戸建ての住民への “ひがみ” からだったのでしょうか?
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