ぶきっちょハンドメイド 改 セキララ造影CT

ほぼ毎週、主に大人の童話を書いています。それは私にとってストリップよりストリップ。そして造影剤の排出にも似ています。

楽園ーPの物語ーHoney Days

2021-09-10 22:01:32 | 大人の童話
 ファナは可愛かった。 
 実際、サキシアは目の中に中指を入れられたが、痛むどころかファナが手を伸ばせたことを喜んだ。
 鳥達は子守唄を覚えてあやしてくれるし、ギャンも家にいれば世話をする。
 アルムも時間を作ってはやって来て、手伝ってくれる。
 それでもサキシアは、頻繁にファナに困らせられたが、堪らない愛しさが、際限なく込み上げてくるのだ。
 おむつを洗うことさえ、嬉しかった。
 中でも乳をやる時間は至福だ。
 大きな力に満たされるような、包み込まれるような、不思議な感覚だ。
 サキシアは、ファナを可愛がるすべての者に感謝し、連帯感を強めた。
 中でもファナを授けてくれたギャンに対する愛情は、より一層深まった。

「うーん。やっぱり駄目だわ」
 サキシアが台所で呟いた。
 子供の預かり所は、店の近くの借家で半ば独立させ、ギャンとサキシアは工場担当になっていた。
 サキシアは工場の賄いを作りながら、変わり織りの工夫を続けていたが、一つ、懸案があった。
 それは『トゲトゲの』の葉と茎、、そして花の活用法だった。
 何故かあまり色が出ず、全て肥料にするには惜しい。
 サキシアは刺を丹念に擦り落とし、煮てみたが、あまりの渋さに口の中がしわしわになりそうだった。
 何度も酢でアク抜きしても、効果はなく、重曹でも試してみたが、、さほど変わりは無かったのだ。
「あんまり頑張り過ぎないでね。家のことだけでも大変なのに、工場のお昼まで作ってるんだから」
 ファナを抱きながら、ギャンが入って来た。
 右肩にはピール、左肩にはぺルルが乗っている。
 肩を補強したベストは、サキシアとお揃いだ。
「私が言い出したことだもの。近くにご飯屋さんもないし、工員の人達との接点になるし」
 振り向きながらサキシアが答える。
「そういえばタオが喜んでた。落ち込んでたから、故郷のお菓子に励まされたって。分かってて出してあげたの?」
「あの辺りは魚の古漬けも有名なんだけど、二ヶ月は・・・あ、漬け物!」
 サキシアが頷きながら小さく叫んだ。
 肩に止まろうとしていたパールが、驚いて飛び上がる。
「漬け物がどうしたの?」
 ギャンが上体を少し引いて尋ねる。
「味も変わるし、毒が消えることもあるのよ。次はそれを試すわ」
 サキシアがにっこりと笑った。
 
 夜中、ファナがぐずり出すと同時に、サキシアは目を覚ました。 
 こっそりと起き出して、ベビーベッドの足元に立つ。
 月明かりで、手早くおむつを取り替えると、ファナを抱えてベッドに戻り、乳を含ませた。 
 至福の時間ではあるが、至福の睡魔も襲ってくる。
 そのまま流れるように眠りに落ちた。
 頃合いを見計らい、隣のベッドでギャンが起き上がった。
 熟睡しているファナを抱き上げ、ふわふわの頬にキスをして、ベビーベッドに静かに寝かせる。
 サキシアの寝巻きの胸元を整え、布団も掛け直した。
 うっすらと唇を開けた寝顔を、蕩けるような目で、暫く見詰める。
 やがてサキシアの額に触れないキスをして、ギャンは幸福な眠りについた。
 
 サキシアの閃きは当たった。
 葉と刺は柔らかくなり、茎は萎れて硬くなっていく。
 渋味は一月で減り始め、二月で旨味が出始めた。
 三月で渋味はほぼ無くなって、旨味の塊のような味に変わった。
 そのままスープや煮物に入れると、一味も二味も違う。
 水で戻せば、炒め物にもなった。
 賄いに使っても大好評で、好みの別れるものでもないらしい。
 花は旨味が薄かったが、塩抜きをしてよく干すと、華やかな香りが立つお茶になった。 
 サキシアは賄いの後片付けを終えると、ファナを背負った。
 いつもの皮袋と、漬け物とお茶を入れた袋を二組、手に下げる。
 アルムとメイに持っていくのだ。
 メイは仕事に行ってるだろうが、自宅では足の悪い父親が籠を編んでいる筈だ。
 扉を開けると、冬の日射しが暖かく、顔を照らした。
「お店に行くわよ」
振り向いて声を掛けると、鳥達が飛んで来た。
 サキシアの右肩にはパールが、、左肩にはファナべったりのぺルルが止まる。
 雄のピールはわりと自由で、森へと向かった。
 弱い向かい風を、全身で心地よく感じながら、サキシアは歩いて行った。
「そろそろね」
パールが話し掛ける。
「そうね」
サキシアが答える。
背中が軽く汗ばんできた頃、サキシアは仕立て店に着いた。
 裏口から入ると、お針子達に声を掛け、アルムを呼んだ。
「まあいらっしゃい。ちょっと待ってね。今店番を代わってもらうから。一緒に家でお茶しましょう」
 そして不思議そうに、サキシアの顔を見詰める。
「あら、青が薄くなったんじゃない?」